日本の伝統から生まれたマテリアルWAZAIで、富裕層マーケット開拓へ
前回の記事で、世界でも珍しいフォークアートのマーケットIFAMに出展した経験を振り返りましたが、今日のトピックスは、そのアメリカ出張のもうひとつの目的地ニューヨークでの話です。実は、私たちがこれまで約10年にわたって地道に取り組んできた「北山杉」のマテリアルビジネスが今、パリやニューヨークで確実に実を結びつつあるのです。
高級インテリアや家具のトレンド先端をゆくニューヨークへ
去る7月に、約3年ぶりにアメリカ出張に出かけましたが、そのメインの目的地がニューヨーク。弊社・日吉屋をはじめ、私が普段からプロデュースをさせていただいている日本各地の伝統工芸品を、欧米の高級インテリア、内装、家具のマテリアルとして活用していただくためです。
今回の訪問先のひとつが、フランスの家具デザインオフィスGARNIER & LINKERの代理店のショールーム。入居しているのは、エンパイアステートメントビルにもほど近い、超高級エリアにあるNew York Design Center内です。GARNIER & LINKERは、ギョーム・ガルニエ氏とフロー・リンカー氏というふたりのフランス人家具デザイナーからなるユニット。仕事の拠点はパリですが、ニューヨークにもショールームを持って、さまざまな顧客の依頼に応えているのです。
こんな一等地のショールームの家賃は日本人の感覚からすると目玉が飛び出るほどのもののはずですが、それでも商売が成り立っているということは、やはり超富裕層を相手にしたビジネスはまだまだ活気があるのでしょう。
フランス人家具デザイナーが京都産の北山杉を使って手がける高級家具
GARNIER & LINKERの代表作のひとつが京都の北山杉を活用した「KITAYAMA」シリーズ。北山杉特有の、表面が凸凹と波打った「シボ」と呼ばれる意匠を、家具のデコレーションに取り入れているのが特長です。
北山杉とは、現在の京都市北区に位置する林業地帯で産出される杉のこと。材質が緻密で節がなく、なめらかな木肌には光沢があるほか、真円でまっすぐであり、干割れが生じにくいなどの特徴を持っており、約600年前の室町時代ごろから茶室や数寄屋に重用されてきました。とくに、表面が凸凹と波打った意匠「シボ(またはデシボ)」は、明治〜大正〜昭和期と続いてきた技術革新の賜物です。
ギョームとフローが北山杉のことを知ったのは、私がプロデュースを担当した、中小企業庁(実施主体は中小企業基盤整備機構)の「Contemporary Japanese Design Project」という全国の地場産業支援プロジェクトを通じてでした。現在、日本国内では、北山杉のような和室に特化したイメージのある高価な銘木はなかなか需要がありません。北山杉の育林と製造販売を手がける「中源株式会社」からそんな悩みを聞いた私は、同社にこのプロジェクトの公募情報をご案内しました。そして見事採択された後に、デザイナーマッチングの段階で、この素材を世界に向けて発信できないかと考え、ギョームとフローに相談を持ちかけたのです。
当時の彼らはまだ駆け出しの新人でしたが、「世界中探してもこんなアーティスティックなシダーはない」と北山杉に惚れ込み、最初のプロトタイプを製作しました。日本では高級な床柱と相場が決まっている北山杉を、家具に使うというのは、外の目線をもったフランス人ならではの発想です。彼らの「KITAYAMA」は初めは大して注目もされませんでしたが、徐々にインテリアデザイナーやバイヤーの間に口コミで広がっていきました。
北山杉をデザイナーにマテリアルとして売るというビジネス
そんな経緯があって、これまで約10年に渡って、私たち日吉屋のインテリア部門JDLI(JAPAN DESIGN LIGHTING & INTERIOR)は、GARNIER & LINKERに北山杉を材料として販売してきました。海を渡った北山杉は、フランスで家具に加工され、世界に届けられるのです。家具としての末端価格は、かなり高価なものになるのですが、それでも出荷量は安定しており、これまでに相当の量の北山杉を輸出してきたことになります。10年前に蒔いた種が、ようやく花を咲かせ実を結んだという実感があります。
JDLIは、この北山杉のように、日本の伝統から生まれたマテリアルをWAZAIと称し、世界の「お誂え市場」に売ろうとしています。そのためにも、建築家やインテリアデザイナー、家具デザイナーなど、すぐれたデザイン力と影響力を持った人に、WAZAIの魅力とポテンシャルを伝えていかなければなりません。非常にニッチかつハイエンドなものづくりが行われる分野にWAZAIを届けること、そこに私は大きな可能性を感じています。木工、竹工、金工、陶磁器、織物、漆、和紙、畳など、海外の一流の感性と出会って「化ける」可能性があるマテリアルはまだまだあるはずです。
伝統工芸や地域資源活用に関わる方々には、「日本でプロダクトを開発し海外で売る」というアプローチだけでなく、このようなマテリアルビジネスもありうるということを、ぜひ参考にしていただければと思います。
WAZAIビジネスを行っている日吉屋のインテリア部門JDLIはこちら
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