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おかえりとか、ただいまとか。




なんで施設で働くの?



このnoteに何度も登場する
20年以上の付き合いの 
わたしの担当職員に昔ふと
「どうして児童養護施設で
   働いてるの?」
と聞いたことがある。
彼女は保育士の学校へ行っていた為
保育園や幼稚園といった一般的に
「保育士」とされる仕事をしても
おかしくはないのにその中でなぜ
児童養護施設で働くと決めたのかが
気になったのだと思う。



おかえりとかただいまとか。




「色んな所に実習に行ったけど
   保育園とかは朝子どもを預かって
   お迎え来たらバイバイだけど
   児童養護施設ってさ、
   子ども達の暮らしてる場所で
   毎日おかえり、ただいまって
   言葉が言えるじゃん?
   それってなんかすごくいいなって。」

彼女が覚えているか分からないが
今も強烈に残っている返答だった。


そんな彼女は子どもたちから
とにかく慕われている。
何かトラブルがあればまずは
「○○に話そー」となるし
入所中は子ども達から
「○○、聞いて!」
「ねぇー!○○ー!」
と話しかけられている姿を
何度も見てきた。

仕事感は一切なく人として
接している姿は子ども達の
警戒心を一気に解くし
心すらも簡単に開かせる。
うちの施設の人気職員だ。

そしてわたしも彼女がだいすきだ。



口を利かなかった過去


児童養護施設に入所中、
職員との喧嘩は常に絶えなかった。
毎日誰かしらがどこかしらで
喧嘩している声が聞こえる。
例に漏れずわたしも日々職員と
口喧嘩をしていた1人だ。
だが彼女と大きい喧嘩をしたという
記憶がない(忘れている可能性もある)。
喧嘩をした職員と口を利かずに
膠着状態が続く事もしばしばあった。
出勤してくんな、辞めちゃえ、
と職員に対して何度も思ったが
彼女が出勤してくる時は
安心していたのを覚えている。
唯一、彼女だけは何があっても
口を利かなかった事がないと思う。

そんな彼女と幼稚園の時に出会い、
そこからずっと一緒にいたため
彼女が産休に入った時にものすごく
不安になった事も覚えている。
出産と同時に退職する職員も
少なくないからだ。
何があっても彼女が仕事を
辞める事は無いという
根拠のない自信があったが
それでも何年も一緒にいた人が
1年近く休職するという事が
ものすごく不安で怖かった。



家族と呼べる存在



驚く事に出産後、
彼女はすぐに復帰してきた。
時短勤務ではあったが
施設内に彼女の声があるだけで
やはり雰囲気はガラッと変わる。
安堵と心配と複雑な感情ではあったが
何より「一緒に居られる」という
安心感はわたしにとって絶大だった。
彼女の子供も度々うちの施設に
遊びに来ているし家族が増えた感覚だ。
復帰直後は保育園からの呼び出しや
急遽の休みも多かったため
「自分の子供のほうが大事なんだ」と
嫉妬に近い感情を抱いた事もあるが
子ども達が赤ちゃんの時から一緒に出勤し
子供も妙に馴染んでいたため
ものすごく拍子抜けしたのと同時に
今までと変わらずおかえりただいまを
言える人であり続けてくれていて
「あぁ、この人は産んだ産んでないに
   関わらず誰にでも母親なのだ」と思った。
自分の子供、施設の子ども、
関係なく分け隔てなく接し
そこにいて当たり前のように毎日
おかえり、ただいまと言える
関係性を構築してくれたから
安心できたし嫉妬心は消え失せた。
今では彼女の子供も家族だと思っている。



居てくれるだけでいい


中3で本園からGHに移った後、
1年遅れで彼女も移動してきた。
嫌いな野菜が入ったサラダをわたしが
作った時には子どもと取引をして
絶対に食べない姿はまるで子どもだし
逆に彼女がわたしの嫌いな食べ物を
全部の料理に入れて出した際には
「嫌いって知ってるのに!」と怒ったり
しょーもない喧嘩をしたりしていた。

そしてGHの職員の出退勤時の言葉は
出勤は「ただいま」と言い、
退勤する時は「行ってきます」だった。

1つの家で普通の家族とは
ちょっと違った形だったけど
わたしにとっては家族で毎日の中に
いってきます、いってらっしゃい、
おかえり、ただいまが
当たり前のように飛び交っていた。
職員が変わらずに居てくれるだけで
日常が進み安心感に繋がった。



おかえり、ただいま



出会いから20年以上経ち
退所から9年経つが
施設に帰る時は彼女の
大好物をお土産として持って
ピンポンを鳴らし
「ただいま」と言う。
彼女は当時と変わらない笑顔で
「おかえり」と出迎えてくれる。
何一つ変わらない彼女の前では
当事者スピーカーや支援員といった
仕事や肩書き、位置づけ全て忘れ
何も考えずに子どもに戻れる。

