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鳩に助けられた話

僕は2015年に『倶会一処』という写真集を出した。10代後半から30過ぎまでに撮った約15年分の膨大な写真から作ったのだけど、完成するまでの編集に4年もかかってしまった。どうしてそんなにかかったのかというと、作品にどの写真を入れるべきか、どの写真を外すべきか、どう並べると思ったような印象になるか、いつ完成するのか、この写真は本当に自分の気持ちを表せているか、ちょっといい感じに撮れているからと簡単に選んではいないか、などと自分を追い込みすぎてうつ病になってしまったからだ。作品の編集をしようとパソコンに向かうと手が動かなくなり、次第に何をやるにもやる気が起きない無気力状態になってしまった。幸い、仕事の撮影や編集作業には全く影響がなく、周りにはバレなかったのだが、病院でいろいろ診察してもらった結果「写真をやめたほうがいい」と言われ、「いやいやそれは困ります!仕事の写真は問題なく撮れているんです!」というと先生は、「ではしばらく作品作りをやめなさい」と言った。ガーン。。。。そんな。。。。

倶会一処2013-7

それまで僕は、近所のコンビニに行く時でさえカメラを持つような生活を15年近く過ごしてきたのだ。なんでも撮りなさい。24時間写真のことを考えなさい。とにかく数を撮りなさい。と写真学校で学んできたから、そうすればいい写真が撮れる、1枚でも多く写真を撮れと自分に課してきた。

カメラを持たないで歩くなんて写真家失格だな、と思いながらも、翌日、手ぶらで近所を散歩した。よく晴れた日で、多摩川の土手がとてもとてもきれいだった。そのきれいな風景を撮らない自分に罪悪感を感じながら、それでも病院の先生に言われた通り手ぶらで歩いた。

しかし暇だ。。。。カメラが無いとなんだかソワソワする。写真をやっていない人にわかりやすく例えるなら、スマホを持たずに丸腰で過ごすみたいな感じか。ただただ風景を見ながらぼーっと歩いた。

隣りの駅までたどり着くと、駅前の路地にまっすぐ光が射していて、その陽だまりで鳩が数羽、クルックゥしていた。
視線を上げるとそこは『ハトヤ』というパチンコ屋の入り口だった。嘘みたいだしどうでもいい出来事なのだけれど、そのおもしろに引っかかるくらい暇だったので、普段ぜんぜんやらないパチンコ、『ハトヤ』にふらりと入ってみた。平日の昼間のハトヤは老人だらけ。天気のいい日にジジババはこんなところで集まっているのか、と心配に思ったりもした。

僕が打ったことがあるのは、特にジジババに人気のある機種『大海物語』だけだから、それを打ってみた。するとなんと、2千円くらい使ったくらいで、キュインキュイン!!キューーーーイーーン!!!と大当たりしたのだ!隣の台を打っていた見ず知らずのおばあちゃんが「にいちゃんすごいな!よかったな!」とニコニコしてくれて、僕は「あれ?楽しい。。。。最近ずっと感じてなかったやつだ。。。あれ?超楽しい!!俺、生きてる!!!」と楽しい気持ちを再発見したのだった。

その日にいくら勝ったのか忘れてしまったのだけど、僕にとって重要だったのは、カメラを持ってない平日のある晴れた日を楽しめた、という勝ちだった。僕はそれをきっかけに、しばらく仕事以外では写真を撮らず、編集もせず、友人たちに支えられながら、1年も経たないうちにうつ病に勝った。『ハトヤ』はしばらくして駅周辺の再開発のために取り壊されて無くなってしまった。

倶会一処2013-24

今はコロナでほとんどのパチンコ屋が閉まっているけれど、それまで僕はちょくちょくパチンコに行っていた。
短時間での集中力を必要とされる撮影という仕事は、毎日やっていると頭がパンクしそうになるので、撮影帰りに頭をリセットしたり、常連のジジババに「よっ。」と挨拶したり。ときどき見かける、観光で日本に来て遊び方が分からずハテナ??している外国人に教えてあげたりもする。(日本にしかない文化なので、観光ガイドなどでおすすめされているのだろう。)

僕はパチンコ中毒なのかもしれない。でも別にいいのだ。生活に困るほどつぎ込んでもいないし、僕の場合、アプリに毎回つけている収支によると、日によって数万円勝ったり数万円負けたりしても、平均すると1回のマイナスは500円くらい。こんなに遊んで1回500円なんて、ありがたみしかない。

みんな、なんとか中毒でいいと思う。
僕は写真中毒で、パチンコ中毒で、コーヒー中毒で、スマホ中毒で、タバコ中毒で、ドライブ中毒で、最近はお花中毒で、スキンケア中毒で、あと、何にでもこだわってしまう中毒。中毒死しないように気をつけながら、楽しく暮らそう。早くまたパチンコに行きたい。

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