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憧れの爺さん
来て早々、
「おーいタバコくれ」と一言。
デイサービスで預かっているタバコを職員から数本受け取り、杖で床を叩きながら灰皿を目指して歩いていく。
その爺さんは膝が悪い。横柄な態度とは似つかわしくないゼンマイ式のおもちゃのロボットのような足取で、そよ風に追い越されながら喫煙所との距離を詰めていく。
皆が集まるフロアには顔を出さない。
「死にかけが集まるところに座れるか!」と、死にかけが言う。
お互いさまだ、タメ口を使ってくる奴には、年上だろうがタメ口を使っていいように、憎まれ口を叩けば倍返しで返ってくるものだ。
背が小さい。ぼくは170センチ。その人の頭の先ははぼくの方までしかない。黄土色のニット帽の下は禿げている。上下ジャージ。踵を踏みに踏みつけたスリッポン。
喫煙所に着くと、背もたれのある深いソファーに座りしかめっ面でタバコを吸う。爺になっても、斜め上の空を見上げながらタバコを吸うのだなぁと思った。
他の利用者さんでタバコを吸う人はいない。
タバコで深まる縁もなくただひとり寒空の下、タバコをふかす。肺も心臓も良くはないのにタバコを吸う。
中学生のころ、タバコを吸う大人がカッコよかった。ドラマでタバコを吸うシーンも流れていたし、会社のデスクには灰皿が置いてあった世代だ。
30歳までタバコを吸っていたが、やめた。
体に悪いものを取り込んでいる意味が分からなくなったから。
でも、タバコを吸うことで孤独が得られるなら、
晩年、数本くらいはタバコを吸おうかと思う。
その爺さんは、ぼくの憧れだ。
介護は大変。介護職はキツイ。そんなネガティブなイメージを覆したいと思っています。介護職は人間的成長ができるクリエイティブで素晴らしい仕事です。家族介護者の方も支援していけるように、この活動を応援してください!よろしくお願いいたします。