【短歌と和歌と、時々俳句】18 月の歌2回目

 朝の7時過ぎ。出勤前に中間考査の採点をしていた僕のそばで8歳と6歳の兄弟が突然クイズを始めた。
兄「一生終わらない勉強ってなーんだ」
弟「えー、そんなのないよ」
兄「あるよ、生きること」
弟「あー、そうだね、たしかに」
 登校前に交わすクイズにしてはあまりに深すぎる。僕は衝撃のあまり採点の手を止めて表情をこっそりうかがった。普段は鼻くそをほじくってばかりいる次男が、その時は眉根に皺を寄せてそれらしい表情でいたのがおかしかった。

算数も国語も理科も道徳も一生学べ一生宝

☆ ☆ ☆

わたつうみの豊旗雲に入り日射し今宵の月夜澄みあかくこそ
大海原の
空に美しくたなびく雲に
沈もうとする日の光が差し込んで
今夜の月夜は
きっと澄み渡り 明るく照るだろう

玉葉和歌集 629   天智天皇

 『玉葉和歌集』秋下の巻頭歌だ。
 「わたつうみ」も「豊旗雲」も言葉が大きい。見渡す限りの海と空をキャンパスとし、夕日の光で彩色している。
 歌人は目の前の景色の美をもってしてやがて来る夜の美を確信している。そこに疑いも恐れもない。予想というより予言のごとき力強さだ。
 本当に天智天皇の歌だったかどうかは不明だ。しかしこの尋常ではないエネルギーの込められた歌は、確かに帝王の作として受け入れたくなる風格を持っている。




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