患者が「捨てられる」とき

『捨てられる患者 ver.1』、今日はこの、松嶋先生の記事を読んで考えたことを書きます。ショッキングなタイトルですね。でも、知っておいたほうが良い、とても重要な話だと思いました。

今日の記事は4分程度で読めます。

記事の要約

情報が少なく、想像も入ってしまうのですが…がんの終末期と思われる患者さんが、具合が悪くなり病院を受診したお話です。かなり悪い結果だったようですが、主治医は「治療はしない」と言い、何もせずそのまま帰宅することになったようです。

翌日、相談にのってくれた友人の勧めもあって再度主治医に連絡をしましたが「診察は出来ない」と言われ、結局この患者さんは他の病院を受診し、入院になった…という内容。元記事も短いので、よろしければ一度お読み頂ければとも思います。ちなみに他の記事もなかなか興味深いので、フォローお勧めです。

CRP11.89が意味するもの

文中に、ふたつ数字が出て来ますので簡単に解説します。CRPは炎症反応を表す数字で、基準値が0.3以下。だいたい炎症の強さに比例して数字が高くなりますが、11.89(単位はmg/dl)はかなり高い数字です。

炎症反応が上がる原因は、殆どが感染症。軽い風邪程度の感染症では数字が上がらないこともありますが、肺炎、尿路感染、胃腸炎など様々な感染症がCRP上昇の原因となります。

あとは、膠原病や進行したがんでも数字が高くなります。CRPの数字だけでは原因は分かりませんが、終末期の患者さんではがんだけもこれくらいの数字はめずらしくなく、しかし、もちろん何らかの感染症が合併している可能性もあると考えます。いずれにしても、重篤であると思われます。

Na119をどう考えれば良いか

Na(ナトリウム)の基準値はだいたい135~145(単位はmeq/L)で、ちょうどこの中に入るように身体が厳格に調整しています。119は相当低い数字で、これだけでも吐き気、倦怠感や意識障害が起こっても不思議ではありません。

ナトリウムがこれだけ下がるのは相当大きな原因があります。ひどい腹水や浮腫がある方は数字が下がることがあります。腫瘍が、ナトリウムのコントロールを悪くする物質を分泌する場合、あるいは内服中の薬の影響が考えられ、いくつかの原因が重なっているかもしれません。がんの病状が悪いと経験上、治療が有効でないことがとても多いです。

なぜ主治医は治療をしなかったのか

これについては松嶋先生も書かれていますが、私もだいたい同じ意見です。

①簡単には良く出来ない
②一時的に良くなっても繰り返す可能性が高い
③治療がいたずらに患者さんを苦しめてしまう可能性がある
④入院したら帰れないかもしれない
⑤コロナ禍であれば家族とも会えない

といった理由からでしょう。つまり、入院・治療のデメリットがメリットを上回るであろうことが容易に想像出来るので主治医は治療を断っているものと思われます。

しかし、患者さんはずっとかかっていた病院で入院させてくれないのか、治療をしてくれないのか。自分は見捨てられてしまったのか…と悲しみや怒りの感情が湧くもしれません。いや、「かもしれません」ではなく、恐らくそう感じるでしょう。

そして、これも松嶋先生が指摘されているように、主治医には「見捨てている」という感覚は恐らくなく、患者さんの感情とはかなり乖離があると思われます。この、医師と患者の考えや感覚の隔たりについては、松嶋先生の『捨てられる患者 ver.0』にも書かれており、このシリーズのテーマとも言うべき部分なのではないかと思っています。

主治医に足りなかったこと

これまで述べたように、入院が患者さんにとってあまり益にはならないであろう状況、入院や治療を待つ患者さんが他にも多い病院であればなおさら、主治医は入院の判断は難しかったであろうと医師の私なら考えます。

しかし、以下の2点に於いては、主治医の対応に問題はなかったでしょうか。ひとつは、患者さんと向き合い話をして来たのか。もうひとつは、患者さんを支援するかかりつけ医、訪問診療医を立てなかったのか、ということです。

これらをきちんと行っていれば、入院せずに自宅で出来る限りの治療を行うという選択肢が増え、患者さんの入院・治療の希望自体が変わっていた可能性があります。また友人以外に相談する相手を持つことが出来たのではないでしょうか。患者さんにも「見捨てられた」と思わせずに済むかもしれません。

まとめ

がん終末期の患者さんにありがちな問題を取り上げた松嶋先生の記事を紹介しました。

悪意を持って見捨てている医者はいませんが、残念ながら結果として見捨てられたと感じる患者さんはいます。忙しい医師は圧倒的に患者さんとのコミュニケーションの時間が足りないことがありますが、ソーシャルワーカーや看護師、緩和ケアチームなど、話し合いの不足をチームでカバーすべきだと思います。

また、かかりつけ医が早めに介入することでも、このコミュニケーション不足をカバー出来るだけでなく、患者さんが自宅療養を希望される時には訪問診療医であれば柔軟に対応が出来ると思います。

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