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それは偶然なんかじゃなくて Vol.6

 自室のベッドの上、オレの方が先に目を覚ました。

 ラナンキュラスが窓際で笑っているように思えた。そうだ、笑っていよう。笑っていれば大丈夫。そう、大丈夫なんだ。

 まつ毛の長いナオさんの頭に触れて、名前を呼んだ。

「ナオ…」

 返事はない。もう一度。

「ナオ…」

 うっすら目を開けた状態でナオさんの手が宙を触る。

「サカキさん…」

 ナオさんのその言葉に、全身の血が凍った気がした。名前を聞くのは初めて。でも、確かにナオさんは言った。榊さん、と。謎の男、榊。きっとナオさんの好きな男、榊。クソッ、苦虫を噛み潰す。

 ナオさんの手がオレの背中から、徐々に上にのぼっていく。オレの襟足に手が触れたところで、ナオさんの手がビクリと震えた。ナオさんが何を思ったか分かってしまった。榊さんじゃ、ない。

 諦めてにへらと笑った。

「ナオったら、ゆうべは飲み過ぎたんじゃないの?」

 ナオ、と呼び捨てにしたのはわざとだ。咎める言葉だった。自分に本心を見せてくれないナオさんを咎める言葉。

 ナオさんはオレの胸元に顔を埋めた。そっか、今は顔を見られたくないんだね。どうしようもなく悲しくなる。しばらくするとナオさんの手がオレの後頭部に触れ、頭頂部に近づいた。頭を引き寄せられてキスをされた。

 こんな悲しいキス、もうたくさんだ。

「そんなキスされたらオレ、また欲しくなってきちゃった…」

 その気持ちを忘れたかった。ナオさんに覆いかぶさり、全部分かっているんだよ、とばかりに視線で射抜いた。

「ねえ、いい?」

 自分の腕の中にいる間は、その間だけはこの女(ひと)はオレのものだ。

*****

 ナオさんがシャワーを浴びに行くと、ナオさんのスマホが震えた。誰からだろう? いや、もう誰だろうと全部その主は榊にしか見えない。オレの女の心を奪ってしまう男。

 やはりシャワーから戻ったナオさんはスマホに触れ、おかしな言動をとった。そうなんだね。やっぱりオレじゃダメなんだ。

「好きだよ、ジュンヤ」

 その言葉がひどく乾いて軽いものに思えた。冷えていく心を守るため、オレは硬い笑みを貼り付けた。

「オレもだよ、ナオさん」

 ナオさんとキスをする。ナオさんとはキスが一番好きだ。初めてナオさんとキスをした時、瞬時にこの人とは相性がいいと分かった。

 事実、その通りだった。そう思っているのはナオさんも同じようで、こうして何度求めても応えてくれる。なのに、榊なんだね。その男なんだね。

 嫉妬すればするほど、キスは深く、荒くなった。

「どうしたのジュンヤ、おかしいよ?」

 あまりにオレが乱暴なので、耐えかねたようにナオさんが言った。その目をキツくにらんだ。

「ねえ、榊って誰?」

おはようございます、こんにちは、こんばんは。 あなたの逢坂です。 あなたのお気持ち、ありがたく頂戴いたします(#^.^#)