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エッセイ 「名前をつけてやる」

8月も残すところあと僅かとなりましたが、まだまだ暑い日が続きますね。
皆様いかがお過ごしでしょうか?
私ことぶきは少々バテ気味です。
どうしよう…。
やっぱり肉を喰おう ♪(©︎吾妻光良先生)
という訳で、自転車を漕いで馴染みの老舗肉料理店を訪ねました。

「ごめんよ〜」

店に入ると看板娘の藤田ニコルさんが愛くるしい笑顔で迎えてくれます。

「えーっと、並と卵とおしんこをお願いしま…」

あ、もう出て来た。
早速いただきましょう。
…うめーなぁ、おい。
久方ぶりの肉料理に舌鼓を打つ私。
ご機嫌です。
味もサービスもニコルさんの笑顔も万事いつも通りで…。
と思いきや、ひとつ気になることが。

ぽっぽっぽー は〜とぽっぽー まぁ〜めーがほっしいーか そーらやるぞ〜 ♪

なんでBGMが「鳩ぽっぽ」なんだろう…。
私はひとまず疑問を棚上げにし、肉料理をペロリと平らげて店を出ました。
午後6時、街は絢爛たる七色のオーロラにすっかり覆われています。
わー、綺麗だなぁ…。
いや、おかしいだろ。
私はラリっているのでしょうか?
薬物を摂取した覚えはありません、本当です、信じて下さい。
とりあえず深呼吸をして心を落ち着けましょう。
落ち着きました。
オーロラ消えました。
ふぅ。
それにしても一体どうしてオーロラが出現したりしたのでしょう。
思い当たる節は…。
あ、あった!
私は思い出しました。
さっき食べた肉の表面が七色に煌めいていたことを。
あのオーロラはきっと肉の煌めきの残像だったのでしょう。
なるほどスッキリしました。
謎も解けたことだし、とっとと帰って寝るとし…。
待てよ。
お腹を壊したりしないかな?
心配性の私は携帯電話を取り出してネットで調べてみました。
(肉 表面 七色)と…。
なになに。
(切った肉の表面が虹のように光る現象は光の特性によるものであって、肉の品質とはなんら関係がありません)
へぇ、そうなんだ。
安心した。
それにしてもやっぱ肉ってのは美味いもんだなぁ。
年末ちゃんとボーナスが出たら奮発してステーキを食ってやろう。
ガストにしようか、それともブロンコビ…。

ぽっぽっぽー は〜とぽっぽー まぁ〜めーがほっしいーか そーらやるぞ〜 ♪

だからなんでBGMが「鳩ぽっぽ」なんだよ..。
いや、違うぞ。
私は店を出て、いま表にいるんだ。
ってことは、幻聴…?
私はついと立ちくらみを感じ、俯いてしまいました。
すると路傍にまたオーロラが…。
あ、違う。
鳩でした。
鳩は頭を前後に振りながら、首もとを紫と緑に煌めかせて…。
はは〜ん、分かったぞ!
つまりこういうことだ。

①肉が放った七色の光を見る
②それがトリガーとなって記憶に眠る鳩の首もとの煌めきがフラッシュバック
③脳内に「鳩ぽっぽ」が流れる

絶対そうだわ。
それにしても鳩の首もとはどうして紫と緑に光って見えるのでしょう?
肉の表面が七色に光るのとおなじ原理なのでしょうか?
調べましょう。
(鳩 首 紫 緑)と…。
ふむふむ。
あー、なるほどね…。
と膝を打ちかったのですが、正直難しくて私にはよく分かりませんでした。
詳しく知りたい方はこの方のブログ記事を参照して下さい(丸投げ)👇

ハトの首ってなんで緑とか紫でキラキラしてるの?

