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ノイズキャンセルの罠

昨日、93歳で要介護4の祖父が救急搬送されました。

こんにちは。
音楽家のこうたろうです。

日曜日ということもあり受け入れ先が見つからず40分ほど立ち往生。

やっと見つかった搬送先が自宅から車で1時間以上かかる場所。
救急車なので40分ほどで到着したのですが、40分の間車内ですることもないので、同席していた救急隊員の方といろいろ話していました。

車の動きがおかしい

業界のことなどいろいろ教えてくれたのですが、その中でも筆者が特に気になった点が、周囲の車の動きが昔とは随分違うな〜という点でした。

もう5、6年前になりますが、祖母が救急車を使った時は、それはそれは『出エジプト記』モーセの海割りのごとく(みたことないけど)車が道を開けていってくれる様子に感動したのを覚えています。

昨日は日曜日。
混んでる道は大変な混み具合ですが、なかなか道が開かない。

車の真後ろからスピーカーで『救急車通ります〜』と言ってるのに動かない・・・なんてこともあり、救急隊の方に聞いてみました。

筆者『昔と比べて周囲の車のレスポンス悪くなってたりしますか?』

隊員『そうですね〜最近は車内の静音性が上がっているということに加えて運転中でもイヤホンで音楽聴いていたり、通話していたりしますし、なによりイヤホンの遮音性がすごく高くなっているのがあるんですよ。』

なるほど。

確かに、ええ車って、車内の座席前後で普通に話をしていても充分に会話が成立するレベルで遮音性が高くなっていますよね。

ノイズキャンセル

それに加えて昨今のノイズキャンセル性能たるやとてつもない性能だったりします。

とある企業のノイズキャンセルなんかでも、救急車の音がここまで消えるというテストを掲載しているところもあったりし、実際に自分が救急車を利用するまでこの危険性に気がつきませんでした。

技術的な話でいうと、救急車の音、周波数を打ち消すようなイコライジングを当てればかなりの精度で音は消えてなくなります。

日常生活で音による情報収集というのは非常に重要。
特に運転中はとっても大事。

音によって把握できる状況はとても多く、周囲の車の数、位置などなど多岐にわたります。

近年問題にもなっている煽り運転のトラブルなんかも、追越車線でなかなかどかない・・・
なんて車とのやりとりが発端になっていることもあると聞きます。

昔であれば目視に加えて追越車線走っていて後ろから来る車のエンジン音が近づくスピードで左によるか、スピードを上げるか判断していたはず。

ところが、今は先述の通り車の遮音性に、ノイズキャンセルが組み合わさればもう気がつかない。

筆者もノイズキャンセル機能付きは持っていますが、日常で使うことはほとんどありません。
在宅介護をしているといつ呼ばれるか、いつ鈴(声出すのがしんどいときに鳴らしてもらうやつ)の音がなるか耳を澄ましておく必要があります。

みなさんもノイズキャンセル機能で日常生活の中で大切な情報の見落としがないか注意してみてはいかがでしょうか。

緊急車両が一定の範囲内に入ったらETCカードみたいに『緊急車両が通過します』なんてアナウンスが流れたりしたらいいのにな〜なんて考えながら祖父は無事に入院しました。

ちょっぴり専門的なお話

日常生活で音による情報収集というのは非常に重要ですというお話をしましたが、実際に人はどの程度音からの情報を得ているのでしょうか。

リバーブ(残響音)

みなさんもカラオケいったら使うことがあるリバーブという効果。
これは何もカラオケマシーンにだけ入っている機能というわけではなく、自然界にも存在しています。

音が音源から発信されると、波のように広がっていき、距離が離れれば離れるほど波の折り返しは緩やかに、幅は広がっていきます。

障害物に到達したときにはその音は通常吸収されるか、反射するかの二択となります。

反射する場合は反射音として跳ね返ります。
例えば声を発生して、発生源の音と、この反射した角度、そして返ってきた反射音との差を人は無意識に分析し、全くの目隠し状態でもその場所の広さ、高さ、材質、などなどが把握できるというわけです。

それらが究極に研ぎ澄まされたのが座頭市というわけですね。

実際日本刀は音の反射が激しいですから、極限まで研ぎ澄ませば完全な目隠し状態で刀の動きをすべて捉えることは充分に可能だと思います。

プロのピアニストはたった一音聴いただけで鍵盤の下に入っているフェルト素材の湿度や厚みを正確に把握できるわけです。

足音

目隠しでそんなことまでわかるわけないじゃないか?
と思いましたか?

いえいえ、みなさんも日常でこれだけ研ぎ澄まされた感覚を発揮する場面がたくさんあるのです。
例えば足音。

深夜後ろを歩く足音。

足音が聞こえているという時点でだいたいの場合安全なんでしょうけど、やはり人間の防衛本能といいますか、研ぎ澄まされた感覚を発揮する場面の1つ。

  • 性別

  • 背格好

  • 性格

  • 人物像

実際、かなりの精度で把握できませんか?

そして人間の耳は不思議なもので、足音という一点にフォーカスすると、周囲の音が聞こえにくくなります。
ちょっと専門的にいうと、無指向性の集音から指向性の集音に切り替わったということです。

ノイズキャンセル機能は自分の世界に没入できる素晴らしい技術です。
一方で人間が本来持っている防衛本能や感覚などが退化してしまうリスクも抱えているのではないでしょうか?

工事の音、救急車の音、小鳥の音、止まることなくずっと流れてる川の音、バイクのエンジン音、どれをノイズか定義するのはあなたです。
ノイズの定義を機械に任せてしまわないように。

では。