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伝統工芸のアップデートと、クラウドファンディングの親和性

D2C戦略強化のひとつとして挑んだクラウドファンディング

梅雨真っ只中ですが、みなさん雨の日を楽しむ「マイフェイバリット」はお持ちでしょうか。京和傘の老舗・日吉屋がおすすめしているのは、晴雨兼用の第三の傘、ryotenです。ryotenは、江戸時代に実際に使われてきた「両天傘(りょうてんがさ)」をその名の由来とし、環境にやさしい和傘の魅力を、現代生活に合うようアップデートしているのが特長です。

今回は、このryotenを巡って、日吉屋がチャレンジしたクラウドファンディングについて書いてみたいと思います。というのも、このチャレンジは日吉屋にとって、D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー:消費者直接取引)戦略を強化していくための、ひとつの通過点だったからです。

これまで約10数年、日吉屋ではTV、新聞、雑誌などの取材を多く受けてきており、広告費をかけていないわりにはメディア露出度はかなり高いほうだったと思います。その一方で、自社から積極的に情報発信して顧客と絆をつくるような施策には、手が回っていなかったのが実際のところです。2022年はデジタルを活用してそんな体制にテコ入れをしていきたいというのが私の思いでした。

世にクラウドファンディングサイトがいくつかある中で、今回私たちが活用したのはMakuake。実施期間は、2022年2月8日から3月31日までの52日間。告知が遅れたわりには、Makuakeサイト内で注目プロジェクトのランキング7位に入るという追い風もあり、最終的に目標を9倍近く上回る4,356,000円の応援購入をいただくことができました。

すでに手元に溜まっていた、クラウドファンディングの実績と知見

ちなみに、ラウドファンディングそのものは、決して初心者だったわけではありません。毎年70~80という数の伝統工芸の担い手を対象に、国内外の販路拡大をお手伝いしてきた日吉屋クラフトラボでは、ここ2年ほど、支援メニューのひとつに「クラウドファンディングの運営サポート」を取り入れています。

クラウドファンディングで成功するためには、モノが生まれた背景にある企業文化や、開発の志など、読者の共感を呼ぶ「ストーリー」をサイトできちんと伝えることが大切です。そこにはつくり手の体温が伝わるテキストはもちろん、商品を魅力的に見せる写真や動画も欠かせません。

しかしマンパワーが不足している小さな事業者では、そこまで手が回らないというケースが多いのも事実です。そこで日吉屋クラフトラボが、クラファンの知見をもつパートナーと協業し、クラファンサイトに掲載するページ制作をお手伝いするようになったわけです。これは、私たちが事業者さんの商品開発に、数か月にわたって併走し、舞台裏の苦労を客観視しているからこそできることです。

そういうわけで、この2年ほどの間に、私の中でもクラファン支援事例は20~30件分ほど溜まっていました。どれも目標額達成を果たし、中には4,000万円を超える応援購入を実現したプロジェクトもあります。

しかし当の自社ブランドでは、新商品をしばらく出していないこともあって、クラウドファンディングには未着手だったのです。

そこで私は、2014年にリリースしたきり、再販に踏み切れていなかったryotenを、もう一度世に出すことにしました。

和傘のエコを継承した第三の傘、ryotenとは

初代ryotenは、2014年の発売時、大きな好評を得て初期ロット数百本がすぐに完売しました。そもそもryotenは、年間約6500万本ものビニール傘が毎年使い捨てられている現状に対するアンチテーゼから生まれたものです。

骨組みには和傘と同様、木と竹を使い、和紙の代わりに不織布を貼っています。「重い」「取り回しづらい」という和傘の難点を克服した、現代感覚の機能商品でありながら、環境負荷が少なく、修理して長く使うことができ、廃棄する際にも分別できる点が売りでした。

そしてこの商品は、私たちにとっては、今まで接点を持てていなかった新規潜在顧客層とつながれる格好のツールでもありました。

自社での宣伝が不十分だった割に、順調なスタートダッシュを切れた理由

53日間のクラファン実施期間を終えて、反応を分析したところ、以下のような内容でした。
◆男女比:男性47%・女性52%
◆年齢:男性で最も多かったのは40代(16.91%)、
    次いで多かったのは50代(12.43%)
    女性で最も多かったのは50代(17.41%)、
    次いで多かったのは40代(15.92%)
◆流入元:最も多かったのは​​Makuakeページから(32.68%)

多忙さに紛れて、SNSやメルマガでの告知はそれぞれ1度きりしか行えていないなど、宣伝が不十分だった割には、出足は順調で、50万円の目標金額を初日で達成できました。やはり、商品や発信ストーリーに魅力があったからこそ、見てくださる方々のツボにヒットしたのでしょう。

ご購入くださった方のコメントは、「和装にも洋装にも合わせたい」「プレゼントにしたい」「家族と一緒に使いたい」「傘の廃棄量に驚いた」「これならオシャレだから自慢できそう」などなど。刺さったポイントが人によって少しずつ違っている様子が伺えたのも、興味深いことでした。

応援購入型クラウドファンディングの場合、日吉屋のように「歴史」「伝統の技」「文化」といった背景(ストーリー)があることは大きなメリットです。しかしクラファンも過当競争になっている今、それだけで良い結果が出せるほど甘くもありません。クラファンサイトを訪れるユーザーの動機は、「まだ世の中に出回っていない個性的なものに出会いたい」です。「伝統」に新たなクリエイティビティを加味し、現代社会が求める「時代性」「社会性」「新規性」を表現していかなくては勝ち残れません。
ryotenの場合、それがサスティナビリティであり、晴雨兼用の機能性や、和洋折衷のデザイン性でした。

クラウドファンディングを、ファンコミュニティ作りのきっかけに

これまで長きにわたって、伝統工芸の作り手の多くは問屋の支配下にあり、自社でエンドユーザーとつながることが不可能だったケースが多いと思います。しかし旧来の伝統工芸品の枠を離れた新ジャンル、いわゆる「デザイン工芸」なら、販路開拓はもっと自由。自社ECやクラウドファンディングでD2Cに乗り出すべきです。

もちろん、そのためには、しっかりとした顧客価値を創出したうえで、自社製品の強みを言語化し、ユーザーに刺さるメッセージにして届けることが必須。つまり我々は否応なしに「ブランディング」と直面しなければなりません。

そのプロセスさえしっかり行えば、クラウドファンディングは一つのジャンピングボードです。自社製品のテストマーケティングをしながら、公的支援よりもスピード感を持って資金調達ができ、これからのブランドを支えてくれる顧客と出会うチャンスがそこにあります。

私たちも、今回のチャレンジで得た新たな顧客とのつながりを生かしながら、コンテンツ発信を強化し、ファンコミュニティ醸成に取り組んでいくつもりです。試行錯誤を繰り返す中での気づきも、またこのnoteでシェアしていきますので、どうぞお楽しみに。

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