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ブルノ滞在日記20 休息日

今朝は6時に起床。長旅とトンダの子守りで疲れていたのかぐっすり眠ることができた。朝食をとって夫と電話する。夫は体調を持ち直して、久しぶりに高校時代の友人に会うことができたらしい。よかった。

子守り疲れだろうか、今日は身体が重かった。ヨガをして薬を飲んで、溜まっていたメールの返信をしていたら、メールの文面が書けなくなるほどの眠気が襲ってきたので、再度ベッドに横になった。2日間手伝っただけでこうなのだから、子育て中のお父さんお母さんには本当に頭が上がらない。もちろん時間が経つにつれて慣れてはくるのだろうけれど、仕事をしながらの育児も、ワンオペでの家事育児も、わたしには到底可能であるとは思えない。

わたしの母は日常的に子どもに暴力を振るう親だった。とはいえそれは、身体中に青痣が残るほど子どもを殴ったり、ネグレクトをしたりといった極端なものでもなかった。そのため、わたしは長らく「うちは他の家よりちょっとしつけが厳しかったのだ」と思いこんでいた。結婚する前、今の夫と一緒に実親との関係について市役所に相談にのってもらいに行った。その際、市の人権委員の方に言われて初めて「自分が受けていたのは虐待だったのだ」と気づいた。彼女がわたしに対してしたことを許そうとは全く思わない。けれども、当時の彼女が自分の子どもに手をあげてしまった精神状態は理解できなくもない。ワンオペ家事育児で精神的にも肉体的にも追い詰めらている人が、自分より弱い(上に、全く自分の思い通りにならない)者をストレスの吐け口にしてしまうのは、(本当は絶対にあってはいけないが)無理のないことであるようにも思う(このテーマは、岸本愉香との演劇ユニット「移動祝祭日」のYouTube朗読動画の1シーンのなかで扱っている)。親だって人間であり、動物なのだ。だからこそ、暴力が生まれるずっと前に、十分な精神的・経済的支援が施される必要がある。日本の政治家は、もう少しチェコを見習って子育て世代への支援を充実させてほしい。そうでなければ、親の心身も子どもの心身も健康を保つことはできないだろう。

昼過ぎに最寄りのスーパーに買い物に行って、家で軽い昼食を済ませ、再びベッドに横になったが、なかなか眠れそうになかった。仕方なく起きて、コーヒーを飲みながらチェコ文学センターから依頼されたブログ記事の続きに取り掛かる。スペース込みで2000字から4000字という指定に、最初はそんなにたくさん書けるかしらと思っていたのだが、結局書きたかったことの半分くらいを削ることになりそうだ。欧文で文章を頼まれるときは、語数やページ数で指定されることが多いので、字数指定だとイメージが湧きにくい。さようなら、せっかく書いたいい感じの文章達……。しかしこれで文章は厳選されたはずである。まだ最後まで書き終えてはいないが。

今日は一日中暖かくて天気がよかった。日が暮れた今でも、外では鳥が囀っている。実は3月2日にブルノに到着してから雨に降られていない。それをチェコ人に言うと、「あなたはラッキーかもしれないけれど、こっちは水不足が心配だよ」と返されるが。うつ病にこそなったものの、パンデミックが治りつつある瞬間にこうして助成金をもらってチェコに渡航できたし、渡航先で思う存分休養をとったり調査したりできた。お陰で、うつ病も治りつつある。このまま感染状況がおさまってくれれば、帰国後の隔離措置もなく、公共交通機関で家に帰ることができるだろう。関空に着いてすぐに夫に会うことができるだろう。もちろんPCR検査で陽性がでなければの話だから、引き続き注意をするつもりだけれど。

チェコでの滞在もカウントダウンに入った。そろそろ4月以降の日本での仕事のやりとりを始めている。チェコで生活してみて分かったのは、わたしがうつ病になったのは、単に自分が賃金労働でストレスを溜め込んだことだけが原因ではないということだ。日本では多くの労働者が、自分や自分の自由時間を犠牲にして過剰な労働を引き受けざるを得ない状況にある。また、少し上の世代になると、それを美徳とみなしている人も少なくない(いや、同世代の中にもそういう人は少なくないのかもしれない)。そうして生成される日本社会の雰囲気全体に、わたしの心と身体はアレルギーを起こしたのだと思う。

来年度は賃金労働を最小限度に減らした。それで生活が成り立つだろうか、という心配はもちろんある。けれども、わたしにはやりたいことがあるし、それを犠牲にして生きることは、自分のためにも他人(特に若い世代の人たち)のためにも良いことではないと思う。自分自身も働きすぎないようにしたいし、働きすぎの人には「働きすぎないでほしい」「ちゃんと休みをとってほしい」「ちゃんと自分の人生を楽しんでほしい」と積極的に伝えていきたい。チェコでそれが可能なのだから、日本でだってできないことはないはずだ。そう信じている。

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