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『解体屋ゲン』 #54 職人の資格(前編)

この頃連載も1年を超え、どうやらある程度長くできるかも知れないと考え始めました。長期連載を視野に入れた時に考えなくてはいけないのは、マンネリ化を避けること、でした。その試みの一つがこの回から始まります。




ゲンが建物を解体する→そこには難しい問題が→悩む→(時には爆破解体で)解決、というのが王道パターンだとすると、2周目、3周目と徐々に難易度が上がってゆく筈です。敵を倒してゆくならばザコキャラ→中ボス→四天王→ラスボス、みたいに。このパターンでは基本的に前の段階に戻ることはありません。四天王を倒した後にザコキャラが出てくると読者にはなんのこっちゃ、という話になるからです。

ただ、こういう話の組み立て方をすると、いずれインフレを起こします。ゲンはどんどんスーパーマンになり、敵も次から次へと新たな強敵が現れ、同時にライバルもガンガン強くなってゆく……少年誌ならそれもありでしょうが、そもそも『解体屋ゲン』はそこを目指していません。

現実はどうでしょうか。大きな案件をこなした後に、細かい雑用仕事が舞い込むことは珍しくありません。主人公たちが成長してゆくと、前より楽に効率よく仕事をこなせるようになります。でも、それを漫画で描くのは面白いでしょうか?

あるいは永遠のワンパターンというやり方もあります。たとえば「サザエさん」、「ちびまる子ちゃん」、「クレヨンしんちゃん」etc...。これはこれで作者の胆力が相当問われます。常に「これでいい、この枠組で毎回面白いものが作れる」という確固たる自信がないといずれ力尽きてしまうと思います。私にはこのやり方は難易度が高いように感じました。

ではマンネリ化に陥らないために「解体屋ゲン」はどうするか?やり方は幾つかあると思いますが、私が考えたそのうちの一つは、
・主要キャラクターの誰もが主役を張れるようにする
です。

これは特別珍しくなく他の漫画でも見られるのですが、作り手側としては相当に勇気の要る方法です。例えば「ウルトラマン」でウルトラマンの登場しない回を作る、と書けば分かりやすいでしょうか。主人公を真ん中におかないで話を進めるのはなかなかどうして心許ないのです。

この回ではロクさんを主役に据えることにしました。ちょっと力が入り過ぎて読み切りで収まらなくなってしまい前後編です。

まずはスポットライトを当てる


ゲンたちはヤラセの弟子として登場


親方らしい振る舞い(笑)


この頃、取材していて気づいたのですが、名棟梁と呼ばれるような大工さんでも、案外少人数で仕事しているのです。各現場毎に何人かの手伝いを頼むとしても自分の組としてはせいぜい3,4人というところがほとんどではないでしょうか。圧倒的に零細企業が多く、かつ大工さんはものすごい勢いで減っています。バブル期と比較すると既に半分以下の人数になり、かつ高齢化が進んでいるのです。


ロクさんにしても、一度は引退して老人ホームに入っていたところをゲンに引っ張り出されて現役に復帰して、もちろん弟子はいません。図らずも日本の大工の縮図みたいになっています。

そんなゲンたちが火事に遭遇。ゲンは、そしてロクはどうするのでしょうか。
続きは後編をお待ちください。  <続く>








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