見出し画像は次の論文から引用したMRI撮影の敷き写しです。日本語母語話者がアイウエオ (見出し画像ではaiueo) を発する際の口の構えを示しています。
いつつの図の中で形を違えている部位が舌です。舌に対しては、目視できる範囲の印象から、平べったい形状を想像しませんか?実際はこの画像のように、シチューに使う牛タン並みに分厚い肉なんです。
今回までの流れ
本連載第4回のあとに脱線 (本連載A1, A2, B)[*]を重ねたせいで、だいぶ遠回りしてしまいました。今回からは、第4回の最後に紹介した音声のグループ「自然音類」を説いていきます。
ところが、「-からは」と「-ていきます」とが示唆するとおり、1回ではとても終えられませんでした。今回は母音[*]の音色(が一定ではないということ)を解説するに留まります。
共通語の母音
人間が使い分ける音声のうち、唇、舌、口蓋などで気流を妨害するものを「子音」、そのような気流妨害を (あまり) 伴わないものを「母音」と言います[*]。
現代共通日本語 (以下「共通語」) の母音には、「狭母音類」と呼びうる自然音類があります。早速これを紹介したいところですが、ある言語の自然音類を理解するには、自然音類以外の音声も体系的に理解する必要があります。そこでまずは、共通語を題材にして、母音の音色(が一定ではないということ)を学びます。
共通語は5種類の母音を区別しています。これら5母音の一般的呼称はアイウエオでしょう。中国語、韓国語、英語といった、日本でもよく知られた言語に比べれば、共通語の母音数は多くありません。
共通語にアイウエオの別があることは、次掲 (A) の単語群から分かります。単語群 (A) においては、太字を施した母音の違いのみが意味の違いに繋がっていますね[*]。単語群 (A) のように、1ヶ所のみ異なる語句を対照させた群や対を最小対 (minimal pair) と言います[**]。
(A)
か /ka/ '蚊'
き /ki/ '木'
く /ku/ '区'
け /ke/ '毛'
こ /ko/ '子'
各母音の音色
前述のとおり、共通語にアイウエオの別があることは最小対 (A) から分かります。この区別は口の構え、具体的には、次掲 (B) に示す2種4類の差異に基づいています。
(B)
唇の構え
口腔内[*]の構え
喉頭蓋を咽頭壁にどの程度近付けるか
舌根を咽頭壁にどの程度近付けるか
舌を口蓋 (硬口蓋から軟口蓋にかけて) にどの程度近付けるか
私たちはアイウエオを発する際、次掲図1 (見出し画像に同じ) のように口を構えているようです。
ただし、アイウエオの音色は常に一定ではありません。たとえば、次掲 (C) における母音 /a₁/, /a₂/ の音色は、隣接する音声に影響されるため[*]、それぞれ微妙に違います。これはつまり、パ行子音 /p/ に挟まれた (C1) /a₁/ の音色は、そのほかの子音に挟まれた (C2–6) /a₁/ の音色と僅かに異なるということです[**]。単語内に限っても、2子音に挟まれた /a₁/ の音色と、1子音に続く /a₂/ の音色とは、同一ではありません[***]。
(C)
ぱぱ /p₁a₁p₂a₂/ 'お父さん'
まま /m₁a₁m₂a₂/ 'お母さん'
たた /t₁a₁t₂a₂/ '多々'
なな /n₁a₁n₂a₂/ '7'
やや /y₁a₁y₂a₂/ 'やや' (副詞)
がが /g₁a₁g₂a₂/ '(Lady) Gaga'
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