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【考察】旅とキャリア理論の相似

先日、ラジオ番組にゲスト出演しました。旅のオススメスポットや楽しみ方について話す番組です。私は学生時代に一年間、世界一周放浪の旅をしていたので、その体験談などを話しました。10年以上前のバックパッカーの自分を、現在の人材・組織の研究者の自分が詳しく振り返ることで、改めて気づくことがありました。それは「旅とキャリア理論には、通じることがたくさんある」ということです。この気づきをより考察したくて、noteにまとめてみました。

ラジオ

またこの記事の構成は、経験学習サイクル・モデルをベースに書いてみようと思います。成人の能力開発の70%以上は経験によって形成されると言われており、経験から教訓を抽出することで、今後の行動に活かすことができるからです。経験学習サイクル・モデルは1984年にデイビット・コルブが提唱した「内省を通じて経験から教訓を作り出すプロセス」です。そのプロセスとは、①具体的経験(経験する)→②内省的観察(振返って気づきを得る)→③抽象的概念化(気づきから教訓を抽出する)→④能動的実験(教訓を別の状況で試す)→再度①具体的経験→…と循環していくプロセスです。

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詳細に入る前に、まずこの記事で言いたいことをまとめてみると、このような感じです。

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具体的経験 : 私の旅のエピソード


まずは私の旅のエピソード(具体的経験)について書きます。私は20歳の頃、2008年4月~2009年3月の1年間、バックパック1つで世界36か国を放浪していました。こちらが私の旅のルートマップです。

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■エピソード① 旅のきっかけと、その後のつながり
旅に出たきっかけは、出発からさかのぼること1年ほど前、同じ大学の親友と夕飯を食べていたときのことです。親友が私に「1年休学して、世界一周しようと思う」と打ち明けました。彼は本屋で世界一周の本を見かけてから、この考えを温めていたのでした。私は驚いたのと同時に、一つのアイデアが浮かびました「だったら、二人で同時に逆方向で出発して、半年後に地球の裏側で会おうよ!」と。私たちはそのアイデアに興奮すぎて、私は気づけば鼻血を出していました。人は興奮すると鼻血を出すというのは、マンガの世界だけではないのだと知りました。旅立つことを決心した私は、それから必死にアルバイトをして旅行資金を貯めました。
結局、親友は旅の準備が間に合わず、私は一人で出発することになりました。親友は私の帰国後に出発することができ、当初の「反対回り形式」から「リレー形式」に切り替えたのでした。そして親友の帰国後、私たちは地球2周分の展示会「旅つなぐ展」を開きました。そこにたまたま来た「来月から世界一周する」という女の子にバトン(私と親友がリレーでつない旅のお守り)を渡し、さらに、その子の帰国パーティーで、その場のノリで「僕も世界一周します!」と宣言した私の後輩にバトンが渡り…と、「反対回り形式=2人で完結」では実現できなかったご縁がつながっていきました。

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■エピソード② ネパールの瞑想修行で、「諸行無常」を悟る
インドのブッダガヤは、仏陀が悟りを開いた仏教発祥の地です。2008年6月、私はブッダガヤのお寺に毎日通い、お坊さんから仏教について学んでいました(日本は仏教文化が色濃いのに、何も知らないのはもったいないと思ったからです)。お坊さんから様々な話を聴いて、頭では理解したつもりになっていました。ただ、まだ実感としてしっくりきませんでした。そんな私にお坊さんは「ネパールで瞑想修行を体験してみては?」と提案してくれました。それはヴィパッサナー瞑想というプログラムで、世界中、日本でも実施されているものでした。私は「ちょっと怪しいなぁ…」と思いつつも、未知の世界にワクワクしたので、参加してみることにしました。早速ネパールの首都カトマンズに赴き、プログラムに参加しました。

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瞑想修行は10日間、1日10時間瞑想します。毎朝4時に起きて、瞑想し、夜9時に就寝。その間、外出や読書、音楽を聴くこと、日記を書くことや人と話すことなどは、一切禁止です。瞑想では、ひたすら自分の身体の感覚に意識を傾け、起きては消える様々な感覚を観察します(感覚に反応してはいけません)。その結果学んだことは「諸行無常」でした。これは私の解釈も入っていますが、人間は世界を感覚(五感)を通して認識します。そして感覚は必ず「いつかは消える」ということを瞑想で体感しました。つまり、人間にとって(感覚を通して認識される)世界は「いつかは消える」もの、ということになります。自分の周りで日々様々なことが起き、時にストレスの原因になることもありますが、「すべては無常、ずっと続くわけではない」ということを体感的に知っていることで、あまり物事に固執することがなくなりました。


