見出し画像

秒針

 見えないもの。私を見守っているだろう人の姿は見えないが、刻々と過ぎ去る〈時〉も見えない。今日までの私が過ごした時は無駄だったのか、必要な時だったのか。

決めることと選ぶこと

 働きもせずに時が過ぎるのを待つだけの生産性のない生活は社会的には無駄だろう。自分から見て〈無駄必要か〉を判断する選択肢を手放してはいけないと気がついた。だらしない生活なのか癒やしのための時間なのかを決めているのは自分の心。費やす時間に罪悪感を持つかどうかだけかも知れない。お金の使い方にも言えそうだ。

深夜の思いつき

 あくびが出て、眠いと感じて布団に入っても眠れない。眠れないからいろいろ考える。ますます眠れないので起き出すというループをここ数日繰り返している。
 深夜にフト思いつき、大事なものを投げ込んでいる引き出しから腕時計を取り出した。30年前に買ったのだが、たいした思い出もない。お気に入りの腕時計を失くしてしまい、国家試験まで数日しかなく慌てて買ったものだ。
当時はまだ若かった少年隊がCMしていた、セイコーの学生向けブランドだったと思う。

 ネットを検索して裏蓋を外し電池交換できそうか調べようとしたのだが歯が立たず諦めた。時計屋さんに持って行けば1000円位で済むだろうか、生活費の底が見えてきている今、それは無駄遣いだろうか?と考えながら寝た。

時計店へ

 カッコつけ氏の私には敷居が高いのである。安いし古いし…場違い感にさいなまれるのである。オバサンになって良かった、若い頃の自分には無理だった事ができる。奇しくも昨夜「情けない自分のままを見せて生きる勇気を私にも教えてください」と彼に祈った。

 お昼ごはんを食べてから勇気と時計を持って時計店に向かった。「この時計、電池を交換すれば動くのか診ていただけますか」と尋ねた。初老の店主は〈ちょっとソレ私にも見せて欲しいんですけど〉と言いたくなるような単眼ルーペを装着して一瞬で裏蓋を外した。

 プロスゲ━━━━━━ヽ(゚Д゚)ノ━━━━━━!!!! 私の2時間はなんだったんだろう。爺さん、裏蓋の刻印を読んでこじ開ける隙間の位置を確認することすらしていない。あっという間に電池を抜き取り、新しい電池を入れ、少し苦労されながら裏蓋を閉じていた。
 裏蓋を閉じるのも大変なんだって昨夜ネットに何箇所も書いてあったよ。よかった自分でやらなくて。裏蓋を外したまま、どうしようもなく持ち込む恥ずかしさからは逃れられた。

 かくして私の腕時計は再び動き始めた。独身時代、新しいチャレンジをする時に買った腕時計。いま再び動き出そうとしている私の時間も動き出した気がした。明日はパートの面接日。腕時計をしていこう。適職か何かはわからない。直感だったから。落ちたら落ちただけのこと。採用されたらどうしよう。小学校の時に将来の夢を紙の裏に書いていた。その時のお仕事。大事なことは知っている。動き出すこと。見えないものだった時間は短い秒針になって動き出し、確実に存在して見えるものになった。だから、私は見えないものも信じて歩く力を身に付けたように思う。

#今日やったこと

この記事が参加している募集

#今日やったこと

30,594件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?