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【エッセイ】大富豪は3が1番強い

ルールの開示

大富豪

 「今から大富豪をします。私が『話していいよ』というまで話してはいけません。まず席に座って、置いてある紙を読んでください。紙に書いてある内容は誰にも見せないこと。」

私は大学で地元のサッカーチームに入った。高校時代にお世話になったコーチが立ち上げたチームで、私は初期メンバーとなった。チームのメンバーとプレーをしたのはまだ2か月ほどだ。

ある日練習前、キャプテンに呼び出され、突然大富豪を始めると言われた。席に置いてある紙を見ると、「あなたはAチームです。特別ルールはすべて無し。3が1番弱く、2が1番強い。ジョーカーは1枚だけ入っています。」と記載されていた。

AチームBチームに分かれての大富豪が始まったが、特別ルールの無い大富豪のなんと面白くないことか。8切りもイレブンバックもない。ただの運ゲーだ。早くサッカーの練習をさせてくれと考えながら進めていたら、手札が良かった私は大富豪で上がることができた。

「では、次はAチームの半分とBチームの半分のメンバーを入れ替えます。Aチームで1位、2位、3位だった人はBチームの席に移動してください。」と言われ、私はBチームの席に移動した。Aチームから来た私、田中さん、前田さんと、元々Bチームだった太田さん、山本さん、鈴木さんの6人で大富豪が始まった。

手札を見ると今日は運がいい。2が3枚にJokerが1枚、Kが2枚と7が2枚だ。勝ったも同然だなと思った。ゲームは太田さんから始まった。彼女はいきなり「2」を出した。私は驚いた。2は最強のカードなのに、なぜ最初に出すのか?質問することもできないため、私はJokerを出した。元々Bチームの3人が不思議そうな顔をしていたが、次も私の番だ。

残りの手札は、2が3枚にKが2枚と7が2枚。まず7を2枚出し、次に2を2枚、すると全員がパスをするので、もう一度2を出し、最後Kを2枚出して勝てる道筋が見えていた。私は「7」を2枚出した。しかし、山本さんが「5」を2枚出したのだ。目を疑った。ただ順番に強いカードを出すだけのゲームなのに、なぜそれができないのか。

田中さんも不思議そうな顔をしながら「8」を2枚出したが、元々Bチームの太田さんと山本さんがそのカードは出せないとジェスチャーをして田中さんにトランプを返した。田中さんは理解できず、そのターンをパスした。次に鈴木さんが「4」を2枚出した。だから、なぜ小さい数字のカードを出すんだよ!そう思ったが、ここで私の中で1つ仮説が生まれた。もしかしてAチームとBチームでルールが違うのではないか。Bチームでは「3が1番強くて2が1番弱いというルール」なのかもしれない。もしそうであれば、最初に太田さんが2を出したことも、7の次に5,4と続いていることも説明がつく。そしてもしその仮説があっているとしたら、私の手札はあまりにも弱すぎる。残っているのはKが2枚と2が3枚だ。どうやって勝てば…。というかそもそもこの大富豪大会は何のためにやっているんだ…。これに勝ったら何か意味があるのか…。

「はい、そこまで!」キャプテンが声を上げた。そしてこう続けた。「今チームによってルールが違うのではないか。そう思っていますね。そうです。Aチームでは通常の大富豪と同じルール。Bチームでは通常とは逆で3が1番強く2が1番弱いというルールで行っています。各チームの中で別チームから移動してきた人の今の手札を見てください。強いカードを使ってしまって弱いカードばかり残っていませんか?それが今の私たちです。

それぞれの技量はある、プロリーグに行っていたような実力者もいる。なのにこないだは中学生との練習試合で負けてしまった。なぜか。お互いがお互いのルールを伝えあっていないからです。自分が正しいだろうと疑わないルールが違うフィールドでは正しくないことがある。私たちは今までそれぞれのチームで戦ってきてそれぞれの正しいがある。それを伝えることなく各々の考える正しいでプレーをするから連携が取れない。

2が4枚そろっていても、3が1番強いというルールの大富豪ではそのカードに価値はない。それぞれの技量があってもみんなが違うルールの下でプレーをしていたらせっかくの技量を最大限発揮できない。気づいたら今手札にあるようなそのルール下で最も価値のない手札で戦うことになる。最初にルールを知っていたら同じ手札でも違う戦い方ができたかもしれないのに。私たちのチームに今必要なのは、お互いのルールを開示してこのチームのルールを作ることです。そのことを伝えたくて、今日はこの場を用意しました。」