■エピソード③ フランスのリンゴ農家で、お金について学ぶ
2008年秋、リーマンショックが勃発したことで、為替が円高に動きました。当時パリで貧乏生活をしていた私にとって、それは朗報でした。1ユーロが180円台から168円まで下がったところで、満を持して600ユーロ(約10万円)の現金を換金して引出しました。残り数か月のヨーロッパ旅行はこのお金で乗り切ろうと考えていたその夜、私の600ユーロはユースホステルで同室だったドイツ人に盗まれ、彼とともに消えたのでした…。翌朝、それに気づいた私は驚き、憤慨し、情けない思いと不安でいっぱいになりました。人間不信にもなりました。これからどうやって生きていこう…と茫然としていた時、以前旅仲間に教えてもらったWWOOFのことを思い出しました。オーガニック農場の国際ネットワークで、農場で働きたい人がサイト上で農場にコンタクトを取り、働く対価として農場から宿と食料を得られる、という仕組みです。もうパリでは暮らせないと考えた私は、早速WWOOFのサイトで農場にコンタクトを取り、数日後から、フランス北部・ノルマンディーにあるリンゴ農家で住み込みで働くことになりました。

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そのリンゴ農場と農場併設のレストランを経営するフィリップさんは、若いころ世界を旅するバックパッカーでした。旅の中で「お金との付き合い方」について悩み考え抜いたフィリップさんが出した答えが、できるだけお金に頼らず運営するこの農園とレストランでした。働き手はWWOOFで募集。農場で採れた食材でもてなすレストランの集客は、広告に頼らず、レストラン建設を手伝ってくれた友人たちによる口コミのみ。ここには便利なものは少ないですが、その代わりにとても豊かな風景、食べ物、時間、人間関係がありました。フィリップさんは「お金は便利なものだけど、頼りすぎると本当に大切なものを見失う」と、私に教えてくれました。パリでお金を盗まれて心にダメージを負っていた私にとって、ここでの学びは身に染みて、その後の私のお金との付き合い方に、大きく影響を与えました。


■エピソード④ コスタリカのブリブリ村で、死にかける
コスタリカの奥地、パナマ国境付近にブリブリ族が住むブリブリ村という、クレヨンしんちゃんのような名前の村があります。首都からバスを乗り継いで山間を進み、行き止まった橋のない川を3つほど渡った先に、その村はあります。電気も水道も舗装路も商店もないド田舎の村で、私はブリブリ村に来た初めてのアジア人だそうです(村長談)。この村に来たきっかけは、グァテマラのバスで偶然席が隣り合い仲良くなったコスタリカ人・ヘラルドとの出会いでした。当時私は、フランスでの経験もありオーガニック農業に関心がありました。そんな話を聴いたヘラルドは「ウチもオーガニックだよ!良かったら遊びに来なよ」と誘ってくれました。コスタリカは当初の旅程にはありませんでしたが、私は「これも何かの縁」と捉え、後日ヘラルドの住むブリブリ村を訪れたのでした。
私はブリブリ村で、サーベルを腰に携え、バナナの収穫の仕事をしながら1か月間暮らしていました。写真が私の住んでいた家です。

▼ブリブリ族に関する記事▼

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ある朝、ヘラルドが私を起こし、カメラのフイルムケースに入れられた大きなカメムシのような虫を見せてこう言いました。
へ:これは「シャーガス」という虫だ。
私:へー(まだ眠い)
へ:この虫に咬まれたら、5年以内に必ず死ぬ。今の医療では検査も治療もできず、中南米では毎年多くの人が亡くなっている。 ※日本でも過去ニュースになりました。
私:…!ほ、ほう…5年以内に、必ず死ぬ…(眠気が吹き飛ぶ)
へ:こいつは夜行性で、夜に人を咬んで朝眠る。だからさっき捕まえられたんだ。
私:ほ、ほう…ちなみにそれは…どこで…見つけたのかな…?
へ:お前のベットの下だよ
私:(言葉を失う)
へ:Pura Vida! ※ヘラルドの口癖で、「Enjoy!」みたいな意味。
その一件以降、私の頭の片隅にはいつも「明日死んでもおかしくない。悔いのないよう、毎日楽しく生きよう」という考えがあります。あれから10年、あの虫は結果的に、私に死ではなく、楽しい毎日をくれたのでした。



内省的観察 : 何がどう似ているのか?

