#17 好きが感謝に昇華した話⑤【再起】
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第1部「高3期」の登場人物
「私」
「背高猫背目つき悪男」
「初恋の人」
「初恋の人の友達」(Kさん)
※4人ともクラスが一緒
ーあらすじー
「密」であるはずの青春がほとんど失われた高3。そんな中趣味が同じで幸せそうな女性に私は恋をして卒業式で告白をするも、気持ちは届かずにそのまま高校を卒業することに。その後たった一つの連絡手段をもとに舞台は新たなステージへと切り替わる。これは、誰かを想う気持ちが本当に力となって人生を大きく変えてみせた話。
chapter8 ほとぼり
体があつい
目頭があつい
泣きたいけど、涙腺が固いせいで泣けない
泣けないけど、視界はぼやけていく
こういうとき、思いっきり泣ければどんなに楽か
転んでしまった小さな子どものようにワンワンできればどんなに楽か
人生の階段をひとつ、登った私は心底そう思った
日差しが暖かく、部活の仲間がいる公園に戻る途中には梅の木があり、そのつぼみはふくらんでいた
自分にとってどんなに大きな出来事が起きても、季節は変わらず移り変わっていく、そう実感させられる
ああ、ぽかぽかしてるなあ…
無気力で、上を向く
足はロボットのように公園へ向かって動き続ける
その公園へは国道を渡り急な坂道と階段を登った先にある。坂道には桜並木があった。まだつぼみの桜の下を通り、ゆっくりと階段を踏みしめる。登り切ったと同時に視界は開け、たくさんの遊具とベンチがお出迎えだ。
奥には、無邪気に遊具で遊んでいる部活の仲間がいた
30分前の自分とはやはり見え方が違う
私はそさくさと、何事もなかったように東屋に腰掛けた
公園の中央では子どもがボール遊びをしている
春の暖かさと子どもが遊んでいる光景はなんだか非常に相性がいい、そんな年寄りが考えそうなことを思いながら、しばらく私はさっきのことを振り返った。振り返ったって悲しくなるだけなのに。
胸ポケットに刺さったままのコサージュをみると、それがトリガーとなって記憶が蘇る
***
どんなに綺麗だったか
卒業式、裏門、制服
TPOが完璧に揃ったタイミングでの告白
別にこんなことを意図して狙ったわけでもないが、今考えるとなんちゅうことしてんだって思う。ああ、恥ずかしい、若気の至り
鳥肌が立つ
それに、なんで優しくしてくれるんだ
いきなり告白してきた奴に
嫌なら嫌で突き放してくれよ!
(とかいいつつそうされたら凹む質の悪い人)
ああもう!!!
そんなことされたら
また惹かれちゃうじゃん!!!
もう会えない人なのに
なんてことしてくれるんだ
___もしや、慣れてる?
こんな状況何度も経験してないとあんな返しできない
まさか魔性をもった方?
いやいや、そんなはずない!!!
***
「何頭ぶんぶんしてんの、私が代わりにシェイクしてあげようか?」
見上げると、部活の同期メンバーがいた
「というかこたつ30分も何しとったん?」
私にこんなことを聞く彼女は実は今でも背高猫背目つき悪男に並ぶ繋がりがある女性だ。
3人の繋がりは
私と彼はクラスが同じ
私と彼女は部活が同じ
そして、彼と彼女は私が自然に繋げた仲だ
ただ、この時点ではまだ関係は浅い
3人の共通点は同じ大学を目指していたところ
そして彼女はこんなボロカス男2人よりも数倍勉強ができる人で、共通テストの判定も良かった
しかし、この先の未来が3人を深く結びつけることになる
「大丈夫、なんでもないよ」
なんでもなくない顔で私はそういった
いまこの東屋には私と彼女の2人しかいない
なら、付き合いが長く信頼できる彼女には真実を話そうか
そう思い始めたときにはもう彼女は口を開いていた
「顔色が悪いよ、何かあったの?」
何かに安心してこの後私は全てを話し、これで私の告白の経緯を知る人物は2人になった
奇しくも、この先の浪人生活でLINEをしたのはこの2人と、”告白をした女性”だけである
その後、いろいろ話を聞いてもらった。嬉しかったのは彼女が開口一番に
「頑張ったやん」
と言ってくれたこと
こんな人だから、今でも付き合いがあるのかもしれない
それは、あの猫背男にも言えることだ
