マガジンのカバー画像

小説「えむしたのこと」

33
・文学フリマ東京37 (星屑と人魚2023秋冬号/https://bunfree.net/event/tokyo37/)  └ 「つむじ風と人魚」(マガジンは加筆修正前の原作で…
ルームシェアをしながら、歌い手活動をしている「明日」と「えむち」。明日の部屋の一輪挿しが枯れ、花瓶…
¥300
運営しているクリエイター

記事一覧

【0001】えむしたのこと「明日がいなくなった。」

あらすじ ルームシェアをしながら、歌い手活動をしている「明日」と「えむち」。モデル活動も…

楢﨑古都
1年前
34

【0002】えむしたのこと「常盤色のはじまり」

 なにかがおかしいと気がつきはじめたのは、じぶんの体温よりも高い温度の湯船につかるのがひ…

楢﨑古都
1年前
32

【0003】えむしたのこと「とりあえず、みんな嫌い。」

 しみは親指の腹でこすると色味が増して、ほのかに発光した。  わたしはきっと、ここでえむ…

楢﨑古都
1年前
30

【0004】えむしたのこと「バカ馬鹿バカ馬鹿」

 どうして、いつだって手の届く範囲にいてくれないのだろう。欲しいものは欲しいと宣言しなけ…

楢﨑古都
1年前
24

【0005】えむしたのこと「のらりくらりと姿を眩ましていられるほど、わたしの将来は盤…

 歌わなくなって久しい。それでも、未だに誘いは来る。身に過ぎた話だ。そんな好意を、都度頭…

楢﨑古都
1年前
23

【0006】えむしたのこと「ねえ、それってタトゥーいれてんの」

 常盤色について、世間一般では奇異と羨望の視線を受けることがしばしばだ。正式名称は毛細血…

楢﨑古都
1年前
24

【0007】えむしたのこと「じゃあな、おまえら。おつえむって言え。」

 でも、えむちにはえむちの交友関係があったし、わたしも慣れない外の生活に日々ついていくのに必死で、高校では会話らしい会話を交わさなかった。必要があれば交わしていたのだろうけれど、その必要性をお互い感じなかったのだから仕方がない。でも、偶然にも接点はあった。わたしたちはインターネット上の配信サイトで毎晩、ハンドルネームと二次元の固定キャラクターを設定して、ラジオ番組のような、リスナーとの雑談配信をとっていたのだった。

【0008】えむしたのこと「何かもっと彼女にとって決定的な手段」

 さっそくえむちのツイッターへ飛ぶと、ダイレクトメッセージは解放されていた。これなら直接…

楢﨑古都
1年前
24

【0009】えむしたのこと「そうだね、概ね本気だね」

 以前、カンナさんから言われたことがある。  あんたたちはニコイチなんだから、いつまでも…

楢﨑古都
1年前
19

【0010】えむしたのこと「わたしたち、気があうと思う」

 ほどなくして、わたしと明日のルームシェアは開始された。明日という人間は、せっかくの大学…

楢﨑古都
1年前
20

【0011】えむしたのこと「あああああ、もったいないもったいないもったいない」

「それでさ、さっそくなんだけど」  カップのふたをとり、生クリームをすくっていた明日は首…

楢﨑古都
1年前
18

【00012】えむしたのこと「きっとあきらめていないから」

 起き上がるのが面倒くさい。雨が降っている気がする。頭の奥の奥の方がじんわりと痛んで、寝…

楢﨑古都
1年前
21

【0013】えむしたのこと「あそこまで弱いと思っていなかった」

 えむちは、そんなカンナさんに心酔していた。  発声練習のためにここへ通い詰め、あまりに…

楢﨑古都
1年前
17

【0014】えむしたのこと「心の声が飽和する」

「あーくそっ、やっと見つけた」  あの日のカンナさんにまた引きとめられたのかと思った。 「あらら、えむちだ」  銀行での両替待ちが思ったよりもスムーズに済んで、ビニール傘を軽い足取りで開き、歩きだした瞬間だった。 「ひさしぶり」