「とにかく早くデビューした方がいい」と言われても…と思っていたけれど

私が脚本家を目指して勉強していた頃、何人かのプロが、ネット上でこういう趣旨の発言をしていました。

「脚本家は、プロデビュー前よりデビュー後に学ぶことの方がはるかに多い。だからとにかく、さっさとデビューしてしまった方がいい」

当時の私の感想は、「早くプロになりたいのは山々だけど、そう簡単には行かないから、あれこれ悩んでるんだよ!」ということに尽きますが、今振り返ると「デビュー前よりもデビュー後に学ぶことの方が多い」という点は、その通りだと思います。

アマチュア時代の私は、「今、スクールや作劇の本などで学んでいる知識やスキルを、デビュー後もひたすら磨き続けていくのだ」とイメージしていました。
ですが実際は、「デビュー後は、アマチュア時代には意識していなかった、新しい視点を持つ必要があるのだ」と気づきました。
「学んできたことを磨く」という部分も、もちろんありますが、習作やコンクール応募作を書き上げることが目標だった頃にはあまり意識していなかった多くのことが、プロの世界では重要なのだと知ったわけです。

なぜこういうことが起きるのかといえば、デビュー後は自分の原稿に対して、監督やプロデューサーといったメインスタッフ、場合によってはキャストからもフィードバックを受けるからです。
脚本家志望の人にとって「自分の原稿の読者」は、主に共に学んでいる仲間やスクールの講師だと思います。
その人たちから受けるフィードバックも当然重要なのですが、どうしても「脚本家視点からの指摘」が中心になるはずです。
「脚本家視点からの指摘」と、「演出する人や、演じる人からの指摘」は自ずと内容が違ってきます。
アマチュア時代は原則として、後者の指摘を受ける機会がないため、デビュー後に「新しい視点を持つ必要がある」と感じるのだろうと思います。

「演出する人や、演じる人からの指摘」の内容は多岐に渡りますが、私がプロになってから特に重要だと感じたのは「心の動線が通っているかどうか?」というポイントです。
「心の動線」という言葉は、一般的な用語ではありません。
「各登場人物の感情変化が不自然だったり唐突に途切れたりせず、たとえ心情変化の幅が大きくても、読み手・視聴者が違和感なく受け止められる状態」を、私は「心の動線が通っている」と表現しています。
例えば、書き手が「ストーリー展開を衝撃的にしたい!」ということばかりに捕らわれ、ある登場人物に不自然な言動をさせてしまったら、「心の動線が通っていない状態」となるわけです。

アマチュアでも、この視点を持っている人はいると思いますが、演出する人、演じる人からのこの観点でのフィードバックは、非常に精度が高いと今も感じています。
先日も、ある映画企画のホン打ち(脚本についての打合せ)を監督としていた際に、”目から鱗”のフィードバックをいくつも、もらうことができました。
プロになり、作品ごとにこの種のフィードバックをもらい続けることで、脚本家自身の中にも新たな視点が作られ、精度が上がっていくのだろうと思います。

言い換えれば、デビュー前から少しでもこの種の視点を持っていると、ライバルたちの中から抜きんでるために有利なのではないでしょうか。
私は脚本家志望の人と話す機会があると、よく「コンクール応募をするのは当然として、小規模な自主制作作品としてでも、自分の脚本を上演、上映する機会を探した方がいい」とお話しています。
これは、商業作品のプロットライターを務めるなど、”脚本家予備軍”になった時に、実績として認められる可能性があるからなのですが、同時に、演出する人、演じる人からのフィードバックを受けられる貴重な機会になるからでもあります。

小説家や漫画家を目指す人の場合も、プロ、またはプロ予備軍になることで編集者からのフィードバックを受け、新たな視点が育まれていくのだろうと思います。
ですが、映画やドラマの脚本の場合、「原稿が書きあがった=作品が完成した」ということにはならず、スタッフ、キャストの力を得て、映像ができあがって初めて「完成」となるわけで、この点が小説や漫画とは大きく違います。
そのため、「作品の制作に関わる別ポジションの人からのフィードバックを受けたことがあるかどうか?」で生まれる筆力の差が、小説や漫画の場合よりも大きくなるはずですし、「デビュー前よりデビュー後に学ぶことの方がずっと多い」ということにもなるわけです。

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