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【対話の要諦】問いについて問う

私は、International Association of Facilitatorsというファシリテーションの国際協会が認定するプロフェッショナル・ファシリテーター(日本には20名程)として、企業,NPO,大学,行政など様々な場で、組織改革,オープンイノベーション,業務改革,社会課題解決,キャリア開発などのテーマで対話を促しています。そのナレッジをnoteで共有していきます。今回テーマは、対話には欠かせない「問い」についての基礎的なお話。こんな方にオススメの内容です。

・ワークショップや対話セッションを進行する方
・職場での1on1などコミュニケーションを促進したい方
・インタビューなどで相手の考えをうまく引き出したい方



1. なぜ、問いが重要なのか?

まず初めに、なぜ対話において問いが重要なのかを抑えておきましょう。それは「問いは、現実を変え得る、かつファシリテーターとして介入し得る手段だから」です。

問いが現実を変えていく、その道のりを下図に表しました。良い問いは、創造的な対話を誘発します。創造的な対話は、参加者の新たな認識と関係性を生み出します。新たな認識と関係性は、新たな思考と行動を生み、それが新たな現実になっていきます。(上手くいけば…)

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この長い道のりは、右に進むほどファシリテーターとして介入が難しくなっていきます。ワークショップや対話セッションでファシリテーターが影響を与えられるのは、問い→対話→認識&関係性 くらいまでです。さらに言えば、対話は参加者の考えや気持ちに左右される"ナマモノ"なので、ファシリテーターがコントロールできる範囲といえば、「問い」に限られます。より良い現実をつくるために、ファシリテーターが介入できるところが「問い」だから、問いが重要なんです。


2. 問いとは、何なのか?

では「問い」とは一体何でしょうか?書籍「問いのデザイン」では、「問いの性質」を以下のようにまとめています。(ファシリテーションについて詳細かつ体系的にまとめられた、オススメな一冊です!)

<問いの性質> 書籍「問いのデザイン」より抜粋・略記
 ①問いによって答えは変わる。
 ②思考と感情を刺激する。
 ③個人の認識が内省される。
 ④集団のコミニケーションを誘発する。
 ⑤集団の関係性は再構築される。
 ⑥新たな別の問いを生み出す。

性質②~⑤は、上図「問いが現実を変えていく道のり」と符合する内容となっています。この中で最も基本的な性質である「①問いによって答えは変わる」についてこの後深掘りするために、私なりのイメージを下図に表しました。

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問いかける相手の頭の中には、様々な思考や感情が存在します。そこにある切り口で問いを立て、その角度から光を当てることで、相手の思考の一側面が照らし出されます(例えば、猛々しい牛のような考えが引出される)。また、別の切り口で問いかけると、別の側面が照らし出されます(例えば、華麗なバラのような感性が引出される)。問いが光を当てる角度を変えることで、相手から引き出される答えが変わる。だから、問いかける切り口を工夫することが大切なんです。


3-1. 活用方法:問いのバリエーションを知る

問いの重要性と基本性質を抑えた上で、問いの活用方法を紹介します。①問いのバリエーション、②問いの展開方法、③問いの言葉遣い という流れで説明します。

問いかける切り口の工夫が大切と説明しましたが、どんな切り口が存在するのでしょう?問いのバリエーションは無数にありますが、バリエーションの基本的な軸を下図にまとめました。また、各軸の例として「ランチ」を題材に質問例を付記しました。

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それぞれの軸で質問を変化させると、引出される答えも変わってきます。また、問われる側の答えやすさも変わることに注意が必要です。さらに、複数の軸を組合わせて問いをつくることもできます。例えば「過去x自分がxネガティブx抽象xオープン」という組合せで問いをつくると「これまであなたが経験した、気分の悪いランチには、どんな共通点がありますか?」となります。このように軸を参考にして、問いを様々な形に変化させることができます。


3-2. 活用方法:問いの展開を考える

問いのバリエーションを抑えた上で、次は「どんな問いを、どんな順番で提示するか?」つまり問いの展開を考えます。ワークショップや対話セッションでは多くの場合、複数の問いを組合わせることで対話の流れを作ります。ここでは問いの展開の流れとして、基本的な型の1つを下図に示します。

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答えやすさ:まずは対話に安心して参加してもらえるように、答えやすい問いから始める(アイスブレイクやチェックインなど)。

