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【仮説】日本の大企業で、平社員の僕が自由に動き回る方法

私はよく周りから「古くて大きな日本企業の中で、なんでそんなに自由に動き回れるの?」と訊かれることがあるので、私なりに普段考えていること・やっていることをnoteにまとめてみました。あくまで仮説なのでどこまで一般化できるかわかりませんが、人材・組織分野の研究者として、理論的な意味付けもしてみました。「やりたいことを組織の中で実現したい!」と思う方の参考に少しでもなれれば幸いです。尚、この内容は決して「大企業リソースを自分だけのために使い倒す方法」ではなく、「日本の大企業というフィールドで、自分の能力を最大限に活かしながら、組織や社会に貢献する方法」です。

まず最初に、この記事の全体像を1枚の図に整理してみました。


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どんな会社で、どう動き回っているのか

まずは私の状況について簡単にまとめます。
私は新卒から、とある日系素材メーカーに勤めています。創業100年以上、社員5万人以上のザ・日本の老舗大企業といった感じです。ただ日本の大企業の中では、社員のチャレンジを重んじるカルチャーがある方だと思います。この会社で私は、社内コンサルの仕事をしている平社員です。入社5年目のとき希望して現部署に異動し、現在はファシリテーターとして社内の組織開発やオープンイノベーションの支援をするのが主な業務です。ファシリテーターとしては「International Association of Facilitators」というファシリテーションの国際的団体からプロフェッショナルの認定を受けており、世界で約600名、日本には約20名のファシリテーターがいます。  

働き方は、この会社を含めて5つの仕事・活動を行うパラレルワーカーです。詳細は割愛しますが、こちらの記事にまとめていただいています。  

また、2017年から2年間、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科で社会人大学院生として学びながら働き、修了後も研究員として所属・研究をしています。  

現在は、愛媛と東京で2拠点生活&ワーケーションをしています。

これらの仕事(組織開発やオープンイノベーションのファシリテーター)や働き方(兼業、学び直し、2拠点生活)は、会社から与えられたものではありません。自分から課題を会社に提案して、上司や関係者、時には経営トップの賛同を得て、業務として認められたものです。また必要であれば、プロジェクトやチーム等を立上げることもあります。こんな私の仕事や働き方に、仕事旅行社(多様な職業体験から自分のキャリア軸を見出すサービス)の社長・田中翼さんが興味をもっていただいたご縁で、田中さんの著書「働くコンパスを手に入れる」でもインタビューをしていただきました。  

と、あたかも会社生活全て順調かのような書き方ですが、実はもともとは「へっぽこダメ社員」で、組織の中で自由に動き回ることなど全くできませんでした。その状況を打開すべく様々な試行錯誤を重ねてきたわけですが、この記事では試行錯誤の中で編み出した方法を、詳細かつ体系的にまとめてみました。



戦略編:異なるルールでプレーする

さて本題です。「なんで会社の中で自由に動き回れるのか?」という問いに一言で答えるならば「ゲームのルールが違うから」となります。私は昔から、「みんなが頑張ってもなかなかうまくいかないことは、自分も多分無理なので、ゲームのルールを変えて取り組もう」と考えます。例えば受験、就活、結婚、仕事と家庭の両立など。今回の「会社の中で自由に動き回る」という課題も、その一つです。ルールを変えるとは例えば、他の人が競歩でタイムを競っている中、一人だけスキップしながら歩くこと自体を楽しんでいる、というようなイメージです。遠目からは同じように見えても、実は目的もやり方も違うという状態です。「会社の中で自由に動き回る」ために、私は2つのルールを変えていますが、いずれも公式に異なる制度が適応されたわけではなく、あくまで自分の中の認識や決めの問題です。

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■ルール1 課題と結果を自給自足する

1つ目のルール変更は、仕事の課題と結果に関するルールです。通常、仕事は「所属組織まで分解され落とし込まれた方針と、自分に与えられた業務範囲から目標を設定し、成果を出して評価してもらう」というルールだと思います。一方で私は、「社会・会社のニーズと、自分の能力から課題を提示し、課題に貢献することを楽しむ」というルールでプレーしています。前者は課題設定も結果(評価)も組織が主体ですが、後者は課題設定も結果(楽しむこと)も自分自身で、「自給自足型」と言えるかもしれません。こうすることで、自分の能力で価値を出せる仕事にフォーカスでき、何よりも評価されるか否かを気にせず自由に動くことができます。

