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国防イノベーション・ユニット2022年度報告書(日本語訳) - DIU Annual Report 2022(Japanese)

本文書は、i-J Solutionsが米軍国防イノベーション・ユニット(Defense Innovation Unit)により公開中の「Annual Report 2022」を日本語化したものです。翻訳にあたっては便宜上、番号と目次を附しています。


Ⅰ はじめに

今日、米国が直面している脅威のマトリックスは、以前の時代よりも大幅に多様化している。アッシュ・カーター前国防長官は2015年、国防イノベーション・ユニット(以下、「DIU」という)を設立した際、このことを予見していた。国防総省(DoD)が従来の軍事プラットフォームを中心とした攻撃・防御能力の開発を続ける一方で、デュアルユースの新技術が戦争の本質を変えつつある。ウクライナでは、商業衛星画像、自律型ドローン、コミュニケーション・ツール、ソーシャルメディアが民主化され、国防の名の下に新たな方法で利用されている。

もし敵対する相手がより迅速に商用技術を戦闘技術に採用・統合することに成功したならば、米軍が時間的・技術的優位を享受することはないだろう。そのような競争相手に対する作戦上の優位性を獲得・維持するためには、国防総省は商業技術の採用を桁違いに増やす必要がある。そのためには、国防総省はファスト・フォロワーとして行動しなければならない。

7年前に始まったDIUの試みは、現在、かなりのペースで規模を拡大しており、2022年度はDIU史上最高となる17件の移転があり、累積移転率は47%に達した。DIUは、その他の契約権限(OTA*:Other Transaction Authority、以下「OT契約」という。)とCSO(Commercial Solutions Opening)プロセスを活用することで、国防総省が最先端技術を迅速に試作し、競争力のある形で最先端の技術を調達することが可能であることを実証するとともに、小規模で非伝統的な企業や初めて参入する企業の参入障壁を低くしている。

*注(by i-J Solutions)

米国防省は、「その他の権限(OTA)」とい う一種の随意契約を活用しながら、民間セクターで開発されている先端技術を個別企業との契約や、官民連携のコンソーシウム方式を通じて獲得する手法を活発化させている

東京大学未来ビジョン研究センター(IFI)安全保障研究ユニット(SSU) 外務省外交・安全保障調査研究補助金事業 「米中競争による先端技術分野の安全保障化の背景とグローバル経済への影響」 エッセイ・シリーズ No. 6、米国防省の技術政策(2)―国防イノベーション・ユニット―Technology Initiatives of the U.S. Department of Defense (Part 2): The Defense Innovation Unit 法政大学  法学部 森 聡

DIUは、近代的で機動的な統合軍を実現するために、商用技術と方法論を効率的に国防総省に統合している。DIUの姉妹組織である国家安全保障イノベーション・ネットワーク(NSIN)と国家安全保障イノベーション・キャピタル(NSIC)と共に、私たちは国家安全保障イノベーション基盤を強化し、既存の及び今後の軍事能力を変革することによって、永続的な優位性の構築を支援していく。

「信頼できる人工知能(AI)と自律性、統合されたネットワーク・システム・オブ・システム、マイクロ・エレクトロニクス、宇宙、再生可能エネルギー生成と貯蔵、ヒューマン・マシン・インターフェースに関し、市場の力が軍事関連能力の商業化を促進する状況に迅速に追従する。」ー 2022年国防戦略

「私達国防イノベーション・ユニットは、優先技術分野を特定し、その技術をより迅速に戦闘員の手に届けることに重点を置いています。」ー ロイド・オースティン国防長官、レーガン国防フォーラム、2022年12月

Ⅱ 2022会計年度における評価

DIUは、国防総省が最先端のデュアルユース技術を特定、試作、拡大するための主要な窓口である。DIUは、柔軟な取得手段を活用し、サービスおよび戦闘司令部が迅速かつ大規模に技術を購入できるよう、より多くの経路を開拓することで、民間ベンダーが国防総省と取引することをこれまで以上に容易にしている。2022会計年度の年次報告書では、DIUが民間イノベーターと協力し、軍に重要な能力を提供するためのさまざまな方法を紹介している。

1. 22年度は17件の移転

生産契約におけるDIUの勢いは加速しており、契約上限額と平均額は前年比で大幅に増加している。DIUの22年度の移転件数は17件と過去最高を記録し、総契約額は13億ドルに達し、2021年度移転件数8件の2倍以上となる。DIUに適切な予算が投入されれば、総移転件数と総契約額の両方が増加し、全米のベンダーの採用、収益、規模が拡大することが見込まれる。

2. ウクライナへの商業支援

2022年2月以来、ロシアによるウクライナへの不法で言われのない侵攻を描いた無数の画像や映像が、ソーシャルメディアや報道機関に出回っている。特に、BlackSky、Capella、Planet Labsなどの商業リモートセンシング企業は、ウクライナにおけるロシアの軍事活動に関する衛星画像を提供し続けており、それにより、かつてないレベルの可視性を生み出し、説明責任問題を牽引している。

これらの企業は、いずれもDIUと事前に試作契約を結び、既存の米国情報衛星を補完する能力を開発・実証しており、直上からの衛星画像を求める業界の需要増大に応える民間企業ネットワークの一翼を担っている。2030年までには、地球を周回する政府所有の人工衛星1機に対し、商用リモート・センシング・システムが1,000機設置されると推定されている。

地上では、民間の小型無人航空機(sUAS)ベンダーがsUAS機器、訓練、技術サポートを提供し、ウクライナの情報・監視・偵察(ISR)、人道支援、その他の活動を支援している。これにより、ウクライナの指揮官は、より優れた状況認識を獲得し、センサーから射撃手までの一貫した能力の向上と迅速な作戦行動が可能となり、複雑な環境下でも大きな成果を上げている。

DIUのAdvanced Cellular Communicationsプロジェクトの技術は、高価で制限のある独自の戦場通信システムに取って代わるものである。このようなツールは音声通話に限定されることが多く、ユーザーはネットワークごとに1台のデバイスを携帯する必要があるため、縦割り構造を作り出していた。当社の商業パートナーは、米国政府と協力してウクライナ国防省に関連機能を提供し、戦場での状況認識と通信の安全性を高めている。

このような、民間技術提供者による全体的かつ現場に根ざした貢献は、デュアルユース技術能力が次の紛争への備えと抑止に非常に有益であることを指し示している。

注1:“Smallsats by the Numbers 2020,” Bryce Space & Technology, https://brycetech.com/reports/report-documents/Bryce_Smallsats_2020.pdf

3. 国内外の新しい企業や能力とつながる

2016年以降、DIUはシリコンバレー、ボストン、オースティン、ワシントンDCの4つの技術エコシステムで活動を展開し、国防総省にとって最良の商用技術の発掘と誘致を支援している。2022年4月、DIUはシカゴに5つ目の事務所を設立した。DIUは、より広範な地域アウトリーチ戦略の一環として2022年4月、国防総省と、急成長するイノベーション・エコシステムである企業、研究所、アクセラレーター、学術パートナー、投資家をつなぐことを目的として、シカゴに5つ目のオフィスを設立した。シカゴに新事務所を開設して以来、中西部地域では、ベンダーの提出件数が2021会計年度から2022会計年度にかけて3倍に増加した。

2022年、DIUは「リージョナル・ロードショー」を開始した。これは、各地域に分散するイノベーション・投資コミュニティのベンダーや投資家と関わり、DIUのミッションやプロセスについて啓蒙することに重点を置いた新しい取り組みである。

リージョナル・ロードショーは、2022年度を通じてコロラド州、ノースカロライナ州、イリノイ州、ジョージア州の4都市において、対面及びバーチャル形式で開催された。この取り組みにより、ベンチャーキャピタルやベンチャー企業の名簿が拡大し、DIUの募集への応募数が増加した。特に、ノースカロライナ州でのロードショーと継続的なアウトリーチ活動により、2021年度から2022年度にかけて、DIUへのベンダーの応募数が700%増加した。

最後に、DIUは優れたアイデアは世界のどこからでも生まれると認識している。商業技術は、国際的なパートナーとの関係を強化し、分類という複雑な手続きを経ることなく、より自由かつ迅速に最高のイノベーションを共有することを可能にする。このような国際的な技術利用は、相互運用性を促進する傾向もある。このように、DIUは国内戦略に加えて、同盟国やパートナー国からも技術ソリューションを調達しており、軍が世界中の最高の技術にアクセスできるようにしている。

