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野球好き校閲記者によるプロ野球記事の話


とうとう今シーズンのプロ野球も終わってしまいました。
白熱の日本シリーズ、最後の最後まで目が離せませんでした。
中日新聞といえば中日ドラゴンズ、と思われる方も少なくないのでは?
そのとおり、本紙の運動面には、ドラゴンズに関する記事が毎日多く並んでいます。

そんなドラゴンズの記事を校閲するときに欠かせないのが、スコアシート
記事中に出てくる試合経過の記述が正しいかどうか、スコアを使って校閲しています。

今回は、プロ野球速報などが充実した現在でもスコアで確認をする理由や、実際にどのような作業をしているのかをお伝えしていきたいと思います。

スコアで確認する理由

こちらが野球のスコアシート。
校閲記者が確認作業に使った実際のものです。

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ドラゴンズ戦のスコアは、プロ野球などのスポーツに関わるニュースを取材している運動部から毎試合届きます。
運動部デスクによれば、このスコアはアルバイトがテレビ中継を見ながら記録しているそう。
そして、公式記録と照らし合わせて正しいことを確認したのちに、関係部署に配布しているとのことです。
なので、まず情報源として比較的信用できます

また、いまどき野球の詳しい速報はインターネットなどで手軽に見ることができますが、読み方さえ分かればスコアで確認した方が手間がかかりません。高校野球の校閲についての記事でも触れられていましたが、改めてスコアの便利さを実感しますね。

書かれている内容が正確であり、そしてスピーディーに確認作業を行うことができる。これがスコアで確認をする理由です。

こうやって確認しています

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こちらは「戦評」と呼ばれる記事です。
試合のあらましが10行程度の文章にぎゅっと凝縮されていて、これを見ればどのような試合であったかすぐに分かるようになっています。

校閲記者はスコアと記事とを照らし合わせ、内容に齟齬がないかを確かめます。

このときは初めから誤りはありませんでしたが、

記事がもしこうなっていたら?

2点を追う八回、代打のA・マルティネスが中越えに2ラン

太字の箇所をどのように確認していくか、解説してみたいと思います。
「2ラン」であったかどうかを確かめるために大事なのは、A・マルティネスがホームランを打ったときに塁がどれだけ埋まっているか、です。

スコアでの該当箇所はこちら。

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八回のドラゴンズの攻撃を記したスコア。
この回は1番の京田から始まった
◆該当箇所に登場する記号
4=セカンド、3=ファースト、8=センター
︶=ゴロ、◇=ホームラン
Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ=アウトカウント
⚾=得点

スコアを見てみると、ホームラン(◇8)を打ったA・マルティネスの打席の前に、この回先頭打者の京田がセカンドゴロ(4-3)で倒れ、1アウト(Ⅰ)となっています。
つまり、A・マルティネスが打席に立った時点で塁上には誰もおらず「2ラン」は誤りで正しくは「ソロ」だと分かります。


このように、

2点を追う八回、代打のA・マルティネスが中越えにソロ。

という1文だけでも、

・八回の時点でドラゴンズが2点差で負けている
・A・マルティネスが代打出場している
・ホームランをセンター方向に打っている
・ソロホームランだった

と、これだけの確認事項が詰まっているのです。

以上がスコアシートを使って「戦評」を校閲するときの大まかな流れです。試合経過が正しいかどうか、ひとつずつ丁寧に確認しています。

平日はナイターゲームがほとんど。試合が終わるころには降版時間がすぐそこまで迫っていて、中々ゆっくりと調べることができません。

そんな時にスコアシートを見れば、試合の正しい記録がすぐに確認できる、というわけです。限りある時間の中で確実に正誤を判断する力が求められる新聞の校閲記者にとって、スコアシートはなくてはならない存在なのです。

スコア以外から得られる情報も

もちろん、インターネットで確認する情報もたくさんあります。
今回の例でいえば、「連敗を3で止めた」という箇所なんてまさにそう。ドラゴンズや日本野球機構(NPB)のサイトからこれまでの試合結果のページを開き、ドラゴンズが本当に3連敗中であったかどうかを確かめます。

また、インターネットだけでなく、選手名鑑やルールブック、過去の新聞記事などなど…その時々に応じて必要な資料を利用しています。

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運動面の机に並ぶ資料など

さいごに

残念ながら今シーズンを5位で終えたドラゴンズ。

「○回連続で適時打が出ていない」「○試合連続1得点以下」
などネガティブな記録が出てくることもしばしば…。
大のドラゴンズファンの私にとっては傷をえぐられる作業でした…笑

来シーズンは、明るい記録が並んだ記事を校閲できることを切に願っています。

がんばれ、ドラゴンズ!

この記事を書いたのは
稲垣 あやか
2020年入社、名古屋本社編集局校閲部。
アクセサリー集めも趣味。最近、好物のヤマドリタケ(ポルチーニ)のイヤリングを手に入れました。