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小説「えむしたのこと」

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・文学フリマ東京37 (星屑と人魚2023秋冬号/https://bunfree.net/event/tokyo37/)  └ 「つむじ風と人魚」(マガジンは加筆修正前の原作で…
ルームシェアをしながら、歌い手活動をしている「明日」と「えむち」。明日の部屋の一輪挿しが枯れ、花瓶…
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#えむした

【0001】えむしたのこと「明日がいなくなった。」

あらすじ ルームシェアをしながら、歌い手活動をしている「明日」と「えむち」。モデル活動も…

楢﨑古都
1年前
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【0002】えむしたのこと「常盤色のはじまり」

 なにかがおかしいと気がつきはじめたのは、じぶんの体温よりも高い温度の湯船につかるのがひ…

楢﨑古都
1年前
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【0003】えむしたのこと「とりあえず、みんな嫌い。」

 しみは親指の腹でこすると色味が増して、ほのかに発光した。  わたしはきっと、ここでえむ…

楢﨑古都
1年前
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【0005】えむしたのこと「のらりくらりと姿を眩ましていられるほど、わたしの将来は盤…

 歌わなくなって久しい。それでも、未だに誘いは来る。身に過ぎた話だ。そんな好意を、都度頭…

楢﨑古都
1年前
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【0006】えむしたのこと「ねえ、それってタトゥーいれてんの」

 常盤色について、世間一般では奇異と羨望の視線を受けることがしばしばだ。正式名称は毛細血…

楢﨑古都
1年前
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【0007】えむしたのこと「じゃあな、おまえら。おつえむって言え。」

 でも、えむちにはえむちの交友関係があったし、わたしも慣れない外の生活に日々ついていくの…

楢﨑古都
1年前
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【0008】えむしたのこと「何かもっと彼女にとって決定的な手段」

 さっそくえむちのツイッターへ飛ぶと、ダイレクトメッセージは解放されていた。これなら直接、本人と連絡がとれる。しかし、メッセージ画面を開き、いざ本文を打ち込もうとすると、何を打てばいいのか、いや打つべきなのか、途端にタイピングの指がかたまってしまった。  ひさしぶり?  元気にしてた?  高校ぶりだよね?  わたしのこと、覚えてる?

【0009】えむしたのこと「そうだね、概ね本気だね」

 以前、カンナさんから言われたことがある。  あんたたちはニコイチなんだから、いつまでも…

楢﨑古都
1年前
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【0010】えむしたのこと「わたしたち、気があうと思う」

 ほどなくして、わたしと明日のルームシェアは開始された。明日という人間は、せっかくの大学…

楢﨑古都
1年前
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【0011】えむしたのこと「あああああ、もったいないもったいないもったいない」

「それでさ、さっそくなんだけど」  カップのふたをとり、生クリームをすくっていた明日は首…

楢﨑古都
11か月前
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【00012】えむしたのこと「きっとあきらめていないから」

 起き上がるのが面倒くさい。雨が降っている気がする。頭の奥の奥の方がじんわりと痛んで、寝…

楢﨑古都
11か月前
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【0013】えむしたのこと「あそこまで弱いと思っていなかった」

 えむちは、そんなカンナさんに心酔していた。  発声練習のためにここへ通い詰め、あまりに…

楢﨑古都
11か月前
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【0014】えむしたのこと「心の声が飽和する」

「あーくそっ、やっと見つけた」  あの日のカンナさんにまた引きとめられたのかと思った。 「…

楢﨑古都
10か月前
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【0015】えむしたのこと「ねえ、ずっとここにいなよ」

 帰宅すると、明日はほんとうに帰ってきていた。終電帰りのわたしを起きて待っているはずもなく、案の定すやすやと寝息を立てている様子をそっと開けた扉の隙間から見つけると、もうそれだけで膝から崩れ落ちた。  馬鹿みたいだ。明日が帰ってきただけじゃないか。毎朝LINEも送っていたし、途中から返信は来なくなっていたけれど既読はついていた。