僕悪2

『僕は悪者。』 11

 

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  一一
翌日はほとんどいつもと同じ金曜日だった。ただ少し違うのは俺には会話相手ができたことだ。そう、それは片桐美梨だった。
彼女は一〇分休みも、そして昼休みも俺の隣に座り続けた。今日は他の女子生徒から見限られたのか朝から誰も片桐美梨に話しかけに来なかった。
まるで、転校生など来なかったかのように淡々と日常が流れ始めた。
「ねえ、あなたは結構しっかりと無視されてるね。」
「しっかり?」三時間目が終わると彼女は俺に話しかけた。
「そう。私も前の学校では無視されたけど、なんというかここまでではなかった。認識はされてたというか。なんというか。まあ、認識されてたから暴力的なイジメもあったわけだけど。あなたはそうじゃなくて、どちらかというと孤独を押し付けて精神に対してイジメてる感じ。」
「そう、なのかな。」俺はもちろん他の学校のイジメのことなんか知らなかった。もちろんこの世の中には学校や会社でイジメが俺以外にも行われているということは知っている。だが、そうして自殺するような奴を俺は心の底から憎んでもいた。
 なんでお前がいじめられたからといって死ぬ必要があるのか。小さな世界で構築されたカースト制度の中で匪賊の地位にいるからといって、自殺する必要はない。
学生の奴らはそいつらに復讐する心を持って努力して社会に出てから大活躍すればいい。
社会に出てもなおイジメられるのならその悔しさをバネに会社を始めたりして成功すればいい。会社が失敗したのならまた何度でも立ち上がればいい。と俺は思う。胸焼けするほどの甘ちゃんな考えなのかもしれないけど、死ぬよりはずっとその方がいい。
俺がいじめられ始めた頃、なんとか生き残るのに必死で、いじめられて社長になった人の本なんかを読み漁った。
だが、それはなかなかできないということも知っている。今どんなに努力しても、教室の中で一番可愛い女の子とセックスをしているのはキンタマが脳みそで脳みそがキンタマの大きさほどしかないのではないかと思える前髪に油を塗り右や左へミリ単位の調整をすることが趣味のくそったれヘボ男だからだ。
だから、悩みもするし努力することが無駄にも思える。そうして劣等感から自殺する。
バカだ。バカだ。バカだ。
そんなに自殺したいのなら、最も憎んでいる相手を殺してから死ねばいい。殺すのが道徳的にどうのこうのと抜かす坊ちゃん育ちの腐れ野郎なら、最も憎んでいる相手のちんぽを切り落としてから死んだらいい。
なぜイジメられているからといって死ぬのだ。死ぬべきなのはイジメている側の人間だ。
俺がヒトラーならいじめを見つけたらイジメている人間を収容所に送る。ギリギリになるまで過酷な労働を強いて、最後にはガス室に突っ込んで殺すだろう。俺が吉良吉影なら相手を爆発して殺すだろう(ちんぽだけを残してもいいかもしれない。ちんぽを削ぐ逆バージョンだ。ちんぽ以外が爆発する。)俺がジョーカーなら相手の心を引き裂くような恐怖を植え付けた後に殺すだろう。
とにかく俺はいじめられただけで死ぬような弱虫じゃない。イジメる側の人間を実際に殺してでも自分は生き残ろうと思うタイプだ。
だが片桐美梨はそうではなかった。相手を殺したいと思っているようでもなければ、いじめを気にしている風でもない。俺にはない余裕が彼女にはあった。
「なあ。そうやって話しかけてくれるのは嬉しいんだけど、俺に話しかけない方がいいよ。片桐さんも無視されるよ。」俺は今更だけれど彼女に言った。
「いいの。大丈夫。私もイジメられるのが何も好きってわけじゃない。転校したらうまくいくように祈ってた。だけど、隣の席の人がいじめられてるって、なんでかわかんないけど、すぐに気がついて。そしたら無視できなかった。気持ちがわかるもん。」気持ちがわかる。だって?そう言ったのか片桐美梨は。俺の気持ちがわかるだって?
俺が同級生全員をぶち殺そうとしていた気持ちがわかるっていうのか?
この女も前の学校では頭の中で全員ブチ殺していたのかもしれない。憎い相手の顔の皮膚をむいて金魚に餌として与えることを想像して精神の衛星を保っていたのかもしれない。首を切って、内臓を引きずり出すことを想像していたのかもしれない。
いや、違う。片桐美梨はそんなことを言ったのではない。
 片桐美梨が言った「気持ちがわかる」というのは、俺の「孤独」を理解することができるということだ。
ああ、なんていうことだ。俺は、俺は、それでは「孤独」ではなくなってしまうじゃないか。
俺が同級生を殺したいほど憎み始めたのは俺の「孤独」がためだ。もしも一人でも俺の「孤独」を理解してくれた友人がいたのなら、それはもう「孤独」ではない。俺もここまで狂気的な妄想ばかりしないですんだかもしれない。
だが、そんな俺にもついに訪れた。しかも、こんなに可愛い片桐美梨が俺の理解者だ。
最高だ。最高だ。最高なはずだ。
「ありがとう。」俺はそう答えた。


(つづく)

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