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いかにデザインとビジネスを繋ぐことが難しいか02: 外コン&デザイン学生の視点

こんにちは。これまでCIIDというデザインスクールで学んだことをまとめる形で、デザインをビジネスのプロセスにどのように落とし込めば良いのか、という論点を述べていきたいと思います。

前回の記事では、人間中心デザインのResearch Plan -> Research(プロジェクトの立ち上げからリサーチを行うまで)のプロセスについて解説しましたが、今回の記事ではその後のステップである”Design Challenge -> Concept”に関して、デザインスクールで実践されている方法を写真とともに解説しながら、ビジネスに適用する際に論点になり得る点を明確にしたいと思います。

CIIDの人間中心デザインプロセス

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また論点が多く、一つの記事にまとめることが難しいので、下記のように複数編で構成しています。この構成の全体像を確認したい方は、前回記事を確認していただければと思います。

・記事1: 人間中心デザインのプロセス別解説: Research Plan -> Research
・今回: 人間中心デザインのプロセス別解説: Design Challenge -> Concept
・記事3: 人間中心デザインのプロセス別解説: Prototyping -> Funding
・記事4: 生命中心デザインを受け入れる必要があるのか
・記事5: スペキュラティブデザインと倫理の役割

Step3: Design Challenge

このプロセスは、これまで実施してきたリサーチ結果をまとめて、新たなプロダクトやサービスの目的を作るプロセスです。個人的には、人間中心デザインプロセスの最初の難関だと思っており、デザイナーとして「この課題を解決したい」と魂を込めるようなプロセスです。言い換えれば、世の中には「素晴らしいように見える」アイディアや「クリエイティブな」アイディアで満ち溢れている中、そんなアイディアを意義のある、現実的なものに変える瞬間でもあります。自分が考えた「アイディア」をしっかりとした「コンセプト」に変化させる重要なプロセスです。

アート作品を作ること否定しているわけでは全くありませんが、このプロセスがアート作品を作ることと、プロダクトやサービスを作る違いかもしれません。ビジネス的に言えば、作る前に作る目的を考えるという、至極当然のことを行っているに過ぎません。

では具体的にどんなことをすれば、クリエイティブかつ意義のあるコンセプトを作ることができるのか、それを今から解説していきます。

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上の写真は、Design Challengeを生み出すまでのステップで、端的に表現すると、以下の通りになります。これから一つずつ見ていきたいと思います。

・DOWNLOAD: リサーチ結果をホワイトボード等に書き下すプロセス
・THEMES: リサーチ結果をテーマごとに分類するプロセス
・INSIGHT: テーマ間の関係やパターンを見出してインサイトを出すプロセス
・OPPORTUNITIES: 得たインサイトをデザインする目的に変えるプロセス

この一連のプロセスを視覚的にわかりやすくまとめたストップモーション動画があるので、参考までに載せておきます。

■ DOWNLOAD

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これは前回のリサーチのプロセスと被っていますが、リサーチして得た情報を整理するステップになります。情報の媒体はテキスト、動画、写真などリサーチ中に得たあらゆるモノです。デザインスクールでは、Observationを探す、Quoteを見つけると言ったりしますが、ここでは網羅的に全ての情報をまとめておく、といった理解で問題ありません。

上の写真は、自分が行ったリサーチ結果の一部ですが、リサーチ対象者や実施したワークショップごとにまとめておくと後で参照するときに大変わかりやすいです。このステップを実施する時は、下の写真のようにこの時のホワイトボードは大変なことになっています(笑)

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■ THEMES

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次はリサーチ結果を分類することで、特定のテーマを見つけるステップです。いわゆるクラスタリングという手法で、ビジネスであろうと、デザインであろうとディスカッションの場で日常的に行われています。

ここで意識すべきことは、単純にグループとして分類してテーマを見出すのではなく、人間のBehavior(行動)に着目してテーマを作ることです。あくまで人間中心デザインのプロセスなので、人間がどんな時にどんなことをしているのか、に関してテーマを見つけることが重要になります。

自分は過去にWFH(Working From Home)について、このプロセスを行ったことがあるのですが、その時のホワイトボードの一部がこちらです。オレンジ色のポストイットが、いわゆるテーマに該当する部分ですが、全て人間の行動や動機起点で分類されています。

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例: Stimuli during WFH to ease WFH(自宅で仕事をしている時にその状況から逃れるために必要な刺激や行動)
例: Perception of Space(自宅で仕事をしている時の家という概念の認知)