すっかり旅の日記のようにになってしまいましたが、ここからは(バックパッカーのような放浪するタイプの)旅のどんなところが、どんなキャリア理論に似ているかについて、経験を振返りながら気づきを深めていきます。

■プランド・ハップンスタンス
プランド・ハップンスタンス(計画的偶発性)とは、1999年にJ.D.クランボルツが提唱した「自身のキャリアに起こることの不確実性と変動可能性を許容し、偶発的に発生したことを主体的かつ柔軟に活用しながら、キャリア形成につなげる姿勢」のことです。プランド・ハップンスタンスに必要な行動指針として、①好奇心、②持続性、③楽観性、④柔軟性、⑤冒険心が挙げられています。
これを旅に置き換えると「旅路に起こることの不確実性と変動制を許容し、偶発的に発生したことを主体的かつ柔軟に活用しながら、旅の充実につなげる姿勢」と言えます。旅先ではいつも予想していなかった出来事に遭遇しますが、①好奇心・②楽観性・④柔軟性・⑤冒険心を発揮して飛び込んでみることで、偶然の出来事が忘れられない思い出になりました。紹介したエピソードは全て、偶然の出来事(親友のアイデア、お坊さんからの提案、パリでの盗難事件、バスでの相席など)に、ワクワクする気持ち一つで飛び込むことから始まりました。プランド・ハップンスタンスについては、こちらの書籍で詳しく紹介されています。


■ジョブ・クラフティング
ジョブ・クラフティングとは、2001年にエイミー・レズネスキーが提唱した「仕事のやりがいを高めるために、(上からの指示ではなく)自分自身で仕事のあり様を変えていく姿勢」のことです。仕事(ジョブ)を自分で工作(クラフト)しながら変えていく、という意味です。ジョブ・クラフターが仕事に加える変更には、①タスク境界の変更(自分の行動を変えること)、②認知的タスク境界の変更(仕事の意味付けを変えること)、③関係的境界の変更(関わる人を変えること)の3種類があります。
これを旅に置き換えると、「旅の充実度を高めるために、自分自身で旅のあり様を変えていく姿勢」と言えます。旅のあり様を変える具体的方法は、①旅での行動を変える、②旅の意味付けを変える(旅のテーマをもつ等)、③旅で出会った人たちと関わるなど。紹介したエピソードでも、旅の意味付け(地球2周リレー、仏教を学ぶ、お金について学ぶ、死ぬことに直面する)や様々な人との出会いによって、旅のあり様を自分自身で変えていくことで、旅を充実したものにしてきました。ジョブ・クラフティングについては、こちらの記事が分かりやすくまとまっています。

■プロディアン・キャリア
プロティアンキャリアは、2004年にダグラス・ホールが提唱した「他者から与えられる評価や地位の向上を目指すのではなく、個人の価値観に基づく心理的成功を目指して、環境変化に適用して自身でキャリアを変化させていく姿勢」のことです。ちなみに「プロティアン」とは、ギリシャ神話に登場し、変幻自在に自身の形を変化させる神「プロテウス」から来ています。プロティアン・キャリアを実践する上で重要とされるコンピテンシーには、①アイデンティティ(自身の価値観や興味への自覚、過去から未来を通じて一貫した自分のイメージ)と②アダプタビリティ(外的な変化に対して、自己のアイデンティティを探索したり、行動したり、環境に働きかける能力や意思)があります。
これを旅に置き換えると、「他者からの評価ではなく、個人の価値観に基づく旅の心理的成功を目指して、旅先の環境変化に適応して自身の旅を変化させていく姿勢」と言えます。旅では日々環境が変化する中で大小さまざまな選択に迫られますが、選択の拠り所になるのは常に自分自身の価値観(私の場合は「ワクワクするか否か」)でした。紹介したエピソードでも、①常に自分の興味やワクワクする気持ちを自覚しながら、②それに基づいて旅先の環境(瞑想、農家、ブリブリ村)に飛び込んだり働きかけていくことで、旅は自分にとって充実したものになりました。そこに他人からの評価は関係ありません。プロティアン・キャリアについては、こちらの書籍で詳しく紹介されています。