このルールに関連した理論として、エール大学の心理学者リチャード・ハックマンらが提示した職務特性理論を紹介します。ハックマンらは、内発的動機(自分の中から生まれる心理的モチベーション)を高める仕事の特徴として、①多様な能力を活かせること、②始めから終わりまで携われること、③他者の生活や人生影響を与えること、④自律的に仕事ができること、⑤仕事の成果がフィードバックされること の5つを上げています。私のルール1は、職務特性理論の①②④⑤を満たすものであり、内発的動機やパフォーマンスの向上につながります。職務特性理論の詳細については、こちらの記事が分かりやすくまとまっています。  


■ルール2 非公式なパワーを身につける

2つ目のルール変更は、組織内で発揮されるパワーに関するルールです。スタンフォード大学のジェフリー・フェファーは、組織において他人に影響を与えるパワーの源泉を①公式の力(強制力,報酬力,正当権力,情報力)、②個人の力(専門力,同一化力,カリスマ性)、③関係性の力(第三者協力)に大分しました。

通常、会社内の”力”といえば①公式の力をイメージしたり求めたりしますが、私は①公式な力ではなく、他の2つの非公式な力(②個人の力と③関係性の力)を獲得・活用することにしています。なぜなら、大企業で①公式な力を獲得するには何年もポスト争奪戦に消耗してしまう一方、②個人の力や③関係性の力は自分次第で獲得できるからです。権限はなくとも、他の人から必要とされる専門性を身につけ、課題に共感・応援してくれる仲間がいれば、たいていの事は動いていきますし、必要な時は公式な力をもつ人に仲間になってもらえればOK、といった感じです。パワーの源泉の詳細については、こちらの記事が分かりやすくまとまっています。  

ただ、この2つのルールで留意すべきは、ボトムアップで課題を提示することが許されるか?共感・応援してくれる仲間ができやすいか?は組織のカルチャーが大きく影響することです。その点では、今の会社のカルチャーには感謝しており、このカルチャーをさらに発展させていくための仕事(組織開発)もしています。


■そもそも会社をどう捉えているのか

以上のような通常と異なる戦略は、通常と異なる認識(「会社で働くこと」をどう捉えているのか?)の上に成り立っています。私にとって仕事は、「毎日、自分がワクワクすることで、人の役に立つ」ことです。そのフィールドとしての会社はあたかも「公園」のようなものだと認識していて、会社には様々な遊具(課題やプロジェクト)と仲間(課題に共感する社員)がいます。こう認識することで、評価や給料ではなく、貢献と楽しむことが目的になります。

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また、公園のように安心できる場であるために、会社は「従わなければならないもの」ではなく「必要であれば交渉できるもの」と認識しています。会社と社員は雇用契約で結ばれた関係なので、仕事や働き方について必要であれば交渉することもできます。社員が切れる最大にして最終のカードは「辞めること」なので、そのカードの交渉力を高める(「この人には辞めてほしくない」と思ってもらえるようになる)ことに注力しています。これを読んだ方は「それは理想論であって、現実的には会社を辞めたら食っていけないよね」と思う方もいるかもしれません。実際は、冒頭で説明したパラレルキャリア(=本業とそれ以外の社会活動を並行して行うこと)を実践しているので、複数の働く場を持つ状態が「この会社で働かないと食っていけない」という心理的制約を外す効果を持っています。



戦術編:動き方3ステップ

では次に、この戦略を実現する戦術の3ステップについてまとめてみます。ステップとはいうものの、順番に進めるというよりは、並行して進めたり、行ったり来たりしています。


