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紙谷惠子歌集 :5/5 のびやかな稲穂一本…


 歯と目:7首 秋の夜:4首 リビング:69首 雑詠:17首


歯と目

歯と目:7首

冬の日に抜歯の指示あり主治医から
   空耳に歯を削る音がし

ヘルパーが抜歯日和だとジョーク云い
   姉はうなずき我は空見上げ

陽射し春局所麻酔が効かなくて
   抜歯中止に医師の顔見る

街路樹が緑を増してさわやかに
   抜歯成功入れ歯はピタリ

新しい入れ歯馴染まず顰めづら
   診療所駆け込みたいと

夏の日に眼科オペ室冷房で
  我寝台に寒さ堪えて

眼の術後美しきもの見るたびに
  見える喜びひましに深く

秋の夜

秋の夜:4首

カーテンを手織りの白に取り替えて
   我の夜長をひとり楽しむ

鈴虫の音がベランダに聴こえきて
   はてさて11階のミステリー

秋雨の銀糸のような繊細美
   また蒸し暑くエアコンを入れ

松茸を持つ手小躍りしたりける
   絵画吟味のパーティーの夜に

リビング

リビング:69首

太陽がベランダフェンスに腰かけて
   ご機嫌いかがと我に問うてる

高取の山に初日が沈みゆく
   21世紀一日は過ぎ

クリスタル小物並べて春の日に
   陽光誘い光と遊ぶ

リビングに七草粥の香り来る
   空はどんより雪も降るらし

七草の粥をいただく休日を
   のんびり気分雨で満喫

シンプルな七草粥の美しさ
   生命力と希望を秘めて

炊きたての七草粥が美しく
   雪が解けたる畑に似たり

リビングに鉄の折り鶴舞い降りて
   二羽で語るやこれからの旅

霧なのか黄砂なのかとリビングで
   節分間近迷う昨今

土曜朝春慶節の稽古音
   また楽しみが出来たと思う

大寒の好みの通り寒波来て
   高取山をガラス越しに見

大寒の夕方近く太陽に
   霞かかりてパステル調に

幼な子の作りしビーズ人形は
   春の陽を浴び未来に輝く

春嵐斜め向かいのマンションの
   知人の部屋の点灯を待つ

曇り日に花束もらいリビングに
   また春が来て詩口ずさむ

春嵐いかに咲くやら部屋桜
   カーテン開けば山笑い来る

春雨に凮(ふう)月堂の桜餅
   箱を開けると雅楽が聞こえ

ふうげつ堂元町本店


薄霧が太陽包み朱色の
   球体に見え山波に沈み

春の日に明日の天気が気になると
   てるてる坊主タオルでつくる

山笑い神戸祭やパレードの
   生中継をテレビの前で

ティータイム初夏の青空ヘリが飛ぶ
   神戸祭りのパレードの最中

空木の葉青く茂るる盆栽を
   ベランダに置き皐月陽浴びせ

カーテンの隙間がしらみ夜が明ける
   まだまだ寒い連休の朝

お風呂場に新聞紙に巻き菖蒲の葉
   今夜も願う無病息災

菖蒲湯にのんびりつかり香りよく
   緑の葉から力をもらう

白壁の中からピエロ現れて
   紫陽花色に染まる真夜中

雨音に簾巻き上げ梅雨空に
   雲の切れ目が出来ないかなと

引っ越しにてるてる坊主作ろうと
   布切れ探すも外は空梅雨

雷鳴にカーテン開けて電気消す
   稲妻狂宴一人相手し

沖縄は梅雨があけたと報じられ
   高取山はうす霧かかり

初夏近く雨あがる朝鳥一羽
   高取山に向かい飛び行く

朝7時六甲の山高取に
   若葉の萌えて幸せ気分

梅雨明けとセミの話題がリビングに
   話され始めて大空眺め

微熱あり午后の採血リビングに
   医師のワイシャツ初夏物語り

リビングに初夏の西陽を浴びながら
   風さわやかにオアフを想う

リビングに風呂のサービス来てもらい
   ゆたゆた湯音楽しむ初夏

太陽が高取山の右に来て
   我恥ずかしいくらいに見つめる

七夕の今宵嵐が来るという
