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パワハラと聞くと、思い出してしまう彼女の背中。

コロナ禍でも、いやコロナ禍だからか、あらゆる人権問題が浮き彫りになっていると感じる最近。
#BlackLivesMatter の動き、水原希子さんの「日本人感出してましたか?」、そして今回記事にさせて頂いた アップリンクのパワハラ訴訟問題

もうこれらの動き全てに共通して言えるのが、人は人を、差別・区別したがるのが好きだな、という事。
人間って本来マジで弱いんで、フッと息を吹きかけたら飛んでいってハイエナあたりに食べられるくらいに弱いんで、どうしても自分の存在を常に確認していないと気が済まない生き物なのだよな。

だからあらゆるものをカテゴライズして、「あ、10段階のうち8なら大丈夫」だとか、「あ、黒はあかんけど白なら大丈夫」だとか、そういう簡単に自分の位置を確認できるカテゴリ分けをして勝手に安心しちゃってるんだよね。

強い人間はそういう事しなくても「私は私」と生きていけるんだけど、大抵の人間―私もそういう所はあると思う―はそういう生き方って辛くて仕方が無い。

今回アップリンクの騒動を知って、ふっと浮かんだ人物がいた。
元同僚のKだ。

当時、私とKは同じ会社―それも超絶ブラック企業―で働いていた。毎日終電で帰っていたし、社内にいる人間は皆目が血走っていたり、常に怒鳴っていたり、何か物を殴打する等していた。今思えばあれはほとんど動物園だったし、そんなのを法人として利益生むなんて、僕たちってニンゲンっていう資本主義ドウブツなんだなと振り返る。

Kの直属の上司は特にヤバい奴だった。
毎日Kを説教するのだが、説教も仕事についてしているはずが、開始5分でKの人格否定へ移行し、そこから1時間近くは人格否定の話や卑猥な話で持ちっきりになる。よくそんなに話が続くものだ。そんなに長く話を続けられる人間って、明石家さんま以外に知らなかった私にとっては毎日驚愕の光景であった。

私も同じく新入社員の身だった為か、別の先輩や上司に「あれは問題ですよ…」と話をしてもまともに受け取ってくれやしない。

ある日、Kが取引先へ送る提案書の数字を間違えて送ってしまった。
取引先から上司が怒られ、怒られた後の上司の目が血走りすぎて、元の眼球の白やら黒が全て赤になっているように感じた。

そこから2時間は、上司はヒステリックにKを叱責した。
こういうのって、「提案書の数字のミスは今後こういう方法で無くしていこう」っていう話をする2人きりの場所で手短にするのが生産的でその後のパフォーマンスも上がると思うんですが、こういうパワハラ上司ってマジでバカなのでそういうのわからないと思うんです。勉強もしてないと思うし、人の上に立っちゃいけない人間なんですよね。

そしてKは遂に泣いた。嗚咽をもらしながら泣いた。
泣くKに対して、「あ~女だからって泣ければいいと思ってんだろぉ」と最低なセクハラ発言。あの男、もうサバンナとかに戻してあげた方がいいと思う。ろくな人権意識が無い。本当に21世紀に生きる人間かお前は。

その夜は泣きじゃくるKの背中をさすることしかできなかった。
泣いている人間の体温って、こんなに高いのだ、
ああ、どこか擦りむいた時にその周辺が熱くなるけれど、今Kは身体全体が傷ついているのだな、と思ったのを覚えている。

次の日、Kは会社へ来なかった。

上司や私からの連絡も受け取らず、その日別の先輩がKの家へ訪問。

Kの父親が出てきた。
「もう、辞めます。無理だと思います。」
Kは昨晩、親に「死にます」と伝えて、大量の睡眠薬を飲んで自殺未遂を図ったとの事。親が慌ててKの家へかけつけ、なんとか一命をとりとめたと。

母とKは病院におり、父親は荷造りをしていた。

その日から、Kと連絡を取ったのは一度だけ。
「まだ、しばらくは働けれないかな」
弱弱しいラインのメッセージを最後に、Kとは連絡を取り合っていない。

上司は、私や他の先輩社員からの密告によって「Kをパワハラで退職に追いやった」という事で左遷させられていた。
それでもまだあの会社にいる。一人の若い女性の命を亡くすかもしれなかった、殺人未遂なのに。

私は密告をした後に辞めた。
会社の異常性に絶望したし、私も眠れない夜や痛む胃があったからだ。

仕事をするという事は、確かに情熱を持って、真面目に、誠実に取り組むべきものだ。私達は会社や顧客に成果を求められていて、それについてお金を頂いているのだから。

でも、それを理由に人を傷つけていいはずがないのだよな。
もうこういう事って、Twitterとかなんかで何億回と言われている事だと思うけれどね、声を大にして言うよ。

やりがいだなんだ知らんが、人を幸せにする為に仕事をしているんだ、仕事をする側だって幸せになりながら働いて、人を幸せにする事だって出来るんだ、働いてる側は苦しむべきだなんて幻想も、お前の歪んだ理想も、非効率的な叱責も、全部全部、この時代で終わりにしようぜ。

私は何人も、人を傷つける事なく効率的に指導をして、全体の生産性を上げる事の出来る人間を知っている。そういうものが、上に立つ人間であり、社会が必要としている人材なのだ。