不安の根源

 「お互いのルールを開示してこのチームのルールを作ることが必要だ。」これは人間関係においてどんな状況でも必要なことだ。人は分からないものに対して「不安」という感情を抱く。過去のことを思い出して後悔や反省することはあっても不安に思うことはない。それはもう過ぎてしまったことであり、分からないことではないからだ。

未来のことは何が起こるか分からず、不安になる。他者の気持ちに対しても同様だ。相手が何を考えているかが分からないから「不安」になる。大富豪の時も、私はAチームとBチームのルールが違うのではないかと考えたが、それを確認できず「不安」になった。もしこの大富豪に勝った人が次の試合に出られるなどの特典があれば、その「不安」は「不公平だ」という「怒り」に変わっていただろう。

恋人や仕事、友人関係でも同じだ。例えば、結婚を考えている女性と、結婚を考えていない男性が互いの考えを伝えずに過ごしていた場合、女性には年を重ねるにつれ「この男性は私と結婚するつもりがないのではないか」という「不安」が生まれる。そしてそれが確証に変わった時、「騙された、時間を無駄にした」と「怒り」に変わるだろう。

だが、男性はただ付き合うことを楽しんでいただけで、正しくないことをしていた訳ではない。お互いの「ルール」を知らなかっただけだ。仕事でも同じだ。何も説明されずただ言われた業務のみを行っていた場合、自分の行っている業務に意味はあるのかという「不安」が生まれ、会社からの評価が低かった時、「正当に評価されていない」という「怒り」に変わるだろう。

互いのルールを開示しあうことは、「不安」が発生する確率を下げ、互いの持っている能力を最大限に発揮する手段である。実際に大富豪を行ったサッカーチームでも、このMTGをきっかけに、それぞれの得意、不得意、戦略、サッカーに対する取り組み方を話すようになり、互いの能力は変わらないのに、勝てるチームへと変貌していった。

ルールブック

マイルールブック

 互いのルールを開示するために、最も大切なのは、自分自身のマイルールブックを理解することだ。これは、日々の行動をすべて意味のあるものにするという意味ではない。自分が傷ついたときや反省すべきことがあったとき、ただ気持ちが落ち着くのを待つのではなく、どうしてそう感じたのかを深掘りすることが重要だ。逆に、何かやりたいことや目標が見つかったときも、その理由を探ることが必要である。自身の感情に大きな変化があったとき、その理由を自分で理解し、説明できる状態でなければ、相手に対して自分のルールを開示することはできない。

人は論理的か感情的かに分類されることがよくあるが、私は感情的な人間である。感情的であることは、人に共感したり、映画やドラマに感銘を受けたりするなど、良い面がたくさんある。しかし、不安や自己否定といった負の感情が生まれたとき、それに行動が左右されてしまうことがある。

しかし、感情を論理的に深掘りすることで、負の感情に行動が左右されることが少なくなる。自分が抱いた負の感情の根本原因を理解し、その対処法も見つけられるからだ。論理的に考えるのが苦手な人でも、これは数学や理科の問題を解くこととは違う。自分自身について考えることは、他の誰よりも簡単なことである。負の感情に流されずに過ごすことで幸福度も上がるので、自分自身について論理的に考えることを強くおすすめしたい。

勘違い

 先日友人と話をしていた時に感情を論理的に深堀することがとても役立った日があった。ある日私を含めた女性3人で食事をしていた(仮名:AさんBさん)際に私の男性の友人(仮名:C君)から連絡があり、C君も含めて4人で食事をすることになった。4人で話している際に、関西人の良い所なのか悪い所なのかお互いのことをいじりあって盛り上がっている時があった。するとAさんが急に不機嫌そうな態度をして途中で帰ってしまい場の空気が悪くなってしまったのだ。

私自身ももしかしたら言い過ぎてしまったのかもしれないと思い後日Aさんと会ったときに謝罪をし、何がそんなに嫌だったのかを2人で話し合った。

◎Aさんが不機嫌になった原因
 └A.自信の過去の失敗談を話されたこと
  └Q.普段も話している話なのにその日だけ嫌な気持ちになったのか
  └A.いつもは嫌な気持ちにならずその日だけ無性に腹が立った
   └Q.どう腹が立ったのか
   └A.2人がC君に私(Aさん)の悪い印象を与えようとしていると感じた
     └Q.C君に印象が悪く思われることがどうして嫌だったのか
     └A.初めて会ったC君に異性として魅力を感じていたため