■ステップ1 自分の能力を伸ばし続ける

まずは自分の能力を磨き続けなければ、何も始まりません。必ずしも今の仕事に直接活かせなくても、自分が興味あることや得意なことを伸ばします。そうでないと自分がワクワクできないですし、能力開発の効率が上がりません。なぜ効率を重視するのかというと、ニッチな分野でも構わないですが、その分野では社内で「〇〇といえば、あの人」と言ってもらえる、No.1またはOnly1のレベルに仕上げる必要があるからです。そこまで高めることで、ルール1で設定できる課題の幅広さ、ルール2の個人の力(ある分野で頼りにされること)、さらには会社に対する交渉力 につながります。


■ステップ2 視座を高め、接点を見い出す

「視座を高める」とは、例えば従来は所属する職場の立場・視点から物事を考えていたとすると、その視点を「会社視点では何が必要か?」「業界視点では何が求められているか?」「社会視点ではどんな動向なのか?」と、考える視点を広げたり上げたりすることです。視座が高まるにつれて、そこから見える課題やニーズの幅が広がります。一方で、ステップ1で自分の能力が上がるにつれて、自分で取り組める課題の幅も広がります。そうやって両者が広がっていく中で「自分の能力が活かせて、かつ会社または社会が必要とする課題」という接点が見出しやすくなっていきます。
また、視座を高めておくことは社内を説得する際にも有効です。説得する相手(上司等)が例えば「部」の視座で考えているなら、「会社」や「業界」というより高い視座での考えが有効な説得材料になりえます。

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■ステップ3 あえて回り道を行く

取組む課題を進める際、もし直線ルート(直属の上司に相談して、許可を得てからやる等)で進んでも勝機がなさそうな場合は、回り道をします。どんな回り道なのかというと、私が一番しっくりくるのは、グラフィックカタリストとして活躍されているタムラカイさんのお話で「外から、上から、やってから」というルートです。
①外から…今いる職場の外、例えば社内の他部署の人たち、または社外の場で、とりあえず実践してみる。
②上から…外で実践していると、通常ルートよりも早く、公式なパワーを持った人とつながり、賛同が得られ、上から「やってみよう」と許しが出る。
③やってから…自分の職場まで上からの許しが届くと、職場では「ああなるかもしれない、こうなるかもしれない」と不安がる議論が起こりますが、そこで「もう(外で)やってますけど、大丈夫でしたよ」と言えちゃう。
というルートです。急がば回れと言いますが、このルートは遠回りなようで、現状の職場では動きにくい状況ではとても有効なルートです。


■仕事を自分で工作する

以上の3ステップに関連して、イェール大学のエイミー・レズネスキーが提唱するキャリア理論である「ジョブ・クラフティング」を紹介します。ジョブ・クラフティングとは、「仕事のやりがいを高めるために、(上からの指示ではなく)自分自身で仕事のあり様を変えていく姿勢」のことです。仕事(ジョブ)を自分で工作(クラフト)しながら変えていく、という意味です。ジョブ・クラフターが仕事に加える変更には、①タスク境界の変更(自分の行動を変えること)、②認知的タスク境界の変更(仕事の意味付けを変えること)、③関係的境界の変更(関わる人を変えること)の3種類があります。ステップ1(自分の能力を伸ばし続ける)は①タスク境界の変更、ステップ2(視座を高め、設定を見出す)は②認知的タスク境界の変更、ステップ3(あえて回り道を行く)は③関係的境界の変更にそれぞれ関連しているため、3ステップはジョブ・クラフティングの実践であると言えます。ジョブ・クラフティングについての詳細は、こちらの記事が分かりやすくまとまっています。  



実行編:パラレルキャリアで"一石三鳥"

