スクリーンショット_2019-02-16_9

『解体屋ゲン』 #61 小さな小さな障害(四)

遅れる工期、元請けとの確執、膨らむ赤字……気の重くなる、息の詰まる展開が続きます。この辛い展開は、当時の自分の心境だったんでしょうか。今となってはよく分かりませんが…。

(リンク先で無料で読めます)

フリーランスの一寸先は闇です。仕事が切れたらすぐに金策に走らなければならない、体調を崩しても(フォローしてくれる人が居ないので)仕事のクオリティを維持するために無理しなければならない、今の仕事が次に繋がるか分からない…。

「緩やかなクリエイティブ(大意)」みたいな文言を目にすると、それって大丈夫なのか?とついつい思ってしまいます。自由な発信、個人の解放、流されない生き方、感動を与え、愛し愛され、自分らしく、みんなで一緒に…間違ってはいない、どれも大切で実現できたら素晴らしい。

でも働きながらだと異常な負荷が掛かり、仕事を辞めると今度は成功のプレッシャーが掛かります。常に失敗した場合の撤退戦を、セーフティネットを考えておかないと人生は非常に危なっかしいものになります。

ある程度長く生きていると分かるようになります。そうやってスポットライトを浴びた人の何割が3年後に生き残っているのか。どの業界でも私たちが名前を覚えている人は片手で数えるほどで、その背後に何百倍、何千倍という人たちが消えていっています。そこそこヒットを飛ばして1000万円の貯金ができても、そこで仕事が切れて2年経てば平均年収は500万、3年なら330万です。

でも、そこに賭けてしまう。人間の業とでも言うのでしょうか、頭は分かっていても一か八かの勝負に出てしまうものです。あるいは人間は生命の危機を覚えるほどのリスクを背負わないと本気になれないのかも知れません。

以前、競輪選手を取材したことがあるのですが(20年くらい前なので今の常識は違うかも)、A級からS級に上がると家を買ったり高級車を買ったりして多額の借金を背負い、それをプレッシャーにしてがむしゃらに頑張る、という話でした。若くして結婚して子どもを作り、それを守るために闘うという話も。

当時はなんて無茶な…と思いましたが、こうした行動は(リスクは高いですが)案外理にかなっているのかも知れません。リスクを背負い、自分を追い込み、土壇場の力を発揮する。ただ、これには強い精神力とそれを支える肉体が必要です。前から口を酸っぱくて言ってるのですが……そんなに言ってないかも知れませんが……フリーランスであり続けるのに必要なのは、強いメンタル、それを支える体力、それを維持するお金です。

あれ、今回も余談で終了?そうなんですが『解体屋ゲン』を書いている時に、ちょっとだけ意識していることがあって、それは収支をある程度現実に即して考えることです。特殊な重機を使えばそのレンタル代、現場の人数を増やせばそのコスト、納期が遅れればペナルティ、といった金額をできるだけ具体的に調べます。

二階だけ電気が付いていることで慶子が残業しているのが分かる


逆に仕事がうまくいった時はボーナスを払い、通期で利益が上がった場合は賃金がアップします。こうしたディテイルをおろそかにすると途端に話が嘘っぽくなる。逆にそうした縛りがない、という世界観もあるでしょう(ファンタジーとか)。どちらにしても大切なのは、その作品に合ったルールを作り(それが枷になる)、それを簡単に破らないことです。

冒頭の画像ですが、左からバッテリーに繋がった起爆スイッチ、配線、鉄骨にボルトオンされたVコードです。作画で丁寧にこれらが描かれていることで無茶な話に説得力が出ます。

という訳で次回をお楽しみに!<強引に続く>


ここでいただいたサポートは、海外向けの漫画を作る制作費に充てさせていただきます。早くみなさんにご報告できるようにがんばります!