Aさんが不機嫌になった原因は、私たちがC君に対して彼女の悪い印象を与えようとしていると感じたことだった。驚くことに、彼女は私の連れてきたC君に異性として魅力を感じていたのだ。私もBさんもそんなことには全く気がついておらず、ただその場を盛り上げようと話していたことが、Aさんからしたら違う意図で捉えられていたのだ。

しかし、Aさん自身も、自分がC君に好意を抱いていることに2人は気づいていないのに、C君への印象を悪くしようとしているなんて勘違いをして、場の空気を悪くしてしまったと気づくことが出来た。もし私たちがこの出来事の根源について話し合えていなかったら、私はAさんを傷つけてしまったのだと思い、今後どのように接したらいいか分からず、気まずい関係になっていただろうし、Aさんから見ても私は好意を持っている男性に自分の悪い印象を与えた人として今後仲良くしたいとは思わず、1人の友人を失っていたかもしれない。

このエピソードを通じて、私たちは「なんだそんなこと」と思うかもしれない出来事でも、その根本原因を深堀して考えないと、予期せぬ大事件に発展してしまうことを学んだ。Aさんのように自分自身がその「なんだそんなこと」を理解していないと、他者を巻き込んだ大問題に発展してしまうのだ。

最期に

 最後に、「マイルールブックの1番の理解者に自分がなる」ために必要な日々の習慣をまとめたい。このエッセイを通して最も伝えたかったのは、自己理解の重要性だ。以下に、私が実践している具体的な方法を紹介する。

自身の感情が大きく揺らぐ出来事が起きたら「なぜ」を5回以上繰り返す
 自身の感情が大きく揺らぐ出来事が起きたら、「なぜ」を5回以上繰り返すようにしている。失恋、喧嘩、仕事でのミスなどの負の感情が生まれた時や、転職をしたい、一人暮らしをしたいといった新しいことに挑戦したいと思った時、自分の感情に大きな変化が起きる。そうした時、以下のようにして深堀りを行う。

例えば、私は大好きだった彼氏に「あなたは自分を持っていない」と言われ失恋をしたことがある。
◎「あなたは自分を持っていない」と彼氏に振られた
 └Q.彼に自分の思っていることを伝えられていたか
 └A.好意的な気持ちは伝えていたが不満は伝えていなかった
  └Q.なぜ伝えていなかったのか
  └A.否定的なことを言って彼が離れてしまうのが怖かった
   └Q.否定的なことを言ったらどうして彼が離れていってしまう
     と思ったのか
   └A.自分の意見と彼の意見が違った時に彼が不機嫌そうな態度を
     取っていたため揉めるくらいなら自分の意見を我慢しようと
     思った
    └Q.そこが彼の言う「あなたは自分を持っていない」だと思うか
    └A.彼の考えていることなのでわからない。でもその可能性はある
     └Q.その部分を直したいと思うか
     └A.思っていることは伝えなくては分からないので直したい
      └Q.直したうえでまた彼と付き合いたいか
      └A.直せたとしても彼の不機嫌な顔を見たらまた
         言えなくなりそうなので、意見が違っていても不機嫌な
        態度を取らない新しい人を見つけたい。

こうして自分の気持ちを整理することで、自身が直したいと思う所、自身が彼に対してどのように思っているかを整理することが出来た。「悲しい」という感情だけで突発的に彼に連絡をし、また不安な日々を送ることを防ぐことが出来たのだ。

②自分の中に言語化できる答えが無ければ他の情報を取り入れる。
 自分の中に言語化できる答えがない時は、他の情報を取り入れる。本や記事、友人の話など、外部の情報から学ぶことで、自分の経験を新しい視点で理解できる。世界中の誰かも同じ経験をしており、その中には自分が納得できる答えを見つけている人が必ずいる。

「マイルールブックの1番の理解者に自分がなる」ために、これらの方法を実践することで、自己理解を深め、現在の自身の能力を最大限に発揮できる人生を送ることができる。

#創作大賞2024 #エッセイ部門

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