【0009】えむしたのこと「そうだね、概ね本気だね」
以前、カンナさんから言われたことがある。
あんたたちはニコイチなんだから、いつまでもバラバラ活動してないで、とっととユニットでも組んじゃいなさい。
言われたときはわからなかった。大学までエスカレーターの高校を卒業して、友人関係なんて何も変わらないまま女子大生活に突入したわたしは、その生ぬるさに嫌気がさし、早々に離脱組に属してしまった。学校は好きだったけれど、これ以上ここで何かを得られるという確信がまったく抱けず、夏には退学届けを出していた。
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ルームシェアをしながら、歌い手活動をしている「明日」と「えむち」。明日の部屋の一輪挿しが枯れ、花瓶の水が澱みはじめた頃、えむちはようやく今回の失踪が普段の気まぐれとはどこか違うのではないかと察する。不安は的中しており、明日の体には常盤色化と呼ばれる異変が生じはじめていた。植物の蔦を模したようなしみが皮膚に広がり、やがて全身を覆ってしまう奇病。一方、えむちはある事件をきっかけに人前で歌うことができなくなっていた。移り変わってゆく、彼女たちの季節を追う物語。
小説「えむしたのこと」
300円
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