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新卒1年目に下された暗号「サンシャノグリパーレンルビニシトイテ」

いきなりですが「サンシャノグリパーレンルビニシトイテ」の意味、分かりますか?わかった人は同業者に違いない。この一言には新聞の「業界用語」がぎっしり詰まっています。

初めてこの言葉が上司から飛んできたときは、同じ日本語を話しているとは思えませんでした。端から端まで何のことだか分からない。暗号か!?

そんな僕も校閲記者6年目になった今では、いろいろな業界用語を理解できるようになりました。そこで改めて暗号「サンシャノグリパーレンルビニシトイテ」を解読してみようと思います。是非お付き合いいただき、新聞編集の現場の空気を感じてみてください。

※すべて中日新聞の編集局で使われる業界用語です。ほかの新聞社では使われていないかもしれません。


ではまず、この暗号に出てくる業界用語ひとつひとつを説明していきます。

サンシャ(三社)

意味:第3社会面というページ名の略。新聞のテレビ欄の裏面から数えて3ページ目。2ページ目は「二社にしゃ」だが、なぜか1ページ目は「一社いっしゃ」とは呼ばない。

グリ

意味:1行目に★マークと見出しがついている、短くまとめたスタイルの記事。短信とも呼ばれる。

グリの記事

パーレン

意味:丸かっこ()のこと。

ルビ

意味:ふりがな。
ちなみに、この言葉が宝石のルビーの大きさに由来しているというロマンチックな説に関して以下の記事で解説しています。


つまり「サンシャノグリパーレンルビニシトイテ」は「三社のグリ、パーレンルビにしといて」と言っています。

そしてこれを社外の人に伝わるよう訳すと

「新聞のテレビ欄の裏面から数えて3ページ目に載っている、1行目に★マークと見出しがついている、短くまとめたスタイルの記事にあるふりがなを、丸かっこで囲んだタイプのものに変えておいてね」

になります。長い!!


しかし、具体的になにを指示されているか、本当に理解するにはさらに前提となるルールも知っていなくてはなりません。

中日新聞では基本的に横ルビ、つまり文字の横にふりがなを付けています。

「けんたい」が横ルビ

一方、「グリ」の記事は、一般的な記事より行の間隔を狭くしているため、ふりがなを入れるスペースがありません。そのため、対象の文字に続けて丸かっこで囲んだふりがな(パーレンルビ)を付ける必要があります。

「(てつ)」がパーレンルビ

このルールが共有されていることを前提として、スタイルのルール違反を指摘しておけというのが「三社のグリ、パーレンルビにしといて」の本当の意味なのです。

こうしろということ


業界用語は時間に追われる新聞編集の現場で、短時間で意思の疎通を図るために先人たちによって生み出されてきたのでしょう。

「新聞のテレビ欄の裏面から数えて3ページ目に載っている、1行目に★マークと見出しがついている、短くまとめたスタイルの記事にあるふりがなを、丸かっこで囲んだタイプのものに変えておいてね」

「三社のグリ、パーレンルビにしといて」

で済むのですから短くて便利です。いちいち長く説明していては間に合いません。

一方で、明確な定義づけがされていないので、たまに部署間や個人間で意味が通じなかったり、違うものを指したりすることもしばしば。例えば「グリ」は東京本社では聞いたことがないと先輩が言っていました。

そう考えると過剰に独自の言葉を使いすぎるのもよくない気がします。

そもそも新聞校閲の仕事は、わかりやすく、誤解を与えないような言葉を使った記事にすることです。その現場で使われている言葉が呪文のようで伝わりにくいというのはなんだか皮肉な話かもしれません…。


最後までご覧いただきありがとうございます。
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