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アラジンさん
しゅーん、しゅーん、しゅーん。
水を張ったグリルパンの上、すのこにのせられたプリンを温める音が庫内にひびく。
エプロン姿のみみちゃんが、時々庫内をのぞきに来る。
浅めのグリルパンと深めのグリルパンでおおわれているから、中のプリンは見えないよ。
そう思ったけれど、みみちゃんがそうやって見に来てくれるのが僕は好きだ。
今日は土曜日で、みみちゃんはおうちで家事をしている。
朝から洗濯と掃除をして、新しく来たお花のお水を変えたり鼻歌を歌ったり、たまにくしゃみをしたりしている。
みみちゃんは僕のことを「アラジンさん」と呼んでくれる。
アラジンさん、今日は煮物をお願いします。アラジンさん、今日は玄米を炊きます。アラジンさん、いつもおいしいごはんをありがとう。
僕は今年の春にみみちゃんのおうちにやって来た。みみちゃんにはお姉さんがいて、お姉さんが遊びに来ているときに2人で協力して僕をキャビネットの上においてくれたのだ。
2人は僕を見て、「立派だねぇ」「かわいいねぇ」「やっぱり白にして正解だったね」と口々にほめてくれた。
僕はうれしくて誇らしい気持ちになって、これからみみちゃんのために存分に腕をふるおうと決意した。
みみちゃんはお料理が好きで、僕でいろんなものを調理してくれる。
僕はトースターだけど、オーブン機能もグリル機能もついているから、蒸すのも煮るのも温めるのもお手のものだ。
白米の炊飯、カレー、かぼちゃの煮物、クッキー。
みみちゃんは僕を毎日のように活躍させてくれる。
だから僕はみみちゃんが僕を使ってくれる度に、しっかりと自分の役割を果たすようつとめている。
そしてみみちゃんは、僕をとても大切に扱ってくれる。
使い終わったらきれいにしてくれるのはもちろんのこと、ときどきは庫内を大掃除してもくれる。僕の頭をやさしくなでて、ていねいにお礼を言ってくれることもある。
みみちゃんが最初に僕を使ってくれたのはパンをトーストする時だった。
「やっぱりまずは王道の使い方だよね」
そう言って僕でパンを焼いて、とてもおいしそうに食べてくれたのを今でもよく覚えている。
みみちゃんのお母さんが遊びに来た時には、僕のことを「ジュークボックスみたいでかわいいでしょ」と言って自慢してくれた。
最近は、お姉さんがテイクアウトのカツカレーを持ってみみちゃんのおうちに来たときに、カツと白米を温めるのに使ってくれた。
カツと白米をトレイに載せて、カツが熱されてプチプチいう音を2人で楽しそうにながめているところが、すごくほほえましかった。
みみちゃんとお姉さんはちょっといいお弁当を食べて、その後カツカレーを半分こしていた。
お姉さんが3/4、みみちゃんが1/4に分けていたから正確には半分こではないけれど、2人で仲良く分けっこして食べていたのだ。
「やっぱりレンジでチンするのとはちがうね」「カツがカリカリだもんね」「ごはん焼きおにぎり風になったね」
あかるい秋の昼下がり、仲良しの2人が楽しそうにうれしそうに僕が温めたごはんを食べている様子を見ながら、僕は明日もあさっても、みみちゃんのために精一杯がんばっておいしいごはんのお手伝いをしますと神さまにささやかな宣言をしたのだった。
この小さな物語に目を留めてくださり、 どうもありがとうございます。 少しずつでも、自分のペースで小説を 発表していきたいと思います。 鈴木春夜