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歩いていて

雨が降り出す。傘をさすまでもないかな、と思っていると強くなる。
もうちょっと大丈夫だろう。
傘を持っているのにさすのをためらうときがある。
理由はない。
ただ、そんな気持ちのときがある。
さっさとさせば濡れないのに。濡れてもいいやと思うときがある。

雨が降りそうなことを知っているのに、ちょっと散歩に出掛けて、
案の定、帰り際にザーザー降りになってしまって。
さすがにこの中をびしゃびしゃに濡れながら歩いて帰るにはちょっと距離があるなと躊躇してしまう。幸運なことに公園が近くにあって、大きな欅の木があった。
雨は止まないけれど、欅の木の下にいれば少しは濡れないでしのげた。

人通りは少ないけれど、ときどき通り過ぎる人は私に気づいたり気づかなかったり。気づいた人はちょっと視線を向けたら元通り歩いていく。
それで良いのです。どうか私のことは見ないで気にしないで。
そんな気持ちを体中から発散しているからか、気にしないでくれていた。

雨が降っているのに、傘も持たずに木の下で、雨の音だけ聞こえる。
雨宿り。
当たり前に雨は降るけれど、意外と雨宿りすることはない。
どこか、お店に入ってしまえば雨が止むまでそこにいればいいし、コンビニに行ってビニール傘を買えばいいし。そんな風に雨を過ごしてきた。でも、その日はそのどちらもする気が起きなくて、ただただ雨が止むまで欅の木の下で待っていた。

ざーざー降って、ぴたぴた土に注いで、ぴしゃぴしゃ落ち葉を弾いて、ただただそんな音を聞いて、見ていた。私は一人で、この雨が止んだら歩いて帰って、東京で一人暮らし。傘も持たずに一人で歩いて、雨に降られることも恐るるに足りなくなった。

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