■バウンダリーレス・キャリア
バウンダリーレス・キャリアとは、1994年にマイケル・アーサーにより提唱された「1つの企業や職務といった境界(バウンダリー)を超えて、異なる企業や業種の境界を横断しながら、新たなスキルや経験、ノウハウを獲得し、自律的に成長してキャリアを構築する姿勢」のことです。バウンダリーレス・キャリアを実践する上で重要とされるコンピテンシーには、①knowing-why(個人の動機とアイデンティティであり、移動を進める原動力となる)、②knowing-how(職務上の業績を達成するために必要な暗黙知まで含む)、③knowing-whom(人間関係であり、同僚、プロフェッショナル組織、友人までの関係性を含み、様々な機会と情報を得る源泉である)があります。
これを旅に置き換えると、「異なる国や地域の境界を横断しながら、新たな知識やノウハウを獲得し、自律的に成長して旅を歩む姿勢」と言えます。バックパッカーの旅はまさに、自分の知恵とノウハウを活用しながら、様々な国や地域を自分の意志で渡り歩くものでした。そのために①自分の旅する動機を知り、②旅に必要なスキルや情報を得て(例えばWWOOFのような旅に役立つ情報)、③様々な機会を与えくれる人達との出会い(親友、お坊さん、フィリップさん、ヘラルドなど)が不可欠でした。バウンダリーレス・キャリアについては、こちらの論文で詳しく考察されています。

https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/25167/1/ES57%281%2963-84.pdf


抽象的概念化 : なぜ似ているのか?

以上で挙げたキャリア理論は、いずれも旅に例えることができ、旅に通じる所があります。研究者としては「なぜ、これらのキャリア理論と旅が似ているのか?」という点に関心が沸くため、これらの気づきをさらに抽象化して考察したいと思います。これらのキャリア理論に共通することは、いずれも提唱されたのが2000年前後と比較的新しいキャリア理論だという点です。つまり、現代のキャリア理論は、旅に似ている形に変化しつつある、ということです。なぜこのような変化が起きているのかというと、①前提とする社会の不確実性・人材流動性の高まり、②組織主体のキャリアから個人主体のキャリアへの転換、③外的キャリアから内的キャリアへの転換、というキャリア研究を取り巻く流れがあるからだと考えます。

社会の不確実性が高まり、企業の平均寿命が短くなる。同時に人材の流動性も高くなり、個人は複数の組織を渡り歩きながらキャリアを形成していく。そういった社会的経済的背景のなかで、キャリア理論も近年変化してきました。例えばプランド・ハップンスタンスは社会の不確実性を取り入れたキャリア理論の代表例であり、バウンダリーレス・キャリアは個人が複数の組織を境界なく渡り歩くキャリアの代表例です。

キャリア理論における流れの1つは、「組織内キャリア」から「個人主体のキャリア」への考え方の変化です。組織内キャリアとは、安定した1つの組織の中で社員がステップアップしていくキャリアで、主に組織側の視点から社員のキャリアパスの設計が検討されます。一方の個人主体のキャリアとは、個人の所属する組織が変化することを前提として、主に個人の視点で充実したキャリアの構築を目指すものです。例えばジョブ・クラフティングは組織主導ではなく、個人主導で仕事のあり様を変えていく姿勢でした。

もう一つの流れは、「外的キャリア」から「内的キャリア」への転換です。「外的キャリア」とは、収入や評価や社会的地位など客観的に比較可能な価値基準に基づくキャリア形成のことで、一方の「内的キャリア」は自身の価値観の体現や心理的な充実度など、主観的で比較が不可能な価値基準に基づくキャリア形成のことです。先の組織内キャリアから個人主体のキャリアへの変化と併せて、キャリアの価値基準も個人の価値観など内面的なものに変化してきています。例えばプロティアンキャリアは、個人の価値観に基づく心理的成功を目指すキャリア理論の代表例です。

これらのキャリア研究を取り巻く流れ①前提とする社会の不確実性・人材流動性の高まり、②組織主体のキャリアから個人主体のキャリアへの転換、③外的キャリアから内的キャリアへの転換は、いずれも放浪の旅がもともと持っている特徴とも言えます。旅人は世界中を移動しながら(流動性)、日々様々な環境変化に意図せず出会います(不確実性)。一つのコミュニティに留まり続けず個人で活動し(組織ではなく個人主体)、誰かから評価されるためではなく、自分の価値観の体現や心理的充実のために旅を続けます(外的ではなく内的)。



能動的実験 : 地図を捨て、コンパスを持とう

抽象的概念化のプロセスで得られた教訓を簡単に言えば、「現代のキャリアが、旅のようになってきた」ということです。そうであれば「旅の技術をキャリア開発に活かせるようになってきた」ともいえるのではないでしょうか。

