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短歌と和歌と

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中学生向けに和歌・短歌を語る練習をしています。短歌は初学者。和歌は大学で多少触れたレベル。
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2021年11月の記事一覧

【新古今集・冬歌6】大井川と流れる紅葉

【新古今集・冬歌6】大井川と流れる紅葉

高瀬舟しぶくばかりに紅葉葉の
流れてくだる大井川かな
(新古今集・冬歌・556・藤原家経)

 大井川は現代でも紅葉の名所。大井川の観光情報を発信している「大井川で逢いましょう」によれば紅葉スポットだけで5つあるそうです。しかも「Best」です。厳選の5カ所なんですね。

 新古今集でも大井川を歌うのは三首目です。現代風に言えば「大井川の紅葉歌Best3」でしょうか。
 一首目の554番歌はあえて

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【新古今集・冬歌5】紅葉のしがらみ

【新古今集・冬歌5】紅葉のしがらみ

散りかかるもみぢ流れぬ大井川
いづれ井堰の水のしがらみ
(新古今集・冬歌・555・源経信)

(訳)
川面に散りかかる
紅葉、そのままゆうらりゆらり流れない
まったくもって大井川
紅葉と堰とはどちらが本当の井堰なのか
水せき止めるしがらみなのか

 この歌は元ネタの

山川に風のかけたるしがらみは
流れもあへぬ紅葉なりけり
(古今集・秋下・春道列樹)

が念頭にないと分かりづらいと思います。念頭に

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【新古今集・冬歌4】寝ぼすけ息子・朝の月・紅葉と筏士

【新古今集・冬歌4】寝ぼすけ息子・朝の月・紅葉と筏士

 息子たちは朝が弱い。目がなかなか覚めない。目が覚めた後もご飯を食べる手がゆっくりだ。
 小学2年生の長男が通う小学校までは徒歩で30分ほどかかる。一昨日は7時30分に家を出て学校到着刻限の8時に間に合わなかったらしい。昨日は7時25分に出たが間に合わなかった。冬の寒さで足が遅くなっているようだ。

 ご飯を食べるのが遅いのは身体が目覚めないからかもしれない。そこで今朝は6時20分にベッドから引き

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【新古今集・冬歌3】紅葉のダム

 朝、三歳の娘が赤ちゃんになった。
「わたしはあかちゃんだからだっこして」
「きみはさんさいだから、あかちゃんじゃないよ」
「ちがうの、わたしはあかちゃんなの」
 娘は「わたし」を滑舌よく言う。「た」が強めだ。
 本人が赤ちゃんだと主張するなら仕方が無い。抱っこして燃えるゴミを捨てに行った。
 ゴミ捨て場にはネットがかかっていた。娘とゴミで両手が塞がっていた僕は少々困った。すると娘が手を伸ばしてネ

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【新古今集・冬歌2】紅葉の散る時

【新古今集・冬歌2】紅葉の散る時

神無月風にもみぢの散る時は
そこはかとなくものぞかなしき
(新古今集・冬歌・552・藤原高光)

(現代語訳)
神無月が訪れた
風が吹いて紅葉が
散る時 その時というものは
なんと言えば分からないけど
何もかもが悲しく思えるよ

 新古今集の冬歌。その二首目は多武峯少将の別名もある藤原高光です。突発性出家で有名。新古今和歌集成立からは250年ほど昔の男です。父親は師輔。
 師輔といえば夢占いで下手

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【新古今集・冬歌1】冬の始まり

【新古今集・冬歌1】冬の始まり

おきあかす秋の別れの袖の露
霜こそ結べ冬や来ぬらむ
(新古今集・冬・551・皇太后宮大夫俊成)

(訳)
夜を明かした
去って行く秋に別れを告げながら
袖に置いたは涙の露だ
おや気がつけば霜の姿に固まっていく
どうやら冬が来たらしい

 一昨日は暑くて着ていられなかった上着が昨日は丁度良く感じました。そして今日の寒さはその上着だけでは足りないほどです。あっという間に冬が来ました。エアコン・床暖房・

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【新古今集】月とおふとん

【新古今集】月とおふとん

秋の夜は衣さむしろ重ねても
月の光にしくものぞなき
(秋歌下・489・源経信)

 詠み手の源経信は大歌人・俊頼の父であり、『後拾遺集』にダメ出しをした誇り高き男であり、三舟の才をうたわれた才人であり、次の時代の和歌を模索し方向付けた文学的リーダーの一人です。 

 歌です。
 秋の歌で面白いものを探すと月の歌が多くなります。そもそも数が多いのですが、月や月光が多くのものの比喩になることも一因です

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