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システマティックレビューを読む①

こんばんは、長澤虎徹(ながさわこてつ)です。製薬会社で薬理研究に勤しんでいます。今日も新薬候補をせっせと培養細胞、病態モデルマウスに浴びせてきました。

研究者は論文を読むことも大事な仕事

私も多くの研究者の方と同様に、日々論文を読み、そこに掲載されている実験条件や手技などを自分の仕事に取り込んでいます。そういった目的のため、私が普段目にする論文は基礎実験や薬理実験に関するものが殆どです。

しかし最近、プロジェクトの臨床入りを見据えて、臨床研究に関する文献に目を通す機会が多くなりました。

そんな中で出会ったとあるレビュー文献が以下。

Natriuretic peptides for the detection of diastolic dysfunction and heart failure with preserved ejection fraction-a systematic review and meta-analysis (Remmelzwaal et al. BMC Medicine (2020) 18:290)

心不全、心肥大に関連するバイオマーカーとしておなじみのBNP(NT-pro BNPも含む)。これがHFpEF (heart failure with preserved ejection fraction; 駆出率の維持された心不全) 、およびその前段階だと考えられる拡張不全 (diastolic dysfunction; DD) の診断マーカーとして有用かを調べたメタ解析。

この文献を読んで学んだことを書き残していこうと思います。

システマティックレビューとメタアナリシス

まず、システマティックレビュー(以下SR)とメタアナリシス(以下メタ解析)についてその定義を確認しましょう。

SRとは、質の高い複数の研究結果を、複数の専門家によって一定の基準と一定の方法で(=システマティックに)取りまとめ作成した総説。特定のクリニカルクエスチョンを設定し、それに対する答えを求める。

SRに対し、とあるKOL(Key opinion leader: その分野の偉い先生、のような理解で大丈夫かと)が(独断と偏見で)まとめたいわゆる総説は「Narrative review」と呼ばれます。私はこちらを単に「レビュー」と呼んでいます。

SRとは対照的にその言及範囲は広くなり、「とある疾患に対する疫学、病態、発症メカニズム、そして治療法」という形で最新の研究状況がまとめられていることが多く、情報の整理にとても役に立ちます。

新しい研究テーマや対象疾患のプロジェクトの担当になった場合は、とりあえずなるべくいい雑誌に掲載された1年以内のnarrative reviewを読んで、その研究動向をキャッチアップしようとします。

また、進行中のプロジェクトにおいても、いい雑誌のnarrative reviewについてはその内容を確認し、自分の情報収集に漏れがないかを確認しています。大抵の場合は漏れがあるので、この確認は重要です。

そしてメタ解析ですが、これはSRに内包される概念だと理解しています。SRでは複数の研究論文を集めてきますが、データを統合するときに統計的手法を用いるか否か。

SRを名乗るためには、データの集め方が重要です。さらに統計的手法を用いた論文ではメタ解析と記載してもいいことになります。あるいはその解析自体を指してメタ解析とも言います。

システマィックレビューはエビデンスレベルが高い

SRによって示された結果は、エビデンスレベル(結果に対する根拠の信頼性)が最も高いため、臨床ガイドラインの作成時に最も重視されます。

SRに次いでエビデンスレベルが高いのはRCT(ランダム化比較試験、新薬の臨床試験などでよくある)やコホート研究(ある要因に暴露されているか否かで集団を分け、長期間観察)などで、専門家の意見や動物試験の結果などはエビデンスとしては評価されません。

メタ解析の長所と短所

メタ解析の長所は、例数を重ねることで有意差を検出できることがある、ということです。

一つ一つの研究結果では検出できない差であっても、何十という試験の結果を合わせるメタ解析だとその有効性が示せるようになる可能性があります。もちろんデータをただ足し合わせるだけではなく、そこには統計学的な手当てが必要ですが。

一方で、メタ解析の短所、というよりメタ解析の限界、というのも勿論あります。それは、解析の元となるデータ選抜についてです。メタ解析で用いるデータは、一定の客観的な基準に基づいて抜き出されるべきであり、そこにバイアス(偏り)がないようにしなければいけません。

しかし、その手法に基づく注意すべきバイアスがあります。例えば以下のようなものです。

セレクションバイアス:データを抜き出すときの基準に基づくバイアス。ある治療法に対するデータなどは、対象とする年齢が異なると結果が変わることがある、等。

公表バイアス:いい結果はみんな公表しようとしますが、差が認められなかった時に「差が出ませんでした」という結果をみんなが報告するとは限りません。そのため、治療法の効果などは有効性を示すデータが集まりがちとなります。

地域バイアス:解析対象を選択する時の条件として「英語かドイツ語で書かれているもの」など、言語の条件をつけます。そのため、どれだけ質の高い研究をしていても、英語以外の言語でまとめていては解析対象にならないことが多いでしょう(日本人研究者がSRを書けば日本語も含まれるかもしれませんが)。

地域バイアスについては仕方がないのでは?と思いました(みんな論文は英語で書こうね)。公表バイアスについては、偏りの程度や有無については統計学的な検定ができるのでそこで確認する必要があります。

エビデンスレベルが高いとは言っても、その時点の最善なだけで、特に若い研究分野については継続的なメタ解析を繰り返し、データが収束していくかを見ていくことが重要だと感じました。

本記事のまとめ

システマティックレビュー(SR)は、一定の客観的な基準で集めた論文をまとめたレビューです。そしてメタ解析は、そのデータの統合に統計的手法を用いること、あるいはその手法のことを指します。

SRはエビデンスレベルが高く、臨床ガイドラインを作成する際に重視されます。しかし、データ選択の方法に基づく避けられないバイアスがあるため注意が必要です。一度のSRで結論が出るとは限らないので、長い年月をかけたデータの蓄積が重要。

長くなったので、今回取り上げる文献の内容については次回まとめたいと思います。

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