最後に、動き方3ステップの具体的な実行方法についてまとめます。


■私の具体例

私の事例の1つを、3ステップに沿ってまとめると以下の通りです。
ステップ1 自分の能力を伸ばし続ける:私は社会人大学院で様々な思考方法を学び、並行して独学でファシリテーションのスキルを学びました。その学びを会社の業務や個人事業主、NPO等で実践し経験を積んだ結果、International Association of Facilitatorsの認定プロフェッショナル・ファシリテーター(社内ではNo.1のレベル)になりました。
ステップ2 視座を高め、接点を見出す:社外に出て活動をする中で、世の中の流れや社内の課題がだんだん見えてくるようになりました。世の中や社内の研究開発がオープンイノベーションを指向していることや、企業戦略の実現手段として組織開発の重要性が増していることなどが見えてきたので、それらの課題に自分のファシリテーションスキルを活用できると考えました。
ステップ3 あえて回り道を行く:オープンイノベーションや組織開発は当時の業務内容とは異なっていたので、まずは社内の部署横断的な有志活動(勤務時間外)などを使って小さく活動を始めました(外からルート)。その活動は社会・会社の方向性にあっていたため徐々に仲間も増えていき、最終的には公式の力を持つ人たちも仲間になってくれました(上からルート)。会社全体の動きになってきたことを受けて、自分の職場もいよいよ動き出そうとしたときには既に、私は社内外で多くの経験を積んでいたので、私の業務として取り組むことになりました。(やってからルート)。


■パラレルキャリア・越境学習が実現のカギ

この事例のポイントは、職場外の活動(大学院、複業、社内の有志活動等)をフル活用して3ステップを実行したことです。実現のカギはパラレルキャリアであり、特にパラレルキャリアを学習の観点で説明した理論である越境学習が重要なキーワードです。越境学習とは「普段いる場(例えば職場)と、そうではない場(例えば職場外の活動)との間を行ったり来たりする経験から学ぶこと」です。越境学習から学べることには主に、①知識に関する学び(職場外の活動で得た知識・スキル・情報等)と、②自分自身に関する学び(職場外での気づきをもとに、自分や自職場の理解が深まること)があります。

この越境学習は、3ステップを以下の様に実現します。
ステップ1 自分の能力を伸ばし続ける:能力は社内でNo.1またはOnly1のレベルまで高める必要がありますが、職場内に既にある知識は先達がいるためOnly1はあり得ず、No.1になるにも相当な苦労が必要です。そのため、越境学習の①知識に関する学びにより、組織外から新たな知識を持ち込んだ方が、No.1またはOnly1になれる可能性が高いです。
ステップ2 視座を高め、接点を見出す:「視座を高める」と言われても、どうすればいいのかピンと来ないですよね。例えば「初めて海外に行った時、その国と日本の違いを経験し、日本について理解も深まった」という経験をしたことはないでしょうか?これと同じことで、社内と社外を行き来しながら両者の違いを経験することで、自社についてより自覚的になれます。これが越境学習の②自分自身に関する学びです。自社について自覚的になることは、会社レベルの視座で考える(視座を高める)ことにつながります。
ステップ3 あえて回り道を行く:これは越境経験そのものが「外からルート」を行くことにつながります。  

ちなみに職場外の活動で得た知識,スキル,情報等を職場内に持ち帰って活かす人物をナレッジ・ブローカー(知識の仲介者)と呼びますが、実は知識の仲介という行為には、それを妨げる壁があります。私は大学院で「知識の仲介を阻む壁を乗り越えて、越境学習を促進する方法」について研究しています。この記事では詳細は割愛しますが、もしご興味あれば、私の論文を噛み砕いて解説したこちらの記事をご覧ください。  


ここまでのおさらいとして、全体を整理した図解を再掲します。

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そうまでして、なぜ大企業で働くのか

ここまで長文お読みいただき、ありがとうございました。お読みいただいた方の中には「そんな大変なら、もっと動きやすい会社に転職したり起業すればいいじゃないか」と思う方もいらっしゃるでしょうし、その選択肢もアリだと思います。最後に、そうまでして今私が大企業で働く理由について書きたいと思います。
まず前提として私はパラレルワーカーなので、大企業,フリーランス,NPO,大学研究員,地方自治体など、複数の働く場の"1つ"として、大企業があります。ではなぜ、その1つが大企業なのかというと、①世界中に貢献しやすい ②リソースや信頼を得やすい ③社内の多種多様な課題に取り組みやすい という点で、私にとっては魅力的だからです。また、大企業というよりは、今の会社にいる最大の理由は「単純に、この会社が好きだから」です。会社の歴史やカルチャー、仲間に共感するので、今はここで働きたいと思っています。いつも私の提案に聞く耳を持ち、筋が通れば実践させてくれる会社の方々に感謝して、この記事を終えたいと思います。ありがとうございます。


嬉しくて鼻血出ます \(^,,^)/