公園から途中まで彼女は一緒に帰ってくれた。いろんな話をしていく中で、私の傷は知らぬ間に埋まっていったようだ
オレンジ色に染まる空を見上げながら、私は無事家に帰りついた
長い、長い1日が終わった
翌朝には告白のダメージはかなり回復していた
寝たらある程度の悩みは忘れる非常に安物で、でも優れた脳だったおかげで
それでもさすがに全部は忘れられず、1週間くらいは経過観察が必要だろうが
カーテンの端から日差しが今日もいつも通り差し込んでいる
告白をする朝もしない朝も、平等にやってくる
鏡の前で変顔はしないにしても顔は洗う
毎朝のルーティーンをこなすとスッキリする
こういう時謎にポジティブな私はなんとこの時、いつかまたリベンジしてやろうなんて歯磨きしながら企てていた。会えるかすら分からない人に
どうかしている
でもね、
どうかしているから人生楽しいんじゃないか
シャカシャカと鳴り響く洗面台でふとそう思った
このみなぎる熱い気持ちは、この先1年でゆっくりと変化、成長を遂げることになる
この想いを大切にして
好きの、その先を
みつけてこい
chapter9 ラストチャンス
2021.3.10
この日、後期試験に向けた小論文の最後の添削に、私と「いよいよ明後日で今更本気になってる結局前期落ちた男」が来ていた
前期試験は当然ながら私も落ちている
3/8に確認するまでもなかった
朝から夕方まで最終調整をする
どちらも後期E判定なもので受かればもはや奇跡の領域であった。しかも私は私学も全落ちしていたため崖っぷちだ
夕方、2人も疲れてきた頃、彼はおもむろに3/1の結果を訊いてきた。今更かとは思ったが、後押しはしてもらったので話した
「そうかー」
なんともいえない顔をする
「○○さん優しいなー」
それは私が彼女がLINEはしようと言ってくれたことを話したとき
「お前、ほんまにやったんやな」
本当にやり遂げたことに彼は少々驚いているようだ
「彼女、告白は何度かしたことあるんだけど、されたのは初めてだったんだって。それであんな対応できるなんてすごいや」
3/1以降彼女と少しLINEのやりとりがあった。そこで私はいろいろ訊いてみたのだ。
「まあ、あの子も告白したことがあるからする側の気持ちがわかるんじゃない?」
「うんうん、彼女緊張に負けてLINEで告白してしまったこともあるっていってたな」
「じゃあお前○○さんに勝ったやん」
「おん、そうやね(笑)」
***
この日までに、なぜか私と”告白した人”の間で告白振り返りトークが行われていた。一体どんな神経してんだって思うかもしれないが、その時はやけくそだったのかもしれない。
それに、私が会話を途切れさせたくなかったのもある
あの日の告白のあと、私は彼女に感謝の気持ちを伝えた。ちゃんと聞いてくれてありがとう、とか優しくしてくれてありがとう、とか思うことをどばっと、
今の若者には嫌われてしまうくらいの長文で。もうしないけど。
それが会話の最初の方向を決めたのだ
そしたら、意外にも
「そこまで言われると照れちゃいますねえ(笑)」から始まり
緊張してふわふわしてしまう癖直したいな!とか
LINE告白はいけんと思うんじゃけど負けちゃったことある!とか
(わりと会話続くもんじゃな……)
と感じた
それに彼女はなんか褒めてくれた
すごいって思ったと
ほんまにい!そんなこと言っても嬉しくないぞお
と勝手にでれてました
そのメッセージの意図がどんなものであるかを一切考えずに
***
誰もいない教室で彼がおもむろにつぶやく
「俺も、卒業式で何かしとけばよかったな」
それは後悔にみえた
「女子全員に告白して回るとか」
私は少し引いた
外のカラスの鳴き声がよく聞こえた
帰り際、裏門に寄った
その場所の写真を撮りたくて
そこに、つい一週間前の自分を重ねる
うわ、恥ずかしい
鳥肌が立つ
でも頑張ったんだ
ならいいか
LINEも一応続いてるし
今はオススメの旅行先を聞いている
ここからさらに話を広げていけたらいいな
返信は3日に1回程度だが
でも幸せを感じるならそれでよし
1週間前とは違って穏やかな気持ちで裏門から家まで自転車を漕いだ
***
自分たちよりも遥かに勉強のできる部活の同期メンバーの女子が前期試験に落ちていたことはその翌日に知った
えっ
スマホを見つめていたのに声が出る
なんでどうしてなにかの間違いだよね?