4. 買収の合理化と能力の拡大

DIUは、国防総省のパートナーがデュアルユース技術を見つけやすくし、購入しやすくすることを目指しています。同時に、国防総省は国家安全保障革新基盤(NSIB)ベンダーにとって魅力的なビジネスパートナーであり続けなければならないことも認識しています。そのため、DIUは2022年、国防総省全体で柔軟な契約ツールと見識の採用を拡大するため、イマーシブ・コマーシャル・アクイジション・プログラム(ICAP)や米空軍のプログラム・エグゼクティブ・オフィス(PEO)・デジタルとのパイロット・プロジェクトなど、いくつかのイニシアチブを開始した。実際、PEOデジタルは独自の契約権限を活用し、DIUのCSOプロセスを使って5件の試作契約を締結した。5社のうち3社(グリーンサイト、ミュオン・スペース、ウィンドボーン・システムズ)は、PEOデジタルにとって初めてのベンダーであった。

DIUは、このような訓練イニシアティブの立ち上げに加え、DIUコマーシャル・ソリューション・カタログや、GSA(General Services Administration)との革新的なパートナーシップなど、政府機関が商用ソリューションを購入するための新たな取得経路を確立し、試作に成功したDIUテクノロジー・ソリューションをスムーズにGSA契約の車両へ搭載することができた。GSAとの提携を開始して以来、DIUにとっての新たな防衛ベンダーの1社であるSaildroneが、GSAの計画に加えられてから4ヵ月間で740万ドルの売上を記録するとともに、軍が必要とする自律性システムの技術を迅速かつ容易に提供することに成功した。

5. 新興ハードウェア技術の加速

ナショナル・セキュリティ・イノベーション・キャピタル(NSIC)は、DIU内のプログラムであり、最先端のデュアルユース技術を開発する超初期段階のハードウェア関連スタートアップ企業に対して、信頼できる民間資本が不足する場合の支援を目的としている。NSICは、経済競争力と国家安全保障に不可欠な製品を開発する有望なスタートアップ企業を発掘する。NSICは、その企業が敵対的な筋から資本を得ていないことを確認するために、その企業を審査する。NSICが資金を提供することで、企業は次の大きなマイルストーンを達成することができ、それによって技術的なリスクを軽減し、将来的に民間から資金を調達することが可能になる。

2021年の設立以来、NSICは議会から2,000万ドルの予算を受けている。2022年、NSICは230社を超える最初の申請企業から12社の米国企業を選抜した。2022年、NSICは230社を超える応募企業の中から12社の米国企業を選定し、OT(Other Transaction)権限による60万ドルから300万ドルの試作開発契約により、これらの企業に資金を提供した。審査の過程で、3社に敵対関係にある投資家やアドバイザーがいることが判明し、各社に通知後、問題は解決された。やむを得ないサプライチェーンの混乱を除けば、12社の投資先企業のうち1社を除くすべての企業が、技術および製品開発計画を遂行している。

すでに3社が、NSICの資金を利用して技術的進歩を達成したおかげで、審査済みの民間ソースから大幅に高い評価額で新たな資金を調達している。新たな民間資金調達額は、NSICからの提供額の6倍から20倍以上であった。

6. ナショナル・セキュリティ・イノベーション・ネットワークを通じた国家安全保障革新基盤への関与

DIUの姉妹組織であるナショナル・セキュリティ・イノベーション・キャピタル(NSIN)は、国家安全保障上の問題に対する新たな解決策を生み出すイノベーターのネットワークを構築している。2019年から2022年にかけて、NSINは新たに8,419人との間で、1,326の新規企業が国家安全保障イノベーション基盤に参入するのを支援し、国防総省が資金提供した48の技術を生み出し、現存する国防総省のラボ技術から15のデュアルユース・ベンチャーの立ち上げを直接支援した。NSINはパートナー企業の拡大も支援し、2016年以来、民間資金で約96億ドル、国防総省の資金で29億ドルを調達を支援した。最後に、2022年度、NSINはシアトルに太平洋北西部ミッション加速センター(MAC)を共同設立・発足させ、産業界と軍との連携をより容易にした。

Ⅲ パフォーマンス測定

1. 国防総省が民生技術採用を加速

DIUの勢いは、すべての主要業績指標において加速している。2022年度、DIUは36件の新規募集案件をウェブサイトに掲載したが、これは2021年度比で38%の増加である。DIUは過去最多の商業提案を受け、2021年度より12.5%多い総額2億480万ドルの試作契約を締結した。

約締結までのスピードは非常に重要である: DIUは、試作契約を募集から60~90日で締結するよう努めている。2022年度の契約締結までの平均日数は142日だった。今後、より目標に近づくため、契約能力のさらなる向上に必要な人材の獲得に取り組んでいる。

2016年度以降、DIUは国防総省全体で52件の試作契約から後続契約への移行を直接促進し、総額180億ドルの民間資本に支えられた48社で総額49億ドルの契約上限を獲得した。これらの52のソリューションのうち、16の民間ベンダーのソリューションが複数のPEO(Program Executive Office)にまたがる認定事業に移行した。

2. 2022年度のスナップショット

36
diu.milに掲載された商用ソリューションの募集数

132
単一の募集に対して最も多くの商業提案を受領した数

142
試作OT(Other Transaction)契約を授与するまでの平均営業日数

1,636
受領した商用提案数

81
民間企業に発注された試作OT(Other Transaction)契約数

17
国防総省のユーザーに移転された民間ソリューション数

45
一募集あたりの平均提案数

2億480万ドル
民間企業と契約した試作OT(Other Transaction)契約の契約総額

13億ドル
DIUによる17件の移転の総契約総額

52
国防総省のユーザーに移行した商用ソリューションの総数

359
民間企業との間における試作OT(Other Transaction)契約件数

49億ドル
民間企業が獲得した試作OT(Other Transaction)契約(またはその他の)の総額

157
国防総省の課題を解決するために開始された試作プロジェクト数

57
完了したプロジェクト数(すべての試作努力が終了)

5,060
受領した民間提案数

30億ドル以上
民間投資の活用額(2022年9月30日現在)

3. 2016-2022年度の活動数

2016-2022年度の活動数
(出典:DIU Annual Report FY22, P.10)

上段左 受領した提案数
上段右 移転された契約件数
下段左 試作契約件数

4. 軍事力の変革

軍備力を変革するためには、テクノロジーの普及が必要である。DIUは、国防総省全体の作戦上のニーズに対応できるプロジェクトを優先する。

民間企業と契約した試作契約額の内訳
(出典:DIU Annual Report FY22, P.11)

5. 国家安全保障イノベーション基盤の強化

2016年6月から2022年9月までの間に、DIUは321の個別のベンダーに対して360件の試作OT契約を締結し、その総額は12億ドルに上った。さらに、2016年以降、DIUは外国に拠点を置く19社と総額3,060万ドルの契約を締結した。(注2)
注2:プライム契約のみを反映、サブコントラクターは含まない。

国内試作契約(2016-2022年度)
(出典:DIU Annual Report FY22, P.11-12)
ポートフォリオ/技術分野別試作契約への投資額(2016年6月~2022年9月)
(出典:DIU Annual Report FY22, P.11-12)

(上図左から)
人工知能及び機械学習:41契約、1億1390万ドル
自律性:132契約、3億6070万ドル
サイバー・電気通信:59契約、1億630万ドル
エネルギー:12契約、1950万ドル
人間システム:53契約、2億4410万ドル
宇宙:63契約、3億2610万ドル
総計:360契約、12億ドル

海外企業との試作契約(2016-2022年度)
(出典:DIU Annual Report FY22, P.13)
(上図左下の表を和訳)
ビジネス種類別の契約額(注3)
(出典:DIU Annual Report FY22, P.13)

39%:国防総省として初のベンダー
82%:従来と異なる契約
74%:スモールビジネスとの契約

注3:初めて国防総省と仕事をする業者とは、国防総省との業務が無かった企業を指す。従来とは異なる請負業者とは、合衆国法律集第 10 編第 2302 条(9)において、調達又は取引に関する国防総省による情報源の募集に先立つ少なくとも1年間の間、合衆国法律集第41編第1502 条及び同条を施行する規則に従って定められる原価計算基準の完全な適用対象となる国防総省のための契約又は下請契約を現在履行しておらず、かつ履行したこともない事業体として定義される。中小企業は、合衆国法律集第15編第632条の中小企業法第 3 項に基づき定義される。

Ⅳ 2022会計年度に軍事的に移転された計画

収益の成長と予測可能性は、民間のテクノロジー企業の生命線である。投資家や起業家は、国防総省の試作や実験が、有意義な経常収益を伴う実質的な生産契約につながることを望んでいる。投資家は、国防総省が従来とは異なるベンダーの誘致と商用技術による近代化に真剣に取り組んでいるかどうかを測る真の指標として、量産契約を重視している。このためDIUは、試作OT(Other Transactions)(*)契約、IDIQ(Indefinite Delivery/Indefinite Quantity)、包括購入契約(Blanket Purchase Agreement)、GSAスケジュールへの登録など、後続の複数年契約を通じて、プロトタイプから実戦配備能力への移行に重点を置いている。

DIUでは、商用機能を軍の手に届けることを成功と定義している。2022年度には、合計17の技術ソリューションが国防総省または連邦政府のエンドユーザーに移転され、累計移転率は2021年度末の41%から47%に上昇した。これは、DIUの7年間の歴史の中で、単年度の移転数としては最多となった。(注4)

