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今村翔吾氏の「茜唄」上巻を読んで思う、生への渇望

今村翔吾氏が書いた3/15出版予定の作品「茜唄」(上下巻で発売)

発売前ですが角川春樹事務所の投稿を見て迷わずに応募
過去デビュー前に滋賀県草津市のラジオにゲストとして出演いただいた今村翔吾さん

そこから今村さんの作品と人柄に魅了され、応援しようと思い応募し、この度ご縁があってプルーフ(刊行前の見本)を頂戴して一気に読み進めました


毎回今村さんの作品を読んで思うこと。それは「今村翔吾の頭の中はどのようになっているのか」ということ

史実は様々な資料が残されていますが、はっきりとしない部分も多く、歴史小説や時代小説は史実に加えて”想像力”が作品に影響力を与えると個人的に思っています

この「茜唄」の舞台は平安時代
平家の物語を後世に残していく。その語りを背景に平家の全盛から滅亡までが描かれています

平家と聞けば、「平将門」「平清盛」「平重盛」等、ぱっと名前が思い浮かぶ人もいるかもしれません

壇ノ浦の戦いや源頼朝等、過去学校で数ページだけ学び、その単語としての名前とどのような事をしたのかという史実は頭の片隅に今でも残っています

教科書では数ページで事象だけだった机の上での学びとしての平家の栄枯盛衰を、何百ページにも渡り強い想いと願いと共に伝えてくれました

この物語は平清盛の4男「平知盛(たいらのとももり)」を主人公とした作品です

過去の作品「じんかん」でも語りと本編が分けられていましたが、今回は特に語りと本編がより近くリンクをしており、各章の頭には少し客観的に物語を見返す事ができる瞬間が訪れます

過去を慈しみ、懐かしみながら、想いを引き継いだ者同士の会話が様々な感情を連想させ、より物語に彩りを与えてくれています

平家の全盛から滅亡までを物語として紡いだ「茜唄」

時代が変遷していく中であったそれぞれの苦悩、誇り、何を自分たちが残したかったのかという切なる願いが、まるでタイムマシンに乘って当時を見てきたかのように滲み出ていました

2023年の今、戦乱の世と比較すると圧倒的な平和が訪れています。ただ、いつの世でも争いはあり、それは決して他人事ではないと思います

それでもこうして今の世の中が争いで溢れていないのは、当時の人たちが、人を傷つけ、築き上げていく過程の中で、葛藤や幸せを望んだからではないか。読み終わった後に、様々な想いが巡る作品でした

そして、今村翔吾という作家の人を描き切る力に改めて圧倒されました
過去に直木賞を受賞した「塞王の楯」をはじめ、「羽州ぼろ鳶組シリーズ」等、今村さんの作品の中に出てくるキャラクターには魂がこもっています

だからこそ、本の世界へ感情を移し、その物語に没頭することができるのではないか?
まるで、1,000年前にタイムスリップし、その様子を間近で見ているような緊迫感と感情の変化を楽しむことができます

祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。 娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。 おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。 猛き者もつひには滅びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ

平家物語の冒頭に紡がれた言葉

盛者必衰。衰退を感じながらも、自分たちの「家」を、家族を、懸命に汚名を誹りながらも生きて示そうとしたその生き様を

本当は違うかもしれない。本当にそうかもしれない。そうした、正誤ではなく、その生き様は今にも繋がる、そして紡がれてきたモノが今の世にもある

そうした思いを感じさせてくれる素晴らしい作品でした
まだ下巻は読めておらず、続きを読める日を心待ちにしておりますが、是非3月15日発売時には楽しんで欲しいです

▽amazonにて予約可能です▽


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