が、施設の子ども達が全員
わたしと彼女のような関係かと
言われたら恐らくそうではない。
このnoteでもTwitterでも
離職率の高さに何度も触れているが
おかえり、ただいまができる
関係性を構築するのは大変だ。
何よりわたしも心から信頼して
その言葉を交わせる既存の職員は
彼女しかいないのも事実であり
彼女が辞めたらわたしは施設へ
帰らなくなるだろう。



子ども達が一人ひとり大切に
育てられる世の中を目指して



離職する職員にも事情がある。
そんな事は当たり前なのだが
入所中は絶望だった。
そしていつからか職員に対して
どうせ辞める、居なくなる、
と防衛線を張り自己暗示を
かける事で自分を保っていた。


職員の離職は不可抗力であり
子どもは事情が分からない。
泣きじゃくる子、怒る子、
不安定になる子、黙る子。
移動や退職の発表があると
子ども達は一時不穏に陥る。
それが自分が信頼していた職員が
居なくなるのだと分かった
瞬間である程ショックは大きい。
幼い頃から過剰な分離不安を経験し
だいたいの子ども達は期待をやめる。



退職した職員と連絡を取っているが
全員口を揃えて言うことは
「見続けていたかった」
「ずっと頭の中にいて心配してる」。
自分の人生と子ども達との生活を
天秤にかけなければならない。
結婚、出産、家庭の事情、業務の過酷さ。
退職の理由はそれぞれだが
子どもが絶望するのと同じくらい
彼、彼女らもまた厳しい選択を
強いられて決断したのだと思う。


そしてそんな現状を打破すべく
「子ども達が一人ひとり
   大切に育てられる世の中を目指す」
というミッションを持ったNPO法人がある。


NPO法人チャイボラ



最初から読んでくれている方達は
ご存じだろうがチャイボラは国内で唯一
児童養護施設を始めとする
社会的養護の職員の確保と定着を
目指しているNPOの団体だ。


施設のサポートであり子どもへの
ダイレクト支援でないため
一見すると分かりずらいが職員が
長く安定する事で安心でき
おかえり、ただいまと言える
関係性の構築ができる。
子どもからすると何よりの支援だ。
物を貰うのも嬉しいし
招待行事も楽しかったし嬉しかった。
が、同じ職員が長く安定して
働いているとそれだけで
「あの時の行事楽しかったね」や
「こんな事あったよねぇ。」と
過去を共有しながら思い出を話せる。
退所した後、しんどい時や辛い時、
不安な時に電話してその話が
できたらギュッと固まった心が
スっと溶けていく感覚になる。

そんな職員と出会える
社会的養護の子どもは
どれだけいるのだろう。
そしてそんな職員と出会えず
制度からこぼれ落ちていく
子ども達はどれくらいいるのだろう。


想像する事は大切だ。
でも現状を知らなければ
想像する事すらできない。


世の中色んな物事に対する
偏見や差別もあるが何より
無関心が1番怖いと思う。


このnoteは児童養護施設や社会的養護を
知ってもらい関心を持ってもらいたいと
「わたし」の歩んだ人生を発信している。
そのためどうしても子ども目線で
話が進みがちだが同時に児童養護施設で
働く職員の事も知ってもらえると
きっと違った角度から見える事もある。
当事者であるわたしが気付かない、
気付けない事にこれを読んでいる
あなたが気付くかも知れない。

わたしもチャイボラに出会うまで
正直職員の目線は知らなかった。
コラボトークのイベントの際に
職員目線で語られる現場を知り
子どもの目線では気付かない
事実にハッとさせられた。
子どもの発信と同じくらい、
職員目線で語られる発信を受け取る事も
すごく大切なのだと思った。


そしてNPO法人チャイボラは
全国展開に向け昨年10月から約2ヶ月
クラウドファンディングを行っていた。
READYFORのページに詳しい
数字が載っているが
チャイボラ代表はイベント中何度も
施設掲載数や出張授業回数を明確に
「ここまで伸ばす」と宣言していた。
チャイボラは代表だけじゃなく
メンバー全員の熱意が凄い。
そんな凄い団体を知らなかった。
もっと早く知っていたかった、
と強く思った程に勢いが凄い。
大手企業から児童福祉へキャリアを
一転させた人がいてその人が
現役で児童養護施設で働きながら
一人ひとりが大切に育てられる世の中へと
ミッションを掲げて活動している。

たくさん研修も行っているし
誰でも参加可能な施設見学会もある。
このnoteに辿り着いたのも何かの
縁だと思って職員にフォーカスした
イベントにも参加してみて欲しいし
これを書いている間ずっと
施設に帰りたくて仕方ない。
彼女に会いたいしハグしたいし
飛びつきたくなっている。
そんな職員に出会えておかえりとか
ただいまを言い合える関係を
築ける子ども達が増えますように。


そしてチャイボラが掲げるミッションの
"意味"を理解した上で更に
児童養護施設や社会的養護を
知る人が増えますように。





今回も長くなってしまったけど
読んでくれてありがとうです🎀💕


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