注4:中小企業技術革新研究(SIBR)補助金など、広く運用される道筋のない他の4つの短期的な資金源は、同じような経常的な収益機会を示すものではなく、民間投資家の目から見ても同じ価値を持たない。DIUは、民間投資家から提起された懸念を共有している。国防総省全体が、このような成長段階にある企業に対して、タイムリーで規模の大きな、継続的な契約を提供することに重点を置かなければ、国防総省は、国家安全保障技術への民間部門の投資を刺激する十分な経済的インセンティブを創出することはできない。SBIR は、後続の1ドルの投資を成功した移行とみなしているが、それはベンダーの成功や戦闘機への実戦投入を加速させることはない。

1. 人工知能・機械学習 - AIベースの知識グラフ作成

Accreteの機械学習モデルは、大量のオープンソース・インテリジェンス・データを自動的にスクレイピング、収集、翻訳、処理し、国防総省のユーザーが外国敵対勢力の投資の特定を加速できるようなデータ処理能力を提供する。

ベンダー:Accrete
試作契約額:190万ドル(注5)
移転合意: 5年間で2360万ドルを上限とする生産OT契約
移転パートナー: 国防総省
移転日 2022年9月15日

注5:最初の試作契約締結から2022年9月30日までの現在の総額

2. サイバー・電気通信 - 自動化された脆弱性の発見と修復

現在の兵器システムで未知のソフトウェアの脆弱性を発見する方法は、拡張性がない。Grammatechのソリューションは、兵器システムやその他の重要なソフトウェアにおけるソフトウェア脆弱性の検出を自動化する。

ベンダー :Grammatech
試作契約額:380万ドル
移転契約: 5年間の生産OT契約、最大4500万ドル
移転パートナー: 米サイバー軍 (USCYBERCOM)
移転日: 2021年11月19日

3. 自律性 - 海上自律ISRシステム

Saildroneは、遠く離れた危険な海洋環境において、長時間にわたる自律的なデータ収集と情報収集を可能にする。

ベンダー:Saildrone
試作契約額:363万ドル
移転契約: 5年間の生産OT契約で最大5,000万ドル、一般サービス管理(GSA)計画
移転パートナー:国家地理空間情報局(NGA)、米第5艦隊(タスクフォース59)、米沿岸警備隊(USCG)、米税関・国境警備局(CBP)
移転日:2022年9月22日

セイルドローン:永続的な海上情報、監視、偵察
(出典:DIU Annual Report FY22, P.16)

2016年、国防総省は多様な海洋環境から重要なデータを収集するプラットフォームを提供することでミッションの有効性を高めるため、セイルドローンと試作契約を締結した。セイルドローンは現在、米中央軍に配備されており、2023年度には米国沿岸警備隊と米国税関・国境警備局でも使用される予定である。Saildrone "Maritime Domain Awareness (MDA) - MDA-as-a- Service" は、GSAスケジュールまたはアクティブなDIU生産OTを通じて購入することが可能である。

4. サイバー・電気通信 - 商業的脅威データ

Greynoise Intelligenceのインターネット・バックグラウンド・ノイズスキャンと分析機能は、国防総省のサイバー・オペレーションとインテリジェンス・コミュニティに、コンピューターベースの悪質な活動や脅威に対し、強力なビジョンを提供する。

ベンダー:Greynoise
試作契約額:11万ドル
移行契約: 5年間の生産OT契約、最大3,000 万ドル
移転パートナー:米サイバー・コマンド(USCYBERCOM)、 各軍のサイバー部隊
移転日: 2021年10月28日

5. サイバー・電気通信 - サイバー欺瞞

CounterCraftのサイバー欺瞞プラットフォームは、一連のデコイ、ハニーアイテム、その他の欺瞞的要素を使用することにより、軍のサイバー・オペレーターや分析官がリアルタイムで敵対者と交戦することを可能にします。

ベンダー:CounterCraft
試作契約額:135万4千ドル
移転契約: 単独生産OT契約、最大2,600万ドル
移転パートナー:空軍ライフサイクル管理センター
移転日:2022年9月27日

6. 人工知能・機械学習 - ホーカーテンペスト

Quantifindの機械学習(ML)技術は、DoDが英語と非英語の両方のソースからマルチ・モーダル・データセットを抽出、構造化、変換し、有用な知識グラフに変換し、複数の脅威ベクトルにわたって悪質な行為者とネットワークを特定し、マッピングするのを支援します。

ベンダー:Quantifind
試作契約額:370万ドル
移転契約: 5年間の生産OT契約、最大2,360万ドル
移転パートナー:国防総省
移転日:2022年9月22日

空軍州兵第175サイバー・オペレーション群第275サイバー・オペレーション隊に配属されたサイバー戦オペレーター(出典:DIU Annual Report FY22, P.17)

国防省のクラウドの認可:商用クラウド・ソリューションを一歩ずつ加速する

国防総省のソフトウェア近代化報告書に詳述されているように、ソフトウェアの優位性を確保するために、国防総省はクラウド・コンピューティングとストレージへのアクセスを拡大する必要がある。国防総省情報ネットワーク(DoDIN)外からパブリッククラウドサービスへのアクセスを希望する国防総省関係者が増えているため、これは特に重要な機能となっている。DIUは2年間の試作フェーズで3種類のソリューションをテストした後、2022年1月にGoogleと生産OT契約を締結し、DIUにセキュアクラウド管理(SCM)を導入した。DIUは今後、国防情報システム局(DISA)のクラウド・アクセス・ポイント(CAP)の代替として、Google SCMの暫定認可を申請する意向だ。

DISAは、セキュアクラウド管理(SCM)プロジェクトがDoDに影響を与え、既存の統合地域セキュリティ・スタックを置き換え、新しいプロジェクトThunderdomeを通じてゼロ・トラスト原則をさらに実施することになったと公言している。

セキュアクラウド管理(SCM)プロジェクトの成功により、DIUはIL5暫定認可のためにMcAfee UCE(現Skyhigh SSE)のスポンサーとなった。IL5暫定認可は、国家安全保障システム(NSS)の一部とみなされる機密性の高いCUI情報を含め、国防総省に代わって管理された非機密情報(CUI)を処理することを許可するクラウドサービスプロバイダーでである。500以上のセキュリティ制御を配置する必要があり、達成は難しいが重要な認可である。

7. 宇宙 - 小型衛星用ホール効果スラスタ(HETs)

この取り組みのもと、アポロ・フュージョンのコンステレーション・エンジンは地上と軌道上で性能実証に成功した。小型衛星用HETは、その設計と将来の宇宙船への搭載という点で、未来に向けた宇宙遺産を確立し続けている。この技術により、衛星の開発者・利用者は、商業および軍事宇宙活動において、航行の俊敏性を高め、衛星の運用寿命を延ばすことができる。

ベンダー:アポロ・フュージョン(この試験OT契約開始後、アポロはアストラに買収された)
試験金額:96万ドル
移転契約: 米国政府と商業パートナーに200以上の推進システムを提供し、運用に供することで間接的に移転された。この推進システムは、宇宙開発庁(SDA)の輸送・追跡レイヤーのすべての衛星統合チームにとって、複数の民間宇宙ベンダーとともに唯一のベンダーである。
移転パートナー: 宇宙開発庁(SDA)の輸送・追跡レイヤーへの参加により達成
移転時期: FY21およびFY22に複数

「シーリングは、ハント・フォワード構想の一環として、国防総省サイバー・オペレーターを先進技術でサポートできることを誇りに思う。DIUのプロセスは、競争を維持しながらも、非常に透明で革新的だった。ついに国防総省は、迅速で、革新的かつ競争力のある存在となった。
- エド・シーリング、シーリング・テックCEO

8. サイバー・電気通信 - ハント・フォワード

シーリング・テクノロジーズは、米国外のインフラにおける敵の活動を発見し、報告し、排除するために設計されたハードウェアとソフトウェアを含む、ポータブルな脅威ハンティング・プラットフォームを設計した。

ベンダー:シーリング・テクノロジーズ
試作契約額:68万4千ドル
移転契約:最大590万ドルの生産OT契約
移転パートナー:サイバー・ナショナル・ミッション・フォース(CNMF)
移転日:2022年3月8日

9. 人工知能及び機械学習 - インテリジェント・ビジネス・オートメーション-1

このソリューションは、金融取引の不一致(UMTs)の検出と修正を自動化する。

ベンダー ベンダー:Summit2Sea
試作契約額: 140万ドル
移転契約: 40万ドル
移転パートナー:国防次官(OSD)会計検査院
移行日::2021年10月15日

