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「問い」をめぐる読書⑥井澤友郭『「問う力」が最強の思考ツールである』フォレスト出版 2020年

 この本はドリルだ。

 本書は「考えが前に進む問い」とは何かについて段階的に語り、例を示し、ドリルのように実践させ、読者にその方法を習得させている。

 誰の考えが進むのか?
 それは僕の、君の、そして皆さんの。

 この「誰の考えが進むのか?」という問いを作成すること自体が、僕が本書の影響下にあることを示している。


 序章で筆者は、本書との向き合い方を次のように語る。

 私が開催してきた問いづくりの講座では、さまざまな問いをつくる演習を通じて、確実に問う力を高めていただいていますが、本書でも練習を用意して、そのノウハウを可能な限りオープンに提供しようと思っています。単に読むだけでなく、実際に問いをつくり、書き出しながら、問う力を高めていただければ幸いです。

 「確実に問う力を高めていただいています」と語る自負を、本書に込めたことがうかがえるコメントだ。
 我々読者は、筆者の導きに従いながら、「問う力を高め」て行けばよろしい。

 では読者がどうなった時、「問う力を高め」られたと言うべきか?
 その答えに近づけそうな言葉が第四章にある。
 第四章ではワークショップの目的と目標が明記されている。

目的:なんのためのプログラムなのか?なんのための集まりか?
目標:どこまで行くのか?何を決めるのか?どういう状態を目指すのか?

 目的は漠然とでも良い。目標は数値化可能に、あるいはできるだけ具体的に。
 どこかでそんな話を聞いたことがある。本書の目的/目標についての表現も、同様の発想だろう。

 そして本書においてその「目標」にあたるのが、章立てとして用意されている「1人称の問い」「2人称の問い」「3人称の問い」であり、それぞれに用意されている練習問題ではないか。

 筆者は第3章「3人称の問い」で次の様に述べる。

 3人称の問いは、1人称の問いと2人称の問いの発展系ともいえます。ここまで練習を積まれてきた皆さんなら、それほど苦労せずに、機能する3人抄の問いを生み出すことができるでしょう。これまでつちかってきた力をいかんなく発揮して、3人称の問いづくりに取り組んでください。

 つまり本書では、読解と練習を通じて、「3人称の問いづくり」が可能な力を持って帰らせようとしているのだろう。

 その本気さは、本書の特徴にもうかがえる。
 本書は書中に問いを設定する。もちろん、問いを設定すること自体はありふれたものだ。しかし解答欄と解答例まで記載して読者を鍛えようとするなら、やや類型から逸脱する。もはやそれは、大人のドリルだ。大人が、「考えが前に進む問い」の力を身につけようとするために取り組む問題集だ。読者は読者というより学び手として、本書と向き合うことを要求されている。

 では例えばどのような力が身につくのだろう。
 僕は学校の教師だ。国語の教師だ。だから作文指導にも深く関わっている。
 これまで、作文や小論文の指導だと、参考文献を示したり文章の型を提示したりすることから始めていた。
 しかし今後は、恐らく「問い」の指導から始めるだろう。「環境問題」や「SDGs」をテーマとして持ってきた生徒に、まず「問い」を作らせるだろう。そして「どうすれば環境問題を解決できるか」等の生徒の問いを添削し、時制や視野・視座を変更させたり、「いつ」「誰が」「どこで」「何を」の要素を加えさせたり外させたりして、「考えが前に進む問い」を探させるだろう。
 その上で、

①「自分ゴト」として問題を文章化するための導入
②先に設定した問いの分割
③足場かけとなる問いの作成
④ゴールとなる問いの作成

といった作業を準備させた上で資料収集と執筆に入らせるだろう。

 こうしたプランニングが可能になることが、本書で身につく力だ。

 「読む」だけの学びに物足りなさを感じているエネルギッシュな読者には、最適の一冊となりそうだ。

 

 

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