   手織りし布に織姫思う

簾巻きご機嫌いかがと呼びかける
   高取山は無言のままに

リビングに生花なくてベランダの
   ブルースターの様子伺い

カーテンの明るく透ける夏の朝
   午後の暑さを物語るかな



吊り替えた藍染簾の白い縞
   涼しげに見る葉月ついたち

対面の台所よりシャボン玉
   一つ流れ来我テレビ消す

真夏日に日差し和らぐ藍染の
   簾が景色見えなく隠し

初摘みのコーヒー立てて香り嗅ぎ
   ベランダ景色透明度まし

マドラーのアイスコーヒー混ぜる音
   去りゆく夏の思い出辿る

初夏の夕陽厳しく射し込みて
   黄色カーテンオレンジ色に

空白み息苦しくて小窓開け
   雀のさえずりカラスがとめる

塩害にベランダ畑夢破れ
   ハーブの葉っぱみな赤くなり

のびやかな稲穂一本リビングで
   お辞儀を始め名句がよぎり

白壁に写る花影柔らかく
   秋の気配が漂い始め

秋の朝風呂のサービス気持ちよく
   スタッフ見送り澄む空眺め

梨を盛る切り子の器クリスタル
   ガラスと共に光り輝き

リビングのドライフラワー西陽浴び
   初秋の影絵白壁にあり

午后の5時西陽浴びたるクリスタル
   多色に輝き我目離さん

夕陽射しアヒルの親子クリスタル
   まどろみ醒めて輝き合唱

夏の日に拾ったピアスは秋の陽に
   輝き夏の持ち主探す

秋空にベランダ畑のむかご摘み
   姉は珈琲友は料理を

爽やかにカーテン踊る日曜日
   六甲の稜線まだ色づかず

土曜午後ベランダ景色澄み渡り
   小春日和に雲一つ浮き

冷え込めば桜紅葉の盆栽を
   このリビングで君と見れるか

リビングに寒波襲来13度
   高取山はピンーと美し

我が住居工事シートが外されて
   ベランダ景色晩秋となり

湯に浸る身に掛けられたバスタオル
   染みた湯気冷め寒さを招き

きんかんの砂糖漬け瓶キッチンの
   対面窓に日々眺めるや

リビングのからくり時計陽光に
   クリスタル天使輝き踊る

クリスマス切り紙カード陽にかざし
   漏れる光が壁に影絵を

リビングに火の用心の声届き
   カーテン開けて夜空を眺め

白壁に微笑みながら新しい
   カレンダー掛け胸弾み出し

雑詠

雑詠:17首

からくりのついた時計に時とられ
   60分に一度ときめき

我が名札見られた恩師籠果実
   描いた画用紙眠れる我に

一匙のママンの作ったババロアに
   春の陽が射しプルプル揺れる

訪問の医師待ち続け明日に延び
   夕陽は落ちて連休つぶれ

諏訪山で摘みし野いちごママンから
   三つぶ頂き甘さ感激

台風が6月襲う予報士は
   めかしメモ読むタレントのよう

産まぬ人子育て論に一歩引き
   笹に短冊子らの望みが

陶板の桜んぼの絵小さくも
   熱きスペイン風も描かれ

誕生日我が詩歌の本ワープロで
   限定一冊ママンが作り

誕生日ママンに姉に友来たる
   ランチ頂きあらetc

家系図を復元する旅に出たという
   老女の身体酷暑を寄せず

亡くなりし牧師の遺影懐かしく
   晩秋の陽がやさしく包む

お土産のパテオテーブルクロスにし
   切子のグラス夕闇に光る

塩害がベランダ畑の夢破り
   老女ひとりがはるか海見る

株式のテレビ情報見る老女
   ひざのハンカチ両手でねじり

往診時君の句を聞き秋風に
   揺れるブランコ目に浮かびおり

幼子の作りしビーズ人形は
   冬の陽浴びてキラッと春待つ


ご覧くださってありがとうございます。

● 紙谷惠子歌集(全5ページ)● はこちらからhttps://note.com/kotiku/m/m64dd26ef5b52



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