10. 人工知能及び機械学習 - インテリジェント・ビジネス・オートメーション-2

このソリューションは、一致しない金融取引(UMT)の検出と修正を自動化する。

ベンダー: VertoSoft/DataRobot
試作契約額:170万ドル
移転パートナー:米国陸軍
移転日:2022年2月23日

11. 宇宙 - 平時の表示と警報-1

小型衛星プラットフォームから発信される国際武器取引規則(ITAR)外のリモートセンシング能力と、商業プラットフォームから発信される関連データの集約・捜索能力

ベンダー:カペラ・スペース・コーポレーション
試作契約額:1,060万ドル
移転契約:国防総省
移転パートナー:国防総省
移転日:2022年1月20日

12. 宇宙 - 平時の表示と警報-2

小型衛星プラットフォームから発信される国際武器取引規則(ITAR)外のリモートセンシング能力と、商業プラットフォームから発信される関連データの集約・捜索能力

ベンダー:オービタル・インサイト社
試作契約額:1,010万ドル
移転契約: 最大9億5000万ドルの数量未確定契約(IDIQ)
移転パートナー:米国空軍
移転日:2022年9月22日

13. ヒューマン・システム - パイロットトレーニングの変革-1

商用ゲーム技術とセキュアなクラウド・マイクロサービス・アーキテクチャにより、データ活用による近代化された米空軍パイロット・トレーニングを実現

ベンダー:Carahsoft(グーグル)
試作契約額:1,410万ドル
移転契約:プロトタイプOTの2年間の上限は739.2Kドル
移転パートナー:第19アメリカ空軍
移転日 2022年3月31日

14. ヒューマン・システム - パイロットトレーニングの変革-2

商用ゲーム技術とセキュアなクラウド・マイクロサービス・アーキテクチャにより、データ活用による近代化された米空軍パイロット・トレーニングを実現

ベンダー:CAE
試作契約額:790万ドル
移転契約:最大810万ドルのFARベースの契約x2
移転パートナー:第19アメリカ空軍
移転日:2022年5月21日

15. ヒューマン・システム - 脅威暴露の迅速分析(RATE)

RATEは、市販の(COTS)ウェアラブルを使用し、病院の感染症データに基づくアルゴリズムを活用して、症状が現れる48時間前までの感染を予測する。この早期警告により、指揮官は予測的な健康モデルに移行し、症状が出る前でウイルスを感染させる可能性がある間に病気の個人を特定することができる。

ベンダー:フィリップス
試作契約額:180万ドル
移転契約:プロトタイプOTの2年間の上限は73万9200ドル
移転パートナー:DIU
移転日:2022年2月23日

16. サイバー・電気通信 - セキュアなクラウド管理

ゼロトラスト原則を使用してクラウドアプリへのアクセスを制御する既製のマルチクラウド・セキュリティ・ゲートウェイで、政府機関16および個人のエンドポイントを介したセキュアなクラウドアクセスをグローバルにサポートします。

ベンダー:グーグル
試作契約額:160万ドル
移転契約:最大190万ドルの生産OT
移転パートナー:DIU
移転日:2022年1月10日

17. 自律性 - 短距離偵察

Skydio X2Dを利用した陸軍のRQ-28Aは、AIを利用した自律飛行制御により、昼夜を問わずISRミッションが可能な高機動小型マルチローターUASである。

ベンダー:Skydio
試作契約額:1870万ドル
移転契約:5年間で9,990万ドルの生産OT
移転パートナー:米陸軍PEOアビエーション
移転日:2021年11月19日

Ⅴ 注目のポートフォリオ・プロジェクト

統合の組織であるDIUは、各軍や戦闘司令部の防衛パートナー、時には民間機関や情報機関とも協力し、国家安全保障に最大限の影響を与える可能性のあるプロジェクトを特定し、その範囲を広げている。以下のセクションでは、DIUの6つの技術ポートフォリオから、国防総省および政府全体に大きな影響と規模をもたらすと考えられる、現在進行中の優先プロジェクトをご紹介する。

1. 人工知能及び機械学習

人工知能(AI)と機械学習(ML)を適用し、重要な意思決定と業務への影響を加速させる。

(1) XVIEW 3 懸賞コンペティション

世界的な課題に対処するためにコンピュータ・ビジョンを発展させるアルゴリズムを開発する個人や組織を応援

違法・無報告・無規制(IUU)漁業は、人類の食糧供給、海洋生態系の健全性、地政学的安定に対する大きな脅威である(注6)。IUU漁業は、世界の漁業を枯渇させ、気候変動の影響を悪化させ(注7)、また、奴隷労働、脱税、海賊行為、人権侵害、さらには麻薬、武器、人身売買など、他の伝統的な犯罪と密接に関係している。中国を含む米国の敵対国は、他国の漁業を略奪するためだけでなく、東シナ海や南シナ海で係争中の領有権を主張するために漁船団を利用している。

注6 「違法・無報告・無規制漁業」米国沿岸警備隊、https://www.uscg.mil/iuufishing/
注7 Voigt, Christina: 「海洋、IUU漁業、気候変動:国際法への示唆」(国際共同体法レビュー 22, (2020), 377-388, 377-388, 2020, https://www.duo.uio.no/handle/10852/84927)

IUU漁業は摘発が難しい。悪質な漁業者は、無線トランスポンダ信号を発信しない”暗黒”船舶を操船している。また、海上での不法行為や犯罪行為を隠すために、船舶のトランスポンダを意図的に操作したり、改ざんしたりすることもある。雲に覆われたり、霞がかかったり、季節的に暗くなる等の自然現象は、電気光学画像を使用するパッシブ衛星センサーが、そのような船舶を検知することを阻害する。

この課題に対処するため、DIUは米国沿岸警備隊およびグローバル・フィッシング・ウォッチと協力し、宇宙からの合成開口レーダー(SAR)を利用した暗黒船舶の検知、位置特定、サイズ決定を自動化する機械学習モデルの開発を目的とした国際コンペティション「xView 3」を開始した。SAR画像は、船舶の協力や雲のない空を必要としないため、強固な暗黒船舶検出能力を発揮する。このコンペティションを通じて、DIUは暗黒船の存在を特定するという課題を超えて、活発なIUU漁業の可能性を評価することを目指した。

(2) ハーモニアス・ルーク(調和の取れた初心者)

地球上における位置、航法、タイミングの混乱に対するスケーラブルで持続的な認識の向上

位置・ナビゲーション・タイミング技術(PNT)は、民間人にとっても軍事関係者にとっても、日常的に欠かせない機能である。精密誘導弾を誘導するためにGPS衛星に情報を提供するPNT信号は、スマートフォンユーザーが簡単に道路をナビゲートできるようにするものと似ている。

欧州宇宙機関Sentinel-1合成開口レーダー画像に適用したxView3モデルの例;
青枠の四角は船舶を検知した事を示す。(欧州宇宙機関)
(出典:DIU Annual Report FY22, P.21-22)

民間の運輸、商業、金融、電力部門に過去 10 年間で 1兆4千億ドル以上の利益をもたらしている。(注8)予測モデルは、数日にわたるPNT停止でさえ、民千間部門に数十億ドルの損害を与える可能性があることを示している。

注8 Sheetz, Michael, 「バンク・オブ・アメリカは、ここ10年で宇宙産業が3倍の1.4兆ドルになる事を期待している」、CNBC, 2020年10月4日
https://www.cnbc.com/2020/10/02/why-the-space-industry-may-triple-to-1point4-trillion-by-2030.html

重要なインフラストラクチャーであるにもかかわらず、GPSユーザーはPNTの欺瞞や操作に対して脆弱なままであるため、GPS対応機能の低下や機能不全は重大な懸念事項となっている。

2021年秋、DIUはHarmonious Rook試作プロジェクトを立ち上げ、全世界の位置・ナビゲーション・タイミング技術(PNT)への妨害に対する認識をより高め、永続的なものとする必要性に対応し始めた。国防総省は、GPSへの妨害をマッピングし、商用データとアナリティクスを使用して行動パターンを一定の文脈に変換することで、現時点で入手可能なデータを活用した敵対的脅威を特定、分類、属性化し、世界中の軍事資産の安全な航行を可能にする。このアプローチはコスト削減にもつながる。高価な特注のハードウェアを開発、構築、配備する必要がなく、代わりに日常的なデバイスが生成するPNTに関する動的なデータを活用するものである。この試作品により、敵対的なGPSの妨害や操作の脅威が進化する中で、国防総省は世界中の同様の事象をより迅速に特定、特徴付け、評価、対応できるようになる。

国防省の他、国家航空宇宙情報センター、国家宇宙情報センター、運輸省などの機関も参加している。複数の非伝統的なベンダーや非政府組織もこの取り組みを支援しており、データ、機械学習分析、視覚化、文脈解析能力を提供している。

このパートナーシップにより、DIUは、意図的なGNSSに対する意図的な妨害に係る状況認識と評価が可能なエンド・ツー・エンド能力を開発しており、国防総省全体、他の政府機関、および米国の同盟国と広く共有できる形式で提供していく。

