見出し画像

1118 構造的チャーンレート

最近、何名かの経営者・事業責任者と「解約されやすい領域と、されにくい領域がありますよね」という話になりました。

提供サービスの価値の大きさ、顧客満足度、カスタマーサクセス具合が解約率(チャーンレート)を左右するのはもちろんですが、それとは別の文脈で、解約が発生するケースがあります。

①SMBか中堅・大手企業という構造

米国のベンチャーキャピタリストTomasz Tunguz氏によると、SMBの月次解約率は3~7%、中堅・大手企業の月次解約率は0.5~1%であり、中堅・大手企業との取引は入り込むのが大変なものの、一度取引が始まれば長続きする傾向があるといいます。

たしかに、中堅・大手企業は、

・サービス導入/利用に関わる人数が多いため、一度、業務フローが組まれると、別サービスに乗り換えるコストが高くなる
・導入した製品/サービスを運用に乗せるリソースがある
・ツールベンダーが別途費用で提案する「運用サポート」「運用コンサルティング」を発注する予算があるため、結果として、運用に乗りやすい

などの理由で、サービスの継続率がSMBより高いのかもしれません。

②業界という構造

スクリーンショット (21)

引用:http://www.tdb.co.jp/trivia/index.html

他には、『業界や領域によって、取引期間の長さは変わる』でも紹介しましたが、帝国データバンクが出している調査では、業界によって、企業間取引の平均継続期間が全然違う、というデータが出されています。

例えば、

・電気・ガス・水道・熱供給業…頻繁に契約先の変更を検討しづらいため、取引期間が長くなる傾向
・官公庁…都度の入札で決めるため公務は取引期間が短くなる傾向

があるようです。

③競争環境という構造

帝国データバンクの業界ごとの違いだけでなく、同じ業界でも、競争環境が激しいエリアとそうでないエリアがあります。私が10年以上いるマーケティング業界では、特に広告領域はサービスの解約が起きやすい領域だと感じます。

マイケル・ポーターの5Forceで広告業界を整理すると、、

新規参入の脅威:次々と新しいツールやプラットフォームが出てくる
買い手の競争力:内製化もできるし、どの代理店でも出稿/運用できる
売り手の競争力:特定のメディアを独占してる等でないと交渉力は弱い
代替品の脅威:オフライン施策、コンテンツ、メールマーケなど予算配分先は様々
業界内の競争:広告代理店は総合からWeb専業まで様々。営業活動も活発

といった感じで、競争環境は激しめです。

当社のお客さんでも、特にネット広告運用の領域は、常にいろいろな会社からテレアポがかかってきて、頻繁に営業を受けている印象があります。

また、月間数千万円~数億円の予算を扱う超大手企業のネット広告運用領域では、総合代理店からサイバーエージェント、オプト、セプテーニなどのネット系代理店などが、日々各社に営業をかけ、しのぎを削っている、という話を聞きます。

逆に、5Force的な競争環境が激しくないエリアとしては、例えば、Webサイトを作成・運用する際に使うCMS(Content Management System)は、Webサイトのリニューアルは数年に1回で、途中で他社サービスに乗せ換える難易度が高いので、途中解約はほとんどなく、継続期間は最低でも3~4年となります。※前職でCMSを提供していた実体験ベース

また、数千、数万ページあるような大規模サイトの運用受託は、途中で業者を変えるコストが高いですし、大規模サイトの運用受託をこなせるプレーヤーも少ないため、継続期間は5年~10年と長くなります。実際に、前職では大手企業の製品サイトの運用受託をやっていましたが、継続期間が10年以上ある取引が複数存在していました。

マーケティング業界以外の話としては、当社では会計システムを使っていますが、一度導入した会計システムは、しばらく使い続けるだろうなと思います。これまたマイケル・ポーターの5Forceで整理すると、、

新規参入の脅威:最近はクラウド会計の文脈で、freeeやMFクラウドが出てきたが、新規参入者といえば、それぐらい
買い手の競争力:会計システムを使わない内製化は現実的でなく、使わざるを得ない
売り手の競争力:こちら(買い手)としては、使わせてください!、という感じ
代替品の脅威:代替品は特になし
業界内の競争:ざっと調べた限り10~20社。クラウド会計の領域だと、10社未満かも。※広告代理店と比べたら、驚くほど少ない

という感じで、上場を検討して、内部統制的に他の会計システムにする必要が出てきた、とかでなければ乗り換えを検討することはなさそうで、チャーンしにくいな、と感じます。

上記のような市場構造のため、最初にマーケットを取った1、2社がその後も繁栄する可能性が高く、MFクラウド(上場前の累積資金調達額 42億円)やfreee(累積資金調達額 161億円)は巨額の資金調達をして、「クラウド会計ソフト」のマーケットを取りに行ってましたね、

一方、会計業界内でも、請求書作成システムの領域は、比較的、別のシステムに乗せ換える頻度が高そうです。実際、弊社でも現行サービスには満足しているものの、とある理由で別サービスへの乗り換えを検討しています

まとめ

提供サービスの価値の大きさ、顧客満足度、カスタマーサクセス具合が解約率(チャーンレート)を左右するのはもちろんですが、

・業務フローに組み込まれた時の乗り換えコストの高さ
・業界ごとの商習慣
・競合製品、新規参入、代替品の多さなどの業界内の競争環境

なども、チャーンに影響を及ぼすので、事業戦略を考える時は視野を広く持っていきたいな、という話でした。

▼コンサルタント採用中のお知らせ
BtoB営業・マーケティングのオンライン化・デジタル化を支援している才流(サイル)では、絶賛コンサルタントを募集中です。ぜひ奮ってご応募ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?