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きみのコーヒーは、当たり前の特別さに気づかせてくれる。

  「今日も寒いね。」

  冬がやってくる。誰もいなかった時の僕の部屋は帰ってきても息が白かった。凍える手で鍵穴を探すのも、冷えた床の上を歩くのも、暖房で部屋が温まるまで我慢することも、きっともう無い。

  裸電球を3つ垂らした部屋に置いてある2人掛けのソファも少しくたびれてきた。形が歪になってきたクッションを見て、一緒に過ごしてきた2年という月日が急に愛おしくなる。

  いつもの様にご飯を食べ終わって、ソファに置いてあるブランケットに包まる。きみのお気に入りのインテリアショップで2人で選んだ僕らのお気に入り。

  2年も使っているともう色も褪せてきている。だけど、少しくたびれたソファと一緒に置いていないと、僕らはどこかそわそわしてしまうのだ。

  キッチンから聞こえてくるお湯が沸く音。これも2年聞いていると思うと感慨深くなる。この音はいつの間にか消えて、ドリップされるコーヒーの香りに変わるのだ。それももう2年続いているから分かっている。

  分かっていても、いつもその香ばしい香りに心は奪われる。

  そんな何気ない食後の時間が当たり前じゃないと気づかせてくれるのがきみのコーヒーなんだ。今までの僕は、大切な事を失った時にはじめて、その大きさに気づいていた。
  だけど、きみが淹れるそのコーヒーは、幸せは実はもう手にしているのだと、気づかせてくれる。

  「やっぱりこの時間がいいよね。」

  そうつぶやくきみは、いつものようにブランケットに潜り込んでくる。そんなきみの暖かさに

  「やっぱりこの時間がいいよね。」

  って答えてみる。

  「ふふふ」って笑うそのきみの表情は、淹れたてのそのコーヒーよりも甘くて、ほろ苦い。そんな時間に2人で見る悲しいストーリーの映画は、甘くて、酸っぱかったあの時の僕らを思い出させる。

  あれから2年。

  2人の関係は少しずつ変わってきているけれど、きみが淹れるコーヒーの味は少しも変わらない。

  いつだって僕らを暖めてくれるそのコーヒーをこれからもずっと飲みたいと、そう伝えたら、きみはなんて言うのかな。

こーた

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