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【発酵紀行番外編】 クラフトサケとお燗酒と、ハンバーガーへの帰り道

東京の実家で、山梨への旅の準備をしていた。

山梨への旅は、3月以来の2度目。目的地は前回と違うも、行ってみようじゃぁないかと、いつもは重い腰がひょいと上がったのは前回と同じ。

正午に家を出て、2時間半かけ甲府へゆく。

甲府へ向かうバスの車窓からの景色は見応えがあった。小さな山が連なり、それらの間を這うように家が集まっている。小川の流れに沿ってかたちづくられた田んぼには、収穫にはまだ早い稲穂が見事な黄緑色に染まっている。
高速道路をおりると、葡萄畑があちらこちらに見えてくる。葡萄の房は、白い袋でおおわれている。食欲の秋、おいしい秋がまたやってくる。

甲府にて

甲府駅に到着するころ、時刻は午後の3時を回っていた。宿のチェックインを済ませ、荷物を置いて途中で買ったおにぎりを片手に小休憩。

4時半頃に宿を出て、「発酵酒場かえるのより道」へ向かう。
今回の旅の目的は、選りすぐられた日本酒と、秋田は男鹿(おが)の「稲とアガベ醸造所」で醸造されているクラフトサケ*を飲むこと。そして、そこに集う人々に触れ、その空間を味わうこと。

クラフトサケ*とは、
日本酒の製造技術をベースとしたお酒、または、そこに副原料を入れることで新しい味わいを目指した新ジャンルのお酒

イネとアガベ醸造所 公式HPより

訪ねた頃にはすでに数名のお客は酒を嗜んでいた。私もチケットを購入し、男鹿からやってきた稲とアガベ醸造所の冷酒を選ぶ。グラスを片手にスタンディングで数種類をいただきながら、稲とアガベ醸造所の代表岡住さんの会社設立の背景や酒造りへの考え方をみんなできいた。

隣に立っていた2人組のおねえさんたちと会話が弾み、カウンターに座って熱燗を共に呑む。
お燗は、「熱燗DJつけたろう」さんが、それぞれの日本酒に最適な温度帯でつけてくれる。
日本酒に造詣の深い造り手に、つける人、日本酒と食を愛する飲み手に囲まれて呑む酒は美味い。舌が育てられている(と信じたい)。
19時頃には、8席ほどあるカウンターは埋まっていた。私を抜いてみな山梨の顔なじみだという。仕切り直してみんなで乾杯。3月に甲府へやってきた際訪ねた五味醤油の洋子さんとも偶然の再会を果たした。

数人で1合を分け合い、いくつもの種類の酒をお燗で楽しむ。冷と燗で飲み比べる。味わいの違いがわからない私は、先輩たちの感想を聞いて、また酒を口に含む。しかし、うまいものはうまい。そのうちに、味の違いは放っておいて、うまいうまいと呑んでいた。

おつまみプレートを食べながら、目の前でお燗を作ってもらう。
「発酵酒場かえるのより道」さんの作る料理は、発酵調味料を活用したものが多く、ここでごはんとお酒を飲むと身体の調子が良くなると五味さんは言う。

閉店まで楽しんだあとは、ワインバーへ連れられた。甲州ぶどうを使った白ワインをグラス2杯いただいた頃には、23時を回っていた(良い思い出がないワインへの私の消極的な態度が、この夜で一変した話は、またいつか)。

翌朝は8時頃に起床し、稲とアガベ醸造所の代表岡住(おかずみ)さんとともに五味さんの味噌工場を見学した。150年余の歴史をもつ五味醤油は現在は甲州味噌のみ醸造しており、毎年開催している味噌づくり教室には想像以上の数の人々が参加しているらしい。工場の製麹(せいぎく)場は麹(こうじ)のあまい香りが漂い、使用している道具や建物の大きさ、色合い、構造は味わい深い。

そして、稲とアガベ醸造所の代表岡住さんの酒造りの語りもとても惹き込まれた。問題意識や会社の設立背景や理念など…。男鹿をたずねる約束をして、別れた。うまい鰻を食べに行くらしい。(稲とアガベ醸造所の美しいHPも、ぜひごらんください。)

ハンバーガーへの帰り道

五味醤油から歩いて10分ほど、裏路地にある1階がカフェ&バー、2階がお宿の「NAP bed and lounge」へ足を運ぶ。
五味醬油からNAP bed and loungeへの流れは3月ぶりの2度目。
路地の入口は、大通りに面するミシン販売店の建物の影に隠れている。何も知らずに足を踏み入れるには少々勇気がいるかもしれない。立ち並ぶ店は、昔の飲み屋街のような雰囲気だ。店の横幅は狭く、店同士の隙間はほぼない。懐かしさをかんじる裏路地だ。

カウンターに座り、挨拶を二言ほどで終えると、店主は店の厨房に消えた。目の前の棚には、空のクラフトビール缶が秩序を少し乱して並べられている。ビール缶に囲まれているのは、小さなテレビ画面。昔のアメリカSFファンタジー映画が流れている。音のない画面をながめていると、ハンバーガーができあがるのだ。
カウンターに座っている男性客は、豪快にハンバーガーにかぶりつき、きれいに整えられた髭を汚している。うまいだろう、うまいだろう。
私も真似て夢中で口周りを汚した。

「WHITE BURGER」
マヨネーズと粒マスタードベースの自家製ソースたっぷりのホワイトバーガー。
ワイン造りで出るブドウの種や皮を含むえさを食べて育った牛の肉100%のパテは、厚くて大きいわりにとても食べやすい。

食べている途中、あの日も同じハンバーガーを頼んだことを思い出した。
3月初旬、八ヶ岳の友人をたずね、休学を決意して下山した日。発酵文化を広める活動に取り組んでいる五味醤油をたずね、その際に五味さんに勧められたNAPへ昼食を食べに訪れた。
当時の客は私1人で、カウンターに座るとメニューを差し出された。ホワイトバーガーを注文すると、店主はすぐに厨房へ下がった。ぼーっとテレビ画面をながめて、バーガーにかぶりついて、会計をした。あまりにもおいしいものだから、いやぁ、おいしかったです。本当にいくらでも食べられると思ってしまいました。と言うと、店主の目元がほほえんだ。ことば少なにも店主はとても聞き上手で、会計の短い間にぽつぽつと会話をした。またいつでもおいで、いってらっしゃいと見送られた春。
そして今日も、ホワイトバーガーにかぶりつく。うまい。うまい。

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