出来事の波紋

帰り道の電車の中で、カバンに入っているイヤホンを取り出す。音楽を聴こうと思ったら数秒で聴こえなくなったのは電源が切れたから。そういう日に限って本を持って来ていない日で急に手持ち無沙汰になる。あと30分ばかり、車内の様子を眺めようと決める。
夜の、多くの人が家に帰ろうとする時間。車内はかなり混んでいた。
両隣の人はスマホを見ていて、目の前の人は本を読んでいて、私は目の前の真っ暗な窓に映る自分の姿を見るしかない。
インスタを見ている人、動画を見ている人、私もスマホを取り出し、いろいろ一通り確認してみる。

あまり見覚えのない人から連絡が来ていた。
昔の知り合い、何年も前の友達、いまはどこにいて何をしているのかすら知らない人。その人から連絡が来ていた。
きっと私の連絡先がそのまま残っていて、なにかがあって連絡してきているのだ。いったんスマホをしまい、どういうことなんだろうと考える。いくつかの選択肢を考える。返信しない。相手はこの連絡が届いているのかわからないのだから、返さなくてもわからないだろう。そう思うのは、いまの生活に不要な波風を立たせたくないから。なにかしたくないことをしなければいけない状況になるのを避けたいと思う気持ちから。
もうひとつは、連絡を返すこと。波風のなかにいったん身を置いてみること。何が起きるかわからないけれど、それを面白いと思う自分も確かにいた。窓に映る自分の姿を見るともなく見て、気づけば両隣のスマホを見る人達はいなくなっていた。

再びスマホを取り出して、メッセージを見る。
返すことにした。当たり障りのない返信を打つ、送る。

この、不意に起きたできごとと小さな選択がさらにいくつもの出来事が起きるきっかけになり波紋を重ねていくことになる。


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