そんなことがあっていいはずがない。あんなに頑張ってたのに。そりゃ自分たちが受ける学部より難しいのは分かるけど、彼女が届かないのなら誰が届くんだ
あんなに授業真面目に聞いて、質問もして、定期テストでは自分なんかより相当いい点とって、二次試験前はせっせと先生の所へ記述問題の添削へ行って
彼女は努力の天才だった
文句は言うけどきっちりやる
そんな人だ
「私も受けるよ、明日頑張ろ!」
LINE上のその無機質な文字は妙に胸をしめつけた
なぜか彼女も自分と猫背男と一緒に運命の渦に巻き込まれていくような気がする
3人がそれぞれの未来を目指して、後期試験に挑んだ
chapter10 再出発
2021.3.20
朝9:00
今日もカーテンの端から日差しが入ってくる
ただその位置は以前よりだいぶずれたようだ
目覚めた瞬間にドクンと心臓が拍動する
胸に手を当てると確かにわかる不規則なリズム
毛布から出した手はなぜか汗ばんでいた
足の裏もなんでか濡れている
怯えているのだ
避けたい、でもどうしても避けられない
それが後期の合格発表
もう本当に後がない状態
自分の人生を大きく左右するたった1つの番号を探す時間があと1時間で開始する
とんでもないことだ
起きる前から体は分かっていた
その重大さに
顔を洗い無心で朝ご飯を食べリビングのソファーに横になる
クッションを抱き、10分ほど固まった
その間、思考も停止した
その場にいる母親も家事をしながら私をまじまじと見つめてくる
「まだみんでね!この洗濯物干すまで待って!」
パンツ、靴下、ハンカチをたこ足に洗濯ピンでとめ、ドアの上のくぼみに引っ掛けながら急き立てる
私はいつまでだってみたくない
でもみないと次の行動が分からない
ジレンマに襲われる
時刻は9:55
あと5分でHP上で合格発表が行われる
仕方なくゆっくりと親のPCをリビングテーブルに持ってくる
パソコンを開き大学のサイトをみつける
あとは待機だ
相変わらずいつものように忙しく家事をこなしている母親がソファーの隣に座ったのはぴったり10:00だった
慎重に合格発表のサイトをクリックしてPDFファイルを開く
その時誤って一瞬で見てしまわないように開いた瞬間ファイルを拡大した。それもかなり
それからゆっくりゆっくり下にスクロールしながら1つずつ確認していく
後期は人数が少ないのですぐに自分の手前と思われる人までたどり着く
ここからだ、長いのは
パソコンのマウスは既にびしょびしょで指先も震えていた
受験した人数的に次が自分の番だ
そう分かっているからカーソルを動かせない
そのまま10分は固まった
母親も一緒に待ってくれた
でも、見なくちゃ
そう思って、そっと▽を一回クリックした
___次の数字が上半分だけ見えた
30分、ソファーで目を閉じた
***
その後部屋に戻ってぴったり1時間机の上に突っ伏した
この先どうなるんだろうとかって思うこともできない
考えることのできない時間があった
目をつぶっているけど、ただ瞼の裏を眺めているだけともとれる
目に映るものは今は全てシャットアウトしたい
余計なものは見なくていい
暗闇が落ち着いた
本当に追い込まれた人間はこうなるのかもしれない
1時間後、目を開けるとなんだか緑色の線が残像として景色にこびりついていた
あ、もうこんな時間たったのか
久しぶりに脳が動き出したようだ
とりあえず、お腹がすいた
やはりまずは生理的欲求を満たさねば
リビングに行き、レトルトの親子丼をぐつぐつと鍋で煮る
冷凍ご飯を出してレンジでチン
母親は今まで気を使って喋らないでいてくれていたが、それはもう申し訳なくなってくる
さあ、絶望タイムは終わりにしよう
「ねえ」
私は口を開く
「予備校回ってくるよ、今から」
その後食べた親子丼は、ちゃんと味がした
***
外の空気を吸うと春真っ盛りの匂いがする
暖かくて、何かのスタートにはもってこいの天気
ふと、走り出したくなる
スタートラインは自分で引かなくちゃね
信号が青になった瞬間走り出す
さあ、やっちゃえ
1年後あるかどうか分からないゴールに向かって
ゴールテープの先にある未知の未来へ向かって
(今後1年間はあの人に会うことはできないな)
あの人がどう思うかとかではない
自分がスッキリしないと誘うことすらできない
というかここから入試までちゃんと勉強しろ!
そう誓った
絶対受かるまで彼女を呼び出したりしない
なんて自分勝手なこと考えてんだって今じゃ思う
好きな人がいるから振られたのに
でも時に自分勝手はいい方向に転ぶこともあるらしい
自分の楽観視がこの時は大いに役立った
***
駅について電車に乗る
最寄駅から電車で30分程で大手の塾が乱立するエリアにたどり着く
さあ、いつもはその手を振り払う広告を今日ならいくらでも持って帰ってやるぜ!
そう意気込んで改札を出る
そこで、ふと、あることに気づく
___合格発表の後なのにあいつからLINEがこない
LINEが適当なあの男でも前期試験の合格発表の時だけはいち早く落ちたって報告してきたのに
___忘れたのかな……?
スマホを取り出してLINEを開こうとする
なのにいきなり立ち止まって反射的にポケットにしまう
得体のしれない何かが沸き上がってきそうだ
それでも私はビルに向かって歩くのをやめない
やめないと決めたんだ
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