(3) GIG EAGLE

AIを活用して国防総省内の人材発掘に革命を起こす。

GigEagleアプリで検索する州兵隊員(Defense Innovation Unit)
(出典:DIU Annual Report FY22, P.23)

国防総省がよりダイナミックな脅威環境に適応していくためには、高度に機敏でネットワーク化された多様な労働力が必要であるが、そのような専門的な才能を持つ人材は、民間企業や学界でしか得られないことが多い。国防総省には110万人を超える予備役および州兵がおり、この課題に対応できる未開発の労働力がある。しかし現状では、これらの予備役部隊に組み込まれた才能と専門知識は発見できず、したがって十分に活用されていない。

2021年6月、DIUは米各軍と提携し、人工知能・機械学習手法を活用して国防総省特有の任務ニーズを収集し、州兵や予備役で利用可能な専門家と結びつけるオンデマンド人材最適化プラットフォーム「GigEagle」を試作した。GigEagleは特に、数時間から数ヶ月の短期「ギグ」プロジェクトの人材派遣を対象としている。このようなプロジェクトの多くは遠隔地からのスタッフ派遣が可能であり、国防総省の従来の人材獲得プロセスでは達成が困難である。

このプラットフォームは、主要なAIテクノロジー企業と共同で開発されており、300万ドルの議会資金によって支えられている。連邦議会は、国防総省の人材獲得プロセスを近代化する取り組みを進めるため、2021年度国防権限法(NDAA)にこれらの資金を計上し、承認した。GigEagleは無理が生じない形でプラットフォームを提供することで、適切なサービスマンを特定し、そのユニークなスキルを生かしたポジションに就かせることに成功した。DIUと参加する商業パートナーは、8ヶ月でプロトタイプの実用版を完成させ、23年度には完成版のプラットフォームを立ち上げる予定である。完成したプラットフォームにより、国防総省のミッション・ニーズが将来の軍の課題に対応したスピードと規模で効率的に満たされることになる。

2. 自律性

"信頼できる商業的自律性の採用と拡大を加速させ、敵対的システムに対抗する能力を向上させる"

(1) BLUE UAS 2.0

より多様で高性能な無人航空機システム(UAS)の利用

DIUは、国防総省取得・維持担当次官室(OUSD(A&S))および米国陸軍工兵隊と連携し、国防総省が利用できる小型UAS(sUAS)の種類を増やすため、2021年3月にBlue UAS 2.0を開始した。2022年10月末現在、16のsUASシステムが利用可能としてリストに掲載されており、これには2020年度国防権限法第848条に準拠し、サイバー空間上の安全性、飛行の安全性が検証され、国防総省の例外政策を必要とせずに政府による購入と運用が可能なドローンが含まれている。

DIUのBlue UASプログラムの起源は2018年に遡る。これは、米陸軍の短距離偵察(SRR)プログラムの記録(および同名でのDIUとの共同プログラム)と、中国製のCOTSドローンの調達を禁止する米国政府の方針がますます広く適用されていたことによる。Blue UAS 1.0は、陸軍の最終的な5機の短距離偵察(SRR) UASを修正し、スタンド・アロンで、構成が適正化された機体を全ての米国政府機関に提供した。ブルーUAS 2.0は、利用可能なリストを拡大し、インフラ検査、安全機能、地図作成、伝統的な偵察業務など、より幅広い国防総省の用途に対応するために意欲的に取り組んだ。さらに、利用可能なリストの拡大は管理プロセスの標準化に繋がり、従来は現場での採用を抑制していた民間企業が、国防総省とのビジネスを促進することができるようになった。

利用可能リストに追加されたBlue UAS 2.0製品には、小型クアッド・コプター、固定翼機、同軸システム、モジュール式ペイロードを搭載した高重量オプションが含まれる。今年承認されたドローンには、Ascent AeroSystems Spirit、Freefly Alta X、SenseFly eBee TAC、Inspired Flight 750、Inspired Flight 1200、Blue Halo Intense-Eye V2、Easy Aerial Osprey、Skydio X2D、Harris Aerial H6およびHydrone、Wingtra WingtraOneが含まれる。さらに2つのシステムが政府用として認証されようとしている。Blue UASは、連邦政府全体で無人機能の利用を拡大しているだけでなく、ドローン・メーカーに国防総省市場への道を提供している。

DIUのBlue UASプログラムと米陸軍とのパートナーシップは、相互に構築され続けている。次世代短距離偵察(SRR)試作品は、DIUのBlue UASフレームワークの下で開発された複数のコンポーネントを活用しており、高度な演算飛行制御、ミッション・カメラ、データ・リンク、地上管制ステーション・ソフトウェアなど、基準に準拠したsUASコンポーネントを開発している。重要なことは、次世代短距離偵察(SRR)システムは、陸軍の他のsUASや地上無人車両を制御できるソルジャー・ロボティック・コントローラー(SROC)とともに実戦配備されることで、高度なロボット・プラットフォームの普及と運用のための重量、訓練、ロジスティクスの障壁が軽減されることである。これらの努力を通じ、業界のパートナーに対して強固な標準とBlue UAS 3.0に関する情報が提供される。

(2) 建築規模の積層造形(CONSTRUCTION SCALE ADDITIVE MANUFACTURING:CSAM)

戦場とその先にある3Dプリンティング

2022年、DIUは米陸軍の施設管理司令部と提携し、米陸軍工兵研究開発センター(ERDC)の支援を受け、ICONのVulcan建設システムを使ってフォートブリスに3Dプリント兵舎を建設した。各5,700平方フィート以上の新しい兵舎は、西半球最大の3Dプリント構造物となり、国防総省が新たに発表した加法的コンクリート構造に関する統一施設基準(UFC)に準拠した最初のものとなる。構造規制作業部会による統一施設基準(UFC)へのこの変更は、商業的革新を活用し、国防総省内で斬新で時間を節約できる製造方法を取り入れる事を可能とする。

国内外の軍事建設プロジェクトは、コストと時間がかかり、戦闘地域では潜在的に危険である。さらに、国防総省の建造物の多くは21世紀の気候に合わせて建設されておらず、老朽化した建物は腐敗やカビによって損なわれている。加法的コンクリート建設は、遠征先での建設と従来型建設の両方を改善する新しい建築技術と材料となる。

「現在、数十億ドル規模の住宅供給が滞っており、このことは兵士の勤務に影響を及ぼしています。私たちは、米陸軍と協力し、Diuとのパートナーシップを継続することで、ICONの技術の多様な使用例を確認し、フォート・ブリスの兵士のために耐久性のある快適な3Dプリント兵舎を提供できることを誇りに思います。」ー ブレンダン・オドノヒュー、ICONの公共部門担当副社長

2022年12月、ICONが建設中のフォート・ブリスのバラック(ICON Technology Inc: アイコン・テクノロジー社)(出典:DIU Annual Report FY22, P.26)

オースティンを拠点とするICON社は、3Dプリント技術を活用し、従来の工法に比べて耐久性が高く、より迅速でエネルギー効率の高い建設を可能にしている。同社が独自に開発した高強度混合コンクリート「Lavacrete」は、高速でプリントでき、極端な天候にも耐え、従来の材料よりも長持ちする。同社は2019年、米海兵隊と遠征先での建設能力を試作するためDIUと初提携した。わずか数時間の実地訓練で、キャンプ・ペンドルトンにいた8人の海兵隊員グループは、36時間足らずで車両の隠蔽構造物を建設した。アイコンは最近、NASAのために初の火星表面居住地のシミュレーションを3Dプリントで完成させました。テキサス州ヒューストンのジョンソン宇宙センターに設置されたMars Dune Alphaは、長期間の科学ミッションを支援していく。

フォートブリスの兵舎は、2023年初頭に完成する予定である。この工法は、従来の工法に比べ10~30%のコスト削減が見込まれる。また、第三者機関の調査によると、冷暖房費が大幅に削減され、ライフサイクルコスト全体がさらに削減される。

(3) 対UAS(Counter - UAS : C - UAS)

軍事用の対ドローン・ソリューション

2021年6月、DIUは国防総省をはじめとする米政府機関全体で対UASを利用できるようにするため、Andurilと9900万ドルの契約を締結した。契約締結から90日以内に、3つの政府機関が3500万ドル以上を購入した。2022年6月、アンドゥリルの能力を評価した後、統合小型UAS対策室(JCO)は、同社を各軍と戦闘指揮官のための「C-UAS-as-a-Service」の推奨プロバイダーとして追加した。DIUは、太平洋空軍(PACAF)にC-UAS技術を提供するために438万ドルの製造注文を実施し、「CUAS as-a-Service」の作戦での利用が広がった。PACAFは、Anduril生産契約から購入する最初の米空軍の主要顧客とな離、生産契約の2年目に入って5,300万ドル以上の購入が完了した。CSO(Commercial Solutions Opening)プロセスで検証された様に、本契約は迅速に開発された試作品の利用を拡大するための重要なステップとなっている。Andurilは、この進化を続けるドローンの脅威に対抗するため、対UAS能力の向上に取り組み続けている。