私はこの記事に出て来る、位相、逆位相、光の波、薄膜干渉、東京理科大学…といったような難解な言葉とは無縁の人生を送って来ましたから、無駄な抵抗はせずにあっさり投降しようと思います。
撃たないで下さい。

さて、滋養を得た私はみなぎる元気を持て余し、立ち漕ぎでウチに帰りました。
そしてすぐさまパソコンを立ち上げて鳩の生態についての調査を開始したのです。
カタカタ….。
調べてみると、あの身体全体がグレーで首の周りが紫と緑に煌めいている鳩はカワラバト(別名ドバト)という種なんだそうです。
住宅地、繁華街、駅、公園、農地など、どこにでもいますよね。

カワラバト(別名ドバト) 画:いらすとや様

彼らは先史時代にはすでに家禽化されていたそうです。
そして今日まで食用や愛玩用としてだけでなく、伝書鳩や軍用鳩といった使役動物としても人間に利用されて来ました。
仕事を任せることが出来るぐらいですから、本質的に人懐こい性格をしています。
たしかに街中にいる個体は人と見れば躊躇なく食い物を無心して来ますよね。
彼らは元々ヨーロッパ、中央アジア、北アフリカなどの乾燥地帯に生息しており、日本に渡来したのはいまから1,500年ほど前のことなんだそうです。
そんな訳で基本的に日本の在来種とは考えられていません。

では、いっぽう日本の在来種とされる鳩はどれぐらいいるのでしょう?
wikipediaによると13種(説によっては9種)いるそうです。
そのなかで我々が比較的よく見掛ける種はキジバト(別名ヤマバト)です。

キジバト(別名ヤマバト)画:いらすとや様

キジバトという名前は、ご推察の通り鳥のキジに因んでいます。
身体の色合いがキジ(メス)に似ていることからそう名付けられたのです。
と、ここで私は疑問を抱きます。
命名者はなにを理由にキジを主体としたのでしょうか?
ヤマバトを単に「ハト」と呼んで、キジを「ハトキジ」と呼んだっていいじゃないですか?
キジだって日本に限っても4亜種いるんですからね。
1種類じゃないんですよ。
それなのに、どうして一段上に置くんですか?
キジは偉いんですか?
ひょっとしてオスの見た目がカラフルでゴージャスだからって、そんな風に手厚く持て成すんですか?
それってルッキズムですよね?
いけませんねー。

「もしもし。人権110番ですか?」
「はい」
「ルッキズムが横行しているんです」
「はぁ。あなたが被害を受けたんですか?」
「いえ、鳩です」
「はい…?」
「キジバトです」
「キジバトって、鳩ですよね?」
「だから鳩だって言ってるじゃないですか?」
「ごめんなさい。ウチ人間専門なんで、よそへ相談して下さい。ガチャ」
「…」

世知辛い世の中になりましたね。
でも、実際キジは偉い鳥なのかも知れません。
だって「キジバト」の他にも「キジ」にちなんだ生物名や言葉がたくさんありますからね。

【キジネコ】
キジの羽に似た茶褐色で斑のある毛柄を持つ猫。
【キジノオシダ】
キジの尾のような形をしたキジノオシダ科の多年生のシダ。
【キジハタ】
体色がキジの羽に似たスズキ目ハタ科に分類される魚の一種。
【キジムナー】
沖縄諸島周辺に伝わる妖怪で、その正体はガジュマルの木の精霊。
【キジン】
夜なのに「おはよーございま〜す」とか言ったりするような一風変わった人。
【キジクツウカ】
国際間の決済などに用いられる通貨。…っつうか、一般的には米ドルを指す。

凄いですね、キジさん。
よっ、国鳥!

閑話休題。
では、いっぽうカワラバトの名前の由来はなんなのでしょう。
やっぱり都市が形成される近代以前に河原を住処としていたからそう名付けられたんでしょうか?
漢字で書くと「河原鳩」なので、なんだかその可能性が高そうですよね。
でもいま現在、彼らはおもに街中に住んでいます。
であるならば、生活様式の変化に合わせて名前もリニューアルしたほうがいいんじゃないでしょうか?
私はしたほうがいいと思います。
という訳で、名前をつけてやる。

えーっと、えーっと…。
街鳩?
ありきたりですね。
じゃあ、都市鳩?
つまんね。
なんかいいアイデアないかな…。

いい名前を思い付きました!
そして都合のいいことにベランダにカワラバトさんが…。
ガラガラ。

「もしもし。カワラバトさん…」
「くーくー」
「あなた方って河原鳩という名前なのにずっと街に住んでるじゃないですか?」
「んぽっぽー」
「なので、新しい名前を考えてあげましたよ」
「くるっくー」
「シティ・ポッポってのはどうですか?」
「…」
「カワラバトさん…」
「…」
「どうしたんですか? 豆鉄砲食ったような顔しちゃって…」

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