本質に迫る:対話の本題として、参加者の価値観や、重要な課題または解決策について問う。ここで学びがあり、新たな認識と関係性を生み出す。

より良い現実へ
:本質に迫った結果を踏まえて、より良い現実をつくっていくために、未来や行動につながる問いかけをする。

このような流れを意識しながら問いの内容を具体化していきます。その際、3-1.で紹介した問いの軸を活用すると問いを具体化しやすくなります。以下では軸の活用例を2つ紹介します。


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1つ目は、1on1をする状況の例です。問いの展開の流れを意識しながら、過去~未来、具体~抽象という2軸を活用し、上記4つの問いに具体化しました。①は答えやすい具体的経験を問い、②③で本質(気づきから得た教訓)に迫り、④でより良い現実につなげるための行動を問います。

ちなみにこれらの問いは「経験学習サイクル」という個人の成長を促す学習モデルに一致しています。関心のある方は、この記事を参照ください。


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2つ目は、組織開発の対話をする状況の例です。問いの展開の流れを意識しながら、ネガティブ~ポジティブ、自分が~みんなが という2軸を活用し、上記4つの問いに具体化しました。①で普段から気にしていることから口火を切り、②③で本質(チームの問題にいかに自分が関わり、いかに自分から変えていけるか?)に迫り、④でより良い現実につなげるチームのビジョンを問います。

このように2軸で考えると具体化しやすいですが、どの軸を活用すればよいのでしょうか?有効な軸は、対話の目的と状況によって変わってきます。以下のように考えながら様々な軸を試して、経験を積む中で有効な軸を見出せるようになります。

・どの軸で考えると、対話のゴールに近づけそうか?
・どの軸で考えると、思考の広がりや深まりが出そうか?

2軸を設定して4象限ができたら、どの順番で問いかけるか?を考えます。問いの流れの展開を念頭に置きながら以下のように検討していきます。

・どの象限が、答えやすいか?
・どの象限に、本質や学びがあるか?
・どの象限が、より良い現実につなげやすいか?
・どの象限からどの象限に行くと、思考が自然につながるか?

2軸4象限で問いを展開する考え方は、対話セッションを事前に設計する時も、対話中に相手の話を受けてさらに問いを繰り出す時も、活用できます。


3-3. 活用方法:問いの言葉遣いを整える

問いの展開に沿って内容を具体化できたら、最後に問いの言葉遣いを整えていきます。問いの言葉の細部が変わるだけで、答えやすさや、答えの内容が変わってきます。

例えば上記の「問いの展開例」の2つ目では、最初の問いの表現は「このチームの"おしい"所は?」としました。同じ組織のネガティブな側面についての問いでも、表現が違うとどうなるでしょうか?問いかけられた人の気持ちになって考えてみましょう

Case1.このチームの "気に入らない" 所は?と問いかけたら…
否定的な感情が強く伴うため、なかなか本音を言えない。もしくは本音が出ても、意見が対立して場が荒れて、対話しにくくなる。
Case2.このチームの "直すべき" 所は?と問いかけたら…
ネガティブな側面だけでなく、それを直すための改善案もセットで提示しなければいけない気がして、答えるハードルがちょっと上がる。
Case3.このチームの "おしい" 所は?と問いかけたら…
基本的にはポジティブに思っているという前提を共有した上で、「あえて言うならば…」と、心理的な安全を保ちながらネガティブなことを言える。

このように、言葉の細部が変わるだけで相手の受け止め方や思考が変わってきます。「もしこの言葉遣いで問われたら…」と対話の場を想像したり、実際に他の人に問いかけてみたりしながら、様々な言葉の候補を試して調整していきます。


4. 改めて、良い問いとは?

ここまで、対話における問いについて私なりの基本的な考えをお伝えしてきました。問いの世界は奥深く、分野によって様々な議論がありますが、より重要なことは、実践家として考えを深め、より良い問いかけができるようになることだと思います。

創造的な対話セッションを進行したい、1on1で部下の成長を支援したい、インタビューで相手の本質を引き出したい…。あなたの実践にとって、"良い問い"とは何でしょうか?少し考えてみて、より良い現実をつくるために、ぜひ一度試してみてください。

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嬉しくて鼻血出ます \(^,,^)/