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2時間ドラマの犯人が断崖絶壁で罪を告白する理由

「2時間サスペンスのクライマックスシーンといえば、断崖絶壁」というイメージ、ありませんか?
実は、あれには原型となる作品があるんです。
松本清張の小説『ゼロの焦点』を原作に1961年に制作された映画でして、この作品内の、能登のヤセの断崖で撮影されたシーンが2時間ドラマの”お約束”のもとになっているんですよね。

時代劇ドラマも、お約束シーンがあるものが多いですね。
遠山の金さんが桜吹雪の入れ墨をジャジャーンと見せるとか、桃太郎侍の「ひとぉーつ、人の世の生き血をすすり……」というセリフとか。
私の脚本の師匠はその昔、水戸黄門の脚本を書いていて、
「黄門様が印籠を出さずに事件を解決する回を書く!」
と言い張り、プロデューサーの反対を押し切って実現させたことがあるそうです。
その結果は……
視聴率がガタ落ちしてこっぴどく叱られ、「印籠を出さない黄門様」はもう二度と書くことができなかったとか。

視聴者の年齢層が高いドラマは、斬新な展開より、「いつも通りの定番のものが見たい」という傾向が強いんですかね。
そういえば私の父も、かつてはカーアクション満載!とか、火薬がドッカンドッカン爆発しまくっている系の映画が好みだったのに、七十を過ぎたら夕方の水戸黄門再放送を楽しみにするようになりました。

一方、母はというと長年のイチオシドラマは『渡る世間は鬼ばかり』。
とにかく、これ一択です。
レギュラー放送がなくなってからも、年に1回ぐらいのスペシャル版を楽しみにしています。
母の周囲に限定すると、『渡鬼』は視聴率100%なんだそうです。
近所の仲のいい奥さんたちも、習い事の友だちも、同級生も、「とにかく全員見てる」とのこと。
長年『渡鬼』をお書きになっている橋田壽賀子先生にはリスペクトしか感じません。

『渡鬼』というと長セリフが名物で、「今は登場人物の誰がどんな問題を起こしていて、そのことが誰にどう影響しているのか」といったことをセリフできっちり分からせてくれます。
これは、「ターゲットである主婦の皆さんは、テレビの前にじっと座って画面に集中し続けるのが難しい」ということへの橋田先生の配慮だそうです。
途中で洗濯物を畳んだり、旦那さんに言われてお茶を淹れに行ったりして、画面を見ていない時間があったとしても、ちゃんとストーリーについて来られるようになっているわけですね。

同じような話は、今はなき「奥さま向け昼の帯ドラマ」を書いたことがあるという先輩脚本家からも聞いたことがあります。
耳で聞いているだけで、なるべくストーリーが追えるように書くのだそうで、これはもう脚本家の中でも”その道の専門家”でなくてはできない技ではないかと思います。
そうは言っても、「ここだけは見逃さないでほしい!ちゃんと画面に注目して!」というシーンは存在するわけで、その場合は脚本上どうするかというと、
「雷を鳴らす」
というテクニックがあったとか。
例えばアイロンがけをしている最中でも、テレビから「ガラガラドーン!」と大きな音がしたら、思わず画面を見ますよね。
その直後に「絶対見逃さないでほしいシーン」を入れ込むんだそうです。

……ということで、本日はちょっといつもと違うノリで、ドラマ界のお約束について書いてみました。
もし「ドラマや映画について、こんな話も聞いてみたい」というリクエストがありましたら、コメント欄の方で知らせていただけたらうれしいです!

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