私が一番大切にしてきた旅の技術は、「地図よりもコンパスを信じる」ことでした。ここで言う「地図」とは、旅する国や地域の地図ですが、加えてガイドブック等の情報や口コミ、それらを踏まえた旅行プランなども含みます。一方で「コンパス」とは、旅路で道に迷った時に使う方位磁針であり、加えて「やるか?やらないか?」「Aにするか?Bにするか?」などの選択に迫られた時に拠り所にできる自分の価値基準という意味も含みます(どんな状況でも自分が進みたい方向性を示してくれるもの、という意味でコンパスです)。改めて「地図よりもコンパスを信じる」とは、予め用意した情報やプランよりも、その場その場で自分の価値基準がどちらを向いているか?を信じて進む道を決める、という意味です。エピソードで紹介した事象はどれも事前の計画にはなかったもので、私は常に「どっちがワクワクするか?」という私なりのコンパスを使って選択してきた結果、旅は私にとって充実したものになりました。

「地図よりもコンパスを信じる」という旅の技術は、現代のキャリア開発においても有効だと思います。ここで言う「地図」とはキャリアプランであり、「コンパス」とはキャリアにおいて重視する価値基準です。社会の不確実性や変動性が高まるにつれて、5年後10年後の具体的なキャリアプランは描きにくく、かつ実現しにくくなっています。キャリアの順路を描いても、進むうちに地形や道のり、時には目的地までが変わってしまうのです。そんな時に役に立つのは、どんな状況においても「自分はキャリアでこういう状態を実現したい。だから今ここではこっちの道を選ぶ」と拠り所にできる価値基準(コンパス)です。ご紹介したキャリア理論で言えば、プロティアン・キャリアの「アイデンティティ」、バウンダリーレス・キャリアの「knowing-why」、ジョブ・クラフティングの「仕事の意味づけ」などがコンパスに関わる部分です。

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では、どうすればキャリアにおけるコンパスを持つことができるのでしょうか?そこでヒントになるのが、越境学習です。越境学習とは「普段いる場と、そうではない場との間を行ったり来たりする経験から学ぶこと」です。越境学習から学べることには主に、①知識に関する学び(越境した活動で得た知識・スキル・情報等)と、②自分自身に関する学び(越境した先での気づきをもとに、自分自身の理解が深まること)があります。特に②自分自身に関する学びが、コンパスを作ることにつながると考えられます。越境学習については、こちらの書籍で詳しく紹介されています。

越境学習が旅の中でどのように進むかというと、日々様々に異なる人々や習慣や文化、価値観や考え方に出会う中で、それらと自分との違いを認識した結果、自分自身の価値観や考え方についての理解が進みます。同じことをキャリアでも起こそうとすれば、日々様々な職場環境を体験することが必要になりが、職場は旅行のように頻繁に居場所を変えることが現実的ではありません。しかし、実はそれを可能にしてくれるサービスもあります。仕事旅行(まさにキャリアと旅の類似性に着目したサービス)は、数多くのユニークな職業を、旅するように体験でき、体験での学びからキャリアの自分軸(=コンパス)を見出そうとするものです。

この仕事旅行の社長・田中翼さんの著書のタイトルは「働くコンパスを手に入れる」であり、まさに仕事を旅するように経験しながらキャリアのコンパスを作っていくことを物語っています。

実は私も、仕事旅行でホスト(職業体験を提供する人)を勤めており、この書籍でも私の働き方についてインタビューをしていただきました。



最後に:これからキャリアはどこに向かうのか?

ここまで長文をお読みいただき、ありがとうございました。最後に振返りとして、この記事の要点を再掲します。

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この記事は「現代のキャリアが、旅のようになってきた」ということについて考えをまとめたものでした。最後にここまでの議論を踏まえて、これからのキャリアがどうなっていくのか?私の私見(というか願い)を書いておきたいと思います。
今後も社会の不確実性が増していくとすると、ますますキャリアは旅的になっていきます。私は最終的には、キャリアも旅と同じ様にワクワクするため・楽しむためにあるもの、となってほしいと思います。楽観的かもしれませんが、情報技術等の発達とシェアリングエコノミー等社会の仕組みの成熟によって、将来は「限界費用ゼロ社会(生活コストが限りなくゼロに近い社会)」が到来するとも言われています。そうなると、いわゆる「ライスワーク(生活していくために必要に駆られて働くこと)」は無くなり、多くの人が「ライフワーク(自分の人生を充実させるために働くこと)」を求めだす時代がやってくると考えています。そんな時代には、キャリアは旅と同じくらいワクワクする、自由なものになっていてほしいなーと、妄想しつつ、この記事を終えたいと思います。


嬉しくて鼻血出ます \(^,,^)/