この対UAS生産OT協定の拡大と更なる実施は、米インド太平洋軍の地理的責任領域におけるUAS事件の増加を受けてのものである。さらに、ウクライナに対するロシアの神風ドローンの攻撃的な使用は、様々なUASの脅威に対抗するための防御システムの必要性を示している。AndurilのLattice AIオペレーティング・システムとセンサー・ネットワークは、必要な人員を削減しながら、対象目標の自動検出、識別、追跡、撃退を可能にする。

太平洋空軍は、Andurilの自律型複数モード対UAS能力を2つの軍事施設に12ヶ月間配備する予定である。この取り組みにより、熱帯と寒冷地という厳しい環境での対UAS技術テストが可能になる。さらに、この配備には、重要な施設やインフラの保護をサポートするために、物理的な撃退オプションとなる「アンビル・インターセプター」の最初の導入でもある。

「フリーフライ・アルタXがDIUのブルーUAS 2.0リストに掲載されたことで、新規および既存の顧客は、私たちのシステムが安全、安心、そして信頼できるものであるという確信を得ることがでた。このプロセスを通じて、私たちは米国を小型UAS業界のグローバル・リーダーとして位置づけることができた。」ー マット・イゼンバーガー、ドローン、フリーフライ・システムズCEO

3. サイバーと電気通信

米サイバー軍および国家安全保障局と連携し、国防総省のコンピュータ・ネットワークおよびシステムをあらゆる形態のサイバー攻撃から保護する。(出典:DIU Annual Report FY22, P.28)

(1) サイバー脅威の遠隔測定

サイバー脅威の状況について非対称的な見方を提供

今日の断片化されたデジタル戦場では、政府はしばしば非国家のプロキシを活用してサイバー攻撃を行う。歴史的に、国防総省は、商業的な遠隔測定データと非伝統的なサイバー・データ・ソースの両方から、そのような脅威行為者の活動を可視化することができなかった。

2019年以降、米サイバー軍(USCYBERCOM)、サイバー国家任務部隊(CNMF:Cyber National Mission Forces)、および各軍のサイバー部門はDIUと提携し、既存の脅威情報フィードを新しい商用データで補強するソリューションを開発してきた。2022年度、DIUとパートナーは、CA Services/Broadcom、Dragos、Scylla Intelligence、SpyCloudの4つの民間ベンダーと試作契約を締結し、この関係を強化した。これらの企業は現在、従来の脅威情報プラットフォーム、IoT(モノのインターネット)監視サービス、産業制御システム/OT(Operational Technology)監視サービスを含む技術試作品を開発している。

サイバー戦争: サイレント・ハント(DVIDS)
(出典:DIU Annual Report FY22, P.29)

DIU、米サイバー軍、サイバー国家任務部隊の信頼関係を基盤に、これらのプロジェクトは、民間の脅威インテリジェンスおよび遠隔測定プロバイダーとの継続的な取り組みを補完するものである。
こうした一連のソリューションが充実してきたことで、国防総省は重要インフラに対するサイバー攻撃について、これまでは得られなかった状況を把握できるようになり、同時に、より効率的な方法で対応の優先順位を決定できるようになった。

(2) スペクトラム&ワイヤレス・モニタリング(SWiM)

悪意のある無線信号の識別と防御

携帯電話や接続デバイスの使用は、日常生活のいたるところで見られる。これは個人にとって大きな利便性をもたらしたが、接続されたデバイスはすべて脆弱なノードとなり、機密情報へのアクセスを狙う悪意のある敵からの攻撃を受ける可能性がある。

特に、入館時に起動されていない場合、セキュリティ・チェックポイントを通過する政府施設に、小型サイズまたは埋め込まれた不正な無線デバイスが持ち込まれる可能性がある。

ある情報機関のパートナーは、無線による侵入や機密情報の電子的盗聴のリスクを考慮し、モジュール式でオープンな非独占的プラットフォーム上に組み立てられたローカル管理のCOTSセンサーネットワークの調達、試作品の作成、そして最終的な移転をDIUに依頼した。このパートナーは、無線周波数(RF)スペクトルの脅威から継続的に保護するために活用できる次世代の無線侵入検知ソリューションを特定することを切望していた。

2021年9月、DIUは、以下のを達成するためにベンダーを2社選定した。

1 RFスペクトラム全域で動作するワイヤレス機器の偏在的な使用によって生じる不正なワイヤレス信号を識別するソリューションを試作

2 意図しないRF放射と悪意のあるRF放射の両方から防御

3 急速に変化するRF信号の状況に適応できる、将来性のあるアーキテクチャの開発。このソリューションは、永続的な戦力保護要件として、防衛エコシステム全体に展開することができるもの。

「BASTILLE NETWORKSは 、スペクトラム・ワイヤレス・モニタリング・システム(swim)プログラムの一環として、国防総省の機密環境を無線機器やネットワークの脅威から守っていることを誇りに思います。DIUのプロセスは非常に効率的で、米国政府がVC(ベンチャー・キャピタル)の支援を受けたテクノロジー企業と提携し、民間投資を活用して革新的な新ソリューションを提供する方法のモデルとなっています。」ー BASTILLE NETWORKS、最高リスク責任者(CRO)、アイバン・オサリバン

この取り組みは、情報機関と提携することで、米国政府全体に効果を最大限に広めることに焦点を当てている。2022年度を通じて、DIUのサイバー・電気通信関係者及びパートナーは、DIUと国家安全保障局・情報機関との継続的な関係を強化しながら、試作段階に入った。

(3) 暗号通貨の分析とアトリビューション(脅威の帰属性)

不正かつ敵対的な暗号通貨取引を阻止

今日のデジタル化された世界では、商業や政治的な国家運営のほぼすべての側面が、混乱や盗難、操作に対して脆弱である。特に暗号通貨の出現は、ネットワーク・セキュリティの侵害を収益化することを容易にしている。暗号通貨は合法的な目的で使用されることもあるが、暗号通貨ウォレットの所有者やそれに関連する取引が全体的に可視化されていないため、ランサムウェア、マネーロンダリング、金融資産の隠蔽などの事例を含むサイバー犯罪の新たな波が巻き起こっている。2021年には、4億ドル以上の暗号通貨の支払いが、"ロシアと提携している可能性が高い "グループに流れた。

この国家安全保障上の脅威の高まりを受け、米サイバー軍はDIUと提携して米国政府及び軍事的な利益を標的にした特定の行動に対処できるソリューションを試作。暗号通貨ウォレットを個人まで追跡し、取引データを使用して不正なネットワークを明らかにすることが可能となるものだ。

2022年6月、DIUとサイバー国家任務部隊はCipherTrace、Coinbase、TRM Labsの3つの民間ベンダーに試作OT契約を締結した。これらのベンダーは現在、サイバー国家任務部隊司令部傘下のタスクフォースチームが暗号通貨資産を特定し、敵対的活動に関連する不正取引を阻止するのに役立つプラットフォームを開発している。他の連邦機関が暗号資産空間の規制に向けた取り組みを強化する中、DIUは、金融規制当局、法執行機関、民間団体と協力を模索し、犯罪活動の資金源となる暗号通貨の追跡と回収を支援していく。

4. エネルギー

軍事施設の持続性を強化し、作戦におけるエネルギー能力を強化

(1) 電気自動車支援装置(EVSE)

EV急速充電インフラを全軍に拡大

電気自動車(EV)の利用が拡大するにつれ、より多くのEV充電ステーションの必要性も高まっている。特に、国防総省は近々、国内の450以上の軍事基地で政府所有車(GOV)と個人所有車(POV)の両方をサポートできる充電ステーションを義務付ける予定です。現在、国内の軍事基地に設置されている充電ステーションは政府所有車(GOV)のみに指定されており、軍人がEVの潜在的な利点を私生活や職業生活で活用する能力を制限している。

DIUの電気自動車支援装置(EVSE)プログラムでは、TechFlowと他のベンダーが各軍と提携し、一部の基地でレベル2とレベル3の充電器を試験的に設置している。基地内への充電器設置が完了したら、DIUは1年間にわたる分析を行い、充電器の使用状況、稼働時間、車種(個人所有車と政府所有車など)、待ち時間、平均修理時間などを測定すると同時に、充電器の能力が国のサイバーセキュリティ標準に対応しているかの確認も行う。プロジェクトはまた、個人所有車による充電の収益が国防総省の電気自動車インフラ投資を賄うという、充電サービス(charging- as-a-service)支払いモデルの実行可能性も評価する。

プロトタイプは、国防総省のサイバーセキュリティ・プロトコルの遵守を保証するため、レベル2およびレベル3充電器のFedRAMP認証を取得する。

これは、政府所有車と個人所有車の両方を対象とした最初の国防総省電気自動車充電器プロジェクトである。業務用、個人用を問わず電気自動車の走行台数が増加する中、持続的な提供と信頼性を高めるため、この増加する需要に対応する様々な充電ソリューションが必要とされている。

