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逢坂 志紀
2018年9月2日 12:43
「鍵、持った?」 玄関先で靴を履く大きな背中に向かって問う。振り向いたあごと鼻の描く稜線が、やっぱり今でも愛おしい。「うん、持ったよ」 無理に顔をすぼめて、彼は笑って見せた。私の言葉を待って、でも返ってこない言葉に、彼は静かに落胆の息を吐いた。「サトミも元気でね」「うん、リョウ君も」 もう、呼び捨てでは呼べない、呼ばない。それを受けてまた、彼は傷付いた顔をする。なんともいた