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喧騒と静寂の日。

子供たちが親戚宅へ遊びに行き、久しぶりに夫と2人暮らしになった。
ほんの1週間程度だというのに、なかなかの新鮮さをひしひしと感じる。
結婚したばかりの頃は当たり前のように2人きりだったのに、今や子供たちがいない生活の方が慣れないのが、とても不思議。
いつもソファを占領してゲームに明け暮れる息子も、夜中に急に掃除を始めて騒音を巻き起こす娘もいない。
大人だけの家の中は、不自然とまではいかないけれど、親しいひとの不在をちょこちょこと知らせてくる。いると騒がしい。でも、いないと寂しい。勝手な親心。

夫と2人だと、お茶を沸かす回数が極端に減る。
家族4人だと、沸かしても沸かしても麦茶はあっという間に空っぽ。なんでそんなに飲むの?と聞きたくなる勢いでなくなる。砂漠にでも注いでいるのか、麦茶。夏休みだと、尚更早い。1日に2回沸かしてどうにか追いついても、気づけばまたキッチンに転がる空の容器がしんどい。

洗濯物もたまらない。
毎日必ず朝まわす洗濯機。夫と2人だと、2日に1回で事足りる。最初のうちは喜んでいたけれど、だんだん物足りなくなってきて、家中のシーツやらタオルケットやらを洗いまくってしまった。
子供たちがいたら「この服明日また着たいんだけど」「体操服出すの忘れてた!」「朝までに水着乾かしてー」などの理不尽な声が毎夜聞こえてくるというのに。おかげで朝夜と2回稼働することもざら。

そして、外食が増える。
普段子供たちがいると選べない店にする。
こういう時は主に近所の居酒屋が活躍する。安くて美味しいから、お酒がそこまで好きじゃない夫も「あの店行こうよ」と自ら誘ってくれる。
あと、この真夏にもつ鍋も食べた。子供たちがいない時しかいけない。息子はきっと、もつを噛んで飲み込むことができない。彼は若いのにおじいちゃん並の歯力しかないのだ。娘は初っ端から締めのラーメンを入れたがるだろう。
涼しい店内でがっつく熱々のもつ鍋は、スタミナが漲って、とてもいい。冷たいハイボールもぐいぐいいける。冬じゃなくても熱い鍋は美味しいのだ。

ところで外食の待ち時間、夫は大抵スマホをいじる。
私は本を読んでいる。
ちょこっと思い出したように会話をしては、また途切れてそれぞれの時間に戻る。
ふと周りを見てみたら、他のテーブルの人たちはずっと相手とお喋りしている。会話して、食べて、飲んで、また会話して。
あれ、もしかして、ほぼ無言な我々のテーブルは少し異質なんだろうか。
不仲でもないし、話が続くことももちろんある。他愛のないことだって話すし、SNSの面白い画像や動画を見せ合って笑い合うこともある。
ただ、昔ほど無言の時間が気にならなくなった。
それこそお付き合いしたての頃は、お互い無言が耐えられなくて、どうにか会話を繋ごうとしてはぎこちなくなったりした。
いつから無言でもよくなったんだろう。
必死に話題を探していたあの頃は、いったい何をそんなに頑張っていたんだろう。それだけ長い時間を過ごしてきたし、お互い歳も重ねて落ち着いてきたのかもしれない。
ここに、子供たちがいたら、会話してるだろうな。それでも多少はスマホをいじるだろうけど、4人でいる時は無言より話す時間の方が圧倒的に多い。

子供たちの不在はあっという間に過ぎて、2人で夜の空港へ車で迎えに出向いた。
空に浮かぶ半分しかない月が綺麗で、運転する夫を横目にずっと眺めていた。
帰ってくる日はちょうど流星群が見えるとニュースで話題の日。近頃星空に目がない夫の提案で、夜更けに無事帰ってきた子供たちを乗せるやそのまま海辺へ走った。
波の音はするけれど、どこから砂でどこから海か全然見えない。息子がびびるので、スマホのライトを頼りに進む。
コンクリートの壁に寄りかかって、真っ暗な海を目の前に見上げる星は、街中よりは格段に美しく光る。けれど、流星はちょっとよくわからなかった。夫だけは「いま流れた!」と叫んでいて、ほんのり羨ましくなった。
でも子供たちが「夏の大三角が見える!初めてちゃんと見たー!」とはしゃいでいて、それだけでも寄り道した甲斐があるってもんだ。大三角ってベガと…なんだっけ。エネルだっけ?と真剣に聞いてくる息子。エネルはONE PIECEだから。正解はデネブだから。

ねーねーコンビニでお菓子買ってよ、とせがまれながら帰路に着く。やっぱり、いると騒がしい。でも、今はそれが心地よい。

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