この試験的設置が成功すれば、すべての連邦政府機関が電気自動車用充電ステーションの生産規模での導入に移行し、電気自動車の幅広い利用が可能になる。

「DIUの協力を得て、あらゆる地上車両プラットフォームのハイブリッド化のための基礎的な用途として展開できる商用ビルディング・ブロック・バッテリーを利用するよう、産業界に働きかけています......商用技術を、非独占的な防衛インターフェースとプラットフォームに一括・統合する方法を学んでいます」ー ダフネ・フエンテヴィラ、海軍省運用エネルギープログラム副部長

(2) 先進バッテリー基準への急発進(JABS)

国防総省のバッテリー 標準化と採用を加速

軍では、それぞれ特定のバッテリーを使用する多種多様なシステムを運用しているため、毎年何千種類もの独自のバッテリーが必要となります。その結果、年間数億ドルものバッテリーを市場標準の10倍以上のコストで調達することになります。

幸いなことに、電気自動車分野への大規模な商業投資による近年の技術進歩により、低コストで大幅に改善された性能を特徴とする先進的なバッテリーが誕生している。国防総省は、最先端の商業用電気自動車バッテリー技術を軍事用に採用することで、多数の現行システムの能力を向上させることを目指している。国防総省のアプリケーションで、先進バッテリーが潜在的に変革をもたらす利点の例としては、車両の電動化(サイレント・ウォッチ、サイレント・モビリティ、将来の競合するロジスティクス上の課題など)、エネルギー貯蔵の改善(持続的な施設の設置、ロジスティクス上の負担軽減など)、先進的な能力を有する動力源(指向性エネルギー、エッジ・コンピューティングなど)がある。

DIUは、国防総省取得・維持担当次官室(OUSD(A&S))、米陸軍戦闘能力開発司令部(DEVCOM)、地上車両システムセンター(GVSC)、海軍海上システム司令部クレーン部門、海軍運用エネルギー省と提携し、国防総省内でのバッテリーの標準化と生産の促進を図っている。国防総省全体で協調して取り組むことで、バッテリーの要件を商用電気自動車バッテリーの標準に合わせ、準拠した商用バッテリーを大規模に取得するための契約の道筋を付ける。

2022年9月、国防総省取得・維持担当次官室(OUSD(A&S))とDIUは、国防総省のプラットフォームで試験・分析するためのバッテリー・パックの試作品を開発するために、GMディフェンス社と契約した。同社は、親会社であるゼネラル・モーターズの最新の商用バッテリー技術を活用し、戦術的な軍用車両に使用できる拡張性のある設計を提供し、同様の技術の標準的な統合経路を共有した。追加の試作契約は2023年に締結される予定である。

JABS(先進バッテリー基準への急発進)プロジェクトは、軍が車両やプラットフォームの電動化を開始する際に、技術の進歩に歩調を合わせるために必要な重要な第一歩である。これはOSD(アメリカ合衆国国防長官府 )と包括的な初の共同プロジェクトであり、商用電気自動車バッテリー・メーカーが国防総省の幅広い用途にバッテリーを適合させるために必要な標準を試験・開発することを可能にする。この統合プロジェクトのポイントは、能力を拡大し実戦化するのに必要なスケジュールを合理化すると同時に、軍全体のエンド・ユーザーに最先端の商用バッテリーの可能性を認知してもらうことである。特に重要なことは、標準化された一連のバッテリー・モジュールの開発を支援することで、国防総省の商用バッテリーに対する需要が増加しているサインを示し、商用セクターが国防総省と協力するための障壁を減らし、将来のバッテリーの進歩が軍用プラットフォームにシームレスに統合され採用される道を開くことである。

(3) ブレンデッド・ウイング・ボディー(BWB)


NASAのための初期のブレンデッド・ウイング・ボディのコンセプト・デザイン(NASA)
(出典:DIU Annual Report FY22, P.31-32)

国防総省の輸送機と空中給油機のオペレーションを最適化

何十年もの間、民間航空市場は、航空機の燃料使用量とカーボン・フットプリントを削減するために革新的な進歩を遂げてきた。商業的研究開発の成果として特に注目されるのは、ブレンデッド・ウィング・ボディ(BWB)機体である。BWB機体は、従来のチューブ・アンド・ウイング機体よりも流線型のデザインを採用し、空力効率を大幅に改善することで、40%以上の燃料節減を実現する。

1990年代に既に実証された技術と初期設計が存在しているにもかかわらず新しい機体を採用することは、市場のリーダーにとってリスクが高い。DIUの取り組みは、空軍に代わって、この画期的なプラットフォームの開発リスクを軽減するためのものである。

近年、国防総省(特に空軍)は、太平洋戦域のような燃料に制約のある環境で長い距離をカバーするシナリオのための潜在的なソリューションとして、BWB機体に深い関心を寄せている。国防総省は、成功したBWB設計を採用することで運用燃料効率を最大化することで、プラットフォームの航続距離を伸ばし、運用コストを削減し、負担の大きいロジスティクス要件を緩和し、同時に米軍が気候変動に与える影響を軽減させる計画だ。

これらの目標を支援するため、空軍運用エネルギー室(SAF/IEN)はDIU、NASA、および民間企業と提携し、従来の航空機モデルと比較して空力効率が少なくとも30%向上する先進的な航空機構成の概念設計(CoD)を試作した。DIUは、2022年7月に商用BWB概念設計ソリューションの募集を開始し、現在、この設計概念の取り組みに参加するベンダー候補を競争させて絞り込んでいるところである。

BWB設計への移行は、輸送機、空中給油機、爆撃機に利用することができ、これらを合わせると空軍の年間ジェット燃料消費量(年間約12億ガロン)の約60%を占める。空軍運用エネルギー室(SAF/IEN)は、これらの航空機をBWBに移行することで、現在の燃料価格と飛行時間で年間10億ドルの燃料節減になると見積もっている。

5. ヒューマン・システム

現役兵士に装着されたパーキュセンス・デバイス
(出典:DIU Annual Report FY22, P.33-34)

「DIUとDTRA(国防脅威削減局)のコラボレーションによって提供された専門知識とサポートは、技術開発を加速させ、パーキュセンスのバイオ・センシング技術プラットフォームの適応を可能にし、戦闘員と初動対応者が化学物質への暴露を早期に検出するのに役立ちました。」

強化された機器、革新的なトレーニング、斬新な健康アプリケーションを通じて、人間のシステムを最適化する。

(1) 化学物質への暴露指標検出器(DICE)

化学兵器への曝露を検知するウェアラブル・デバイス

軍人は、化学兵器に不用意に接触する危険にさらされている。同様の危険物質が存在する環境に入る必要がある民間人や軍人の初動対応担当者なども、暴露による同様の懸念がある。多くの場合、化学毒性の症状は手遅れになるまで気づかない。この問題に対処するため、DIUと国防脅威削減局(DTRA)は2020年に化学物質曝露指標検出(DICE)プログラムを立ち上げ、現在フィリップスヘルスケアとPercuSenseを通じて化学物質検出ソリューションの試作を行っている。

PercuSenseのDICEバイオセンサの試作品は、糖尿病患者のグルコースの継続監視(CGM:continuous glucose monitoring)用の既存のCOTSウェアラブル・デバイスをベースにしている。具体的には、この試作品はCGMウェアラブルを活用し、生命反応とオピオイドやその他の化学兵器への曝露に関連する生体指標を目立たないように監視する。ユーザーは、危険なレベルの有毒化学物質への暴露に対するアラートとともに、化学物質の変化に関するリアルタイムのフィードバックを受けることができる。短期的なリスク管理を改善し、化学物質曝露による長期的な生理学的影響(癌など)の可能性を減らすことで、DICEシステムは人命と費用を節約し、軍人と民間人を問わず化学物質で機能不全となる脅威を最小化する。

このプロトタイプ装置は、互換性テストに合格した、検証済みの3つの異なるバイオマーカーを測定する機能を備えている。マルチ・バイオマーカー・センシング能力は、他の分子(例えば、肉体的労作、熱傷害、神経学的状態など)への拡張性を可能にし、デュアルユース市場や他の国防総省のユースケースに適している。

国防総省との共同で実施中の実働演習での使用及び運用試験に続き、国防脅威削減局(DTRA)からの最近の追加投資により、初の人間への適用(first-in-human)試験が可能となる。プロジェクトが2023年夏に最終段階に近づくにつれ、国防削減局(DTRA)とDIUのチームは、PercuSense DICEデバイスをCBRN(化学・生物・放射線)防護統合プログラム実行局(JPEO-CBRN)に移管し、実戦配備と製造を行うことを検討している。

