隙間の神様190218

隙間の神様

オジさんのカガク2018年12月号

 本格的な冬がやってきました。木枯らしの季節です。昔のアパートは、けっこう隙間風が入ってきました。
 我が家の錆び猫の鈴さんは、炬燵の代わりに毛布の隙間に潜り込みます。いつの間にかクローゼットに隙間から入り込んでいます。隙間が大好きです。隙間には不思議な魅力があるようです。
 裏路地のビルの隙間や木々の隙間を抜けた先には別世界がありそうな気がします。それに誘われてか、ボクのティーショットのボールは、よく林の隙間に遊びに行きます。

 生物も競合を避けて、様々な隙間で生きています。深海や土の中にも棲んでいます。
 隙間商品も同じです。小さなブランドは、リーダーが手をつけない隙間を狙って新しい市場を開拓します。例えばポカリスエットは、スポーツドリンクと言うジャンルを切り開きました。隙間の先には青い海が広がっているかもしれません。

 先日ノーベル賞を受賞した本庶さんの研究も、最初はほとんど期待されなかったそうです。国内のあちこちの製薬メーカーに声をかけたものの、軒並み冷ややかな反応だったそうです。「何もやってくれなかった」と本庶さんは言っていましたが、その中で共同開発したのが小野薬品だったそうです。
 いま、免疫療法は手術、放射線、抗がん剤に続く第4のがん治療として注目されています。
 
 判っても何の役にも立たないので、ずっと誰も調べなかった研究もあります。
 先日「チコちゃんに叱られる!」でも紹介された、指鳴らしのメカニズムの研究がそうでした。今年の3月末に研究成果が発表され、100年来の謎が解明されました。

 番組やニュースを観ていない人のために、簡単に説明します。「ヤッタルデ~」とか「シメタル」とか、心の関西弁が出る時に指の関節をポキポキ鳴らす、アレです。
 関節の骨と骨の隙間は「滑液(かつえき)」で満たされています。この液体が骨がすり減る事を防いだり、関節の動きを滑らかにします。関節を曲げると、滑液の中の圧力が変化します。急激に変化した時に、中に溶けていた気体が泡になる事があります。その泡が弾けて、ポキッと鳴るのです。

 指鳴らしが泡の破裂音だとする説は、昔からありました。しかし指関節内部をリアルタイムで確認する方法がなかったのです。そこで仏エコール・ポリテクニークのバラカット教授らは数学モデルを使い、理論的に泡が音を鳴らしていることを検証しました。

 さてもうひとつ、なんだかよく解んないし、役に立つかも不明。でも、ちょっとホッとするような研究をご紹介します。『natureダイジェスト』の12月号に載ったのは「タンポポの綿毛の秘密」です。
 タンポポの綿毛が、なぜあのようにフワリと浮遊するのか、これまで判っていなかったそうです。

 鳥や飛行機が飛ぶ時に、翼などと接する所に空気の渦ができます。この「渦輪(うずわ)」が物体を空中に浮かせる力を引き出しているそうです。ちなみに、このメカニズムは難しすぎてボクにはよく解りません。
 英エディンバラ大学の植物学者の中山尚美さんたちは、タンポポの綿毛を煙で満たした垂直な筒に入れ、風を送りました。煙の粒子をレーザーで光らせると、綿の上に渦輪が浮かび上がったそうです。

 タンポポの種のように見えるのは痩果(そうか)と呼ばれる果実です。そこから柄が伸び、先端で傘の骨のように毛が広がっています。これが冠毛です。冠毛は90~110本あり、空隙率は92%で一定しているそうです。かなりスカスカなんですね。

 研究チームは、様々な隙間をもつシリコン製の小さな円盤つくり、実験してみました。するとタンポポの綿毛に近い隙間を開けた円盤だけが渦輪を維持できることが判りました。隙間だらけのタンポポの綿毛は、飛行には効率が悪そうに見えます。しかしこの隙間が渦輪を安定させているのです。

 最近「隙間の神」と言う概念を知りました。『ウィキペディア』には「現時点で科学知識で説明できない部分、すなわち『隙間』に神が存在するとする見方」とあります。科学が発達するにつれ、様々な自然現象を説明できるようになりました。太陽や月、雷や風などに神様は必要なくなってしまったのです。そして神様は、科学で証明されていない隙間にしか居られなくなったという話です。

 今回の研究で、タンポポの綿毛の隙間にいた神様はどこかに行ってしまったのでしょうか。
 いえいえ今も綿毛の隙間で、小さな渦を作っている様に感じられます。
 ヒット商品も大発見も、指がポキッと鳴るのも隙間の神様の仕業かもしれません。林に飛んでいったティーショットが、なぜか時々フェアウェイに返ってくることがあります。これも隙間の神様が、ボールを蹴り出してくれているに違いありません。

2018.12.15 や・そね
<参考資料>
WEB
・NATUREダイジェスト日本版2018年12月号
・ウィキペディア
雑誌 
・日経サイエンス2018年12月号、2019年1月号

<バックナンバー>
2016年
1月号  世界一のシマシマ
2月号 夢を操る
3月号 指で潰せる最強生物
4月号 腰痛は愛から
5月号 働くオジさん
6月号 鬼門の先
7月号 ネコはおしゃべり
8月号 世界のタムじいさん
9月号 台風七番勝負
10月号 見えてます
11月号 ヒトの脳は大雑把が得意
12月号 謎解きDNA
2017年
1月号 旧石器時代最先端技術博レポート
2月号 がんばれベテルギウス
3月号 ヒトのカラダは倹約上手
4月号 ボクが鳥を恐がるわけ
5月号 恐竜からヤキトリ
6月号 「ハンバーガー」と「かば焼き」
7月号 将棋と脳
8月号 ナノカーなのだ~
9月号 宇宙の「柿の種」問題
10月号 ちいさなさざ波
11月号 カラフルな、ふとん
12月号 お熱いのがお好き
2018年
1月号 13%の不運!
2月号 インフルエンザは、なぜ流行る?
3月号 おイヌさまさまなのだ。
4月号 ネコの人工血液が出来たんだニャ~。
5月号 ミートテックを愛用する方々にジャストミートする諸研究
6月号 下手は伝染る
7月号 ゆるゆるカガクの用語集「第二の地球」編
8月号 ネッシーの不在証明
9月号 ホップ、ステップ、アワワワワ。
10月号 群れるメリットが「社会」をつくる。
11月号 氷の底に潜む忍者

※オジさんのカガクは、オジさん、オバさん向けに
 毎月メール配信しています。

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