(2) 無線通信

「このファブリック・シャーシは、モーラ・マイク用のすべての通信アクセサリーを1つのシンプルな隠し衣に組み込むことで、チーム活動のパフォーマンスを大幅に向上させる。」ー米空軍CI司令官

国防総省全体の通信機器の変革

軍事作戦の遂行には通信が不可欠である。DIUは今年、国防総省の2つのパートナーと、情報チームや米国沿岸警備隊(USCG)車両で使用する戦術通信の採用方法を変革する2つのプロジェクトを開始した。

外国の諜報機関(FIE)は、米国の諜報活動を探知し妨害するために、ますます洗練された能力を備えている。これに対し、ある軍事防諜組織(MDCO)は、ワイヤレスでハンズフリーの通信ソリューションを求めてDIUに接触した。彼らが採用する通信態勢は物理的に検知されないことが必須であり、そうでなければリスクに晒されると同時に任務達成が阻害される。

2021年11月、DIUは2つの新機能を組み合わせたソリューションを試作するベンダーを1社選定した。1つ目の機能は、マイクロエレクトロニクスが埋め込まれたe-テキスタイル素材であり、衣服を通して電力とデータを目立たないように伝送することを可能にする。2つ目の機能は、口の中に収まるマイク付き送受信機で、骨伝導による目に見えない双方向通信を可能にする。最初の試作品は2022年4月に納入され、6月には空軍防諜チームが現場で使用された。その成功により、他の部隊もこの技術を試験している。

DIUは米国沿岸警備隊(USCG)と共同で、さまざまな環境(海上、陸上、空中)で複数の乗組員が複数の車両搭載型無線機を利用できるようにするため、車両ミッションセットへの無線通信に注力した。現在米国沿岸警備隊向けに試作中の初期版では、10人以上の乗組員がハードワイヤ接続なしで最大5台の無線機で通信できるようになる。DIUは、産業界に働きかけてからわずか86日で、従来とは異なる無線通信ベンダーと契約を結ぶことができ、DIUが産業界と政府との橋渡しをするスピードの速さを実証した。DIUは産業界と政府との橋渡しを迅速に行い、沿岸警備隊がOT権限を初めて活用し、新技術の迅速な獲得と適応を実現した。

(3) リアルタイム情報と効果(RIE)

大規模な情報環境を活用する

任務に最も関連するデータの一部はファイアウォールの裏側に存在する。敵の情報環境をリアルタイムで理解することは、国防総省全体で最重要任務となっている。課題は2つの領域「アクセス」と「規模」に及ぶ。「規模」は、このような情報環境で流れるものをペタバイト単位で測定される。そのため、どのような情報を収集し、どのように処理するかが鍵となる。

RIE(リアルタイム情報と効果)は、海外の情報環境を理解しマッピングするための商用機能をテストし試作するDIUプログラムである。2021年7月、Vannevar Labsは、このミッション領域に対して提供するリード技術パートナーとしてDIUと契約を締結した。それ以来、この取り組みは、複数の軍隊と作戦司令部にまたがる20以上の組織と100人以上のユーザーを支援するまでに成長した。これにより、ソフトウェアの迅速な取得と試作化の取り組みが可能になり、情報環境の中で国防総省の戦術的、作戦的、戦略的目標を推進することができる。

6. 宇宙

国防総省の宇宙へのアクセスを拡大するための革新的な商業技術の開発、永続的な衛星能力、宇宙ロジスティクス、軌道上サービス、組立製造サービス、ブロードバンド宇宙データ転送

「オービトロン」と呼ばれる独自の静電プラズマ閉じ込め技術を採用した核融合炉の炉心「ネオ」を組み立てるアバランチ・エナジー社の科学者(アバランチ・エナジー・デザインズ)
(出典:DIU Annual Report FY22, P.36)

(1) ハイブリッド・スペース・アーキテクチャ(HSA)

拡張性、回復力、応答性に優れた通信インフラ

レガシーな地上および宇宙通信システムは、古い技術、非効率的な帯域幅割り当て、特注または独自のデータアーキテクチャに依存している。これらの特性が、真の通信耐障害性を阻害している。DIUのHSAプログラムは、同盟国やパートナーを含む商業、民間、軍事のユーザーに、宇宙空間におけるグローバルで偏在性が高くかつ安全なインターネット接続を提供することで、この問題に対処しようとしている。

DIUは、米宇宙軍の宇宙戦闘分析センターおよび空軍研究所の宇宙車両部門と共同で、この試作品の開発に取り組んでいる。

2022年5月と9月、国防総省は、機敏で弾力性のある通信アーキテクチャの目標を追求する多様な企業に対し、合計8つの契約を締結した。HSAプログラムを通じて、これらの企業は、多様な軌道上の商業宇宙資産と政府宇宙資産の両方を活用し、地球上および地球外のあらゆる場所で安全、確実、低遅延のデータ通信を提供するネットワーク・アーキテクチャを実証していく。

(2) 高確度での極超音速航空機試験能力(HyCAT)

極超音速システムの低コスト、高確度、長時間耐久試験

国防総省の極超音速技術の試験能力は限られている。現在の陸上および海上における試験場では、極超音速兵器システムの弾道と速度を再現する低確度で運用を代表するような事例の試験用として最適化されている。しかし、これらの試験場では、最先端の極超音速技術を迅速に反復し、進歩させる能力が著しく制限されている。その結果、極超音速研究開発のペースが遅くなり、国防総省がこの技術を成熟させ、敵対国に対して競争力を維持する能力に大きな影響を与えている。

この課題に対応するため、DIUは、極超音速システムおよびそのコンポーネントの迅速、安価、長期耐久試験を可能にする最新の低コスト、高確度空中試験プラットフォーム(機体)一式を試作する。これらのプロトタイプ試験から得られるデータと分析は、潜在的な兵器システムのコンセプト、技術、任務のあり方の評価を加速させる。

2022 年 9 月、DIU は 国防省研究技術担当次官室(OUSD(R&E))極超音速部長および試験資源管理センターとの協力の下、初の極超音速分野の公募を行った。この取り組みのベンダー選定は本報告書発行時点で進行中であるが、極超音速分野にとってのこのプロジェクトの重要性を強調するためにここに記載した。

(3) 原子力先進推進力(NAPP)

将来の国防総省の任務を可能にする高出力・高エネルギー燃料

現在の宇宙船推進システムは、化学エネルギーであろうと太陽エネルギーであろうと、将来の国防総省の宇宙任務の要件を満たすことはできない。最近の国防総省の宇宙ミッションは、分解されクラスターとなる小型衛星群に重点を置いている。このようなミッションには、惑星間距離で大きな質量を移動させることができる原子力推進・動力ソリューションが適している。このニーズに応えるため、DIUは小型・中型衛星用の核崩壊・核融合推進ソリューションを試作する原子力先進推進力(NAPP)プロジェクトを開始した。

現在の推定では、米国が宇宙での実証可能な核分裂推進能力を達成するまでには5年、核融合推進アプリケーションを達成するまでには10年かかる。原子力先進推進力(NAPP)プログラムは、米国の宇宙政策に従って商業的な革新と投資を活用することにより、このタイムラインを加速する。

このプロジェクトは実験室での試作試験から始められており、電気推進用の電力と、搭載されているセンシング及び通信機器用電力を供給できる原子力発電システムに関するものになる。初期の取り組みでは、システムレベルの実現可能性分析、新たな規制と許認可の道筋の開拓、商業用核物質サプライチェーンの強度と回復力のための基礎作りに重点を置いてきた。原子力先進推進力(NAPP)プログラムは、2025年までに高出力密度放射性核種崩壊システムの商業プロトタイプ実証打ち上げを支援することを目標としている。

Ⅵ 結言

2016年5月11日、国防イノベーションユニット実験職員と話すアッシュ・カーター国防長官(DVIDS)(出典:DIU Annual Report FY22, P.38)

本号の年次報告書をアッシュ・カーター前国防長官に捧げる。あなたの先見性、ビジョン、そしてすべての人にとってより安全な世界を築くというコミットメントに向けて。

「私がDIU(ディフェンス・イノベーション・ユニット)を設立したのは、次のような理由からだ: 私たちは、世界が知る限り最高の戦闘力を持ち続ける必要がある。テクノロジーの世界において、我々が最高であり続ける唯一の方法は、地球上のどの軍隊よりも優れたテクノロジーを活用することだ。というのも、今日の技術基盤の多くは、商業部門や新興企業に存在しているからだ……。DARPA(国防高等研究計画局)、NASA(アメリカ航空宇宙局)、NRO(アメリカ国家偵察局)など、1950年代のスプートニクの余波でその他の偉大な機関を創設したのと同じように、この時代に創設する必要がある、いくつかの(しかし非常に重要な)架け橋のひとつになることだった。同じような課題に直面している私たちは、国防総省とハイテク部門をつなぐ代表的な機関として、同じような爆発的な発展を遂げる必要がある」ー  アッシュ・カーター 前国防長官 2022年6月

(終)

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