またこのステップでは、網羅的に全ての情報を分類する必要はありません。ビジネスで言うと、MECE(漏れなくダブりなく)にまとめることが一般的ですが、デザインの文脈では、自分が興味があると感じたことに関して、テーマ分けをすることが一般的です。

■ INSIGHT

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次はまとめたテーマを俯瞰しながら、インサイト(人間の行動や動機に関するパターンや法則)を見つけるステップになります。このステップは、人間中心デザイン系のプロジェクトの良し悪しを分ける程に重要である一方で、常に曖昧であり、デザイナーごとに解釈が異なる部分でもあります。

グラフィックデザインであれ、Webデザインであれ、人間中心デザインであれ、デザインという概念が有名になってから、非常に長い時間が経過しています。それに伴って、現在多くのデザイナーが存在するのも確かです。そしてそのデザイナーごとに、インサイトに関する異なる解釈があるのは不思議ではありません。

インサイトは一般的には、以下のように定義されます。

- A discovery about human behavior, and the underlying motivations behind that behavior
- Information that challenges what we believe about users and how they exist in the world
- Knowledge that uncovers fundamental principles that drive us towards seeing users in a new way

なんとなく分かるのですが、非常に一般的です。この定義では大抵の発見が当てはまってしまい、時代が進み人間に関するリサーチが進めば進むほど、第三者をハッとさせるようなインサイトが出てこなくなるのも、理解ができます。実際、今の時代に第三者をハッとさせるようなインサイトを見つけることは非常に難しいです。

だからこそ、もっと踏み入ったインサイトに関する考え方が必要になります。こちらのウェブサイトに非常にわかりやすく具体例が解説されているので、参考までに載せておきます。

これによると、良いインサイトと言うものは、以下の問いに答えています。具体的かつユーザーの動機も合わせて記載されているので、第三者も理解しやすいインサイトかと思います。

Does what you found give you a new understanding of attitudes, behaviors, or context of users (inside and outside your product/service)?
例: People who are serious about moving will visit at least five apartments in one month to see what is available and what they could be missing (behavior and motivation)

Does what you found negate or change the way you have viewed users in the past?
例: Although we believed users wanted to see apartments right after they found them online, we uncovered that users wish to have a virtual tour of the apartment before setting up an in-person appointment

Does what you found help you understand the user’s mental models on how the world should work?
例: Users believe real estate agents have essential and unknown information about apartments new to the market, which is impossible for them to get. Without a real estate agent, you aren’t getting up-to-date information about new apartments. And real estate agents use this information to their advantage to charge a higher commission.

良いインサイトを導出するために色々な方法があると思いますが、これに関しては日常的な練習が一番だと思います。プロジェクトが実施されているか、されていないかに関わらず、日常的に人間を観察して、人間の行動やその動機を理解しようとすることは可能です。そうしたことを日常的に実施しているのは、写真家であったり、ジャーナリストであったり、時には普通の母親だったりします。哲学的な部分ですし、あまり表面化されていないので分かりにくいと思いますが、そうした人がデザインファームIDEOのデザインリサーチャーになっていることも確かです。

■ OPPORTUNITIES

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次のステップは、導出したインサイトに基づいて、プロダクトやサービスのコンセプトを考えられるようにするための問いを導くステップです。要するに、何かを作る目的を明確にするステップになります。

デザインスクールでは、その問いを”How Might We”(どうしたらXXXできるだろうか)という形でまとめることがほとんどです。今までは、”Users do”という形でインサイトをまとめていましたが、初めて主語がWeとなり、リサーチ結果を自分事化する瞬間にもなります。

次のConcept(アイディア出し)のプロセスでこの問いをそのまま使うので、アイディア出しの際にアイディアが出せる形になっていれば良いわけですが、次のフォーマットで考えると、上手く制約条件を捉えつつ、良い問いを作ることができます。

Format: How might we…. Goal + Constraint?
Goal: provide sports associations with information and communication…
Constraint: …that is time and location based?

参考までに、HMW文の良い例と悪い例を掲載しておきます。悪い例は、問いとして曖昧すぎて、その後のプロセスでアイディアが発散してしまうことは容易に想像できるかと思います。

良い例: How might we enable sports associations to extend their rituals (cultural and practical) beyond their individual facilitiesat Valby Idraetspark?

悪い例: How might we enable Valby Idraetspark sports associations to extend their presence?

Step4: Concept

次のプロセスは、前段のプロセスで導出した問い(HMW文)に基づいて、アイディアを考えるプロセスです。

■ Brainstorming

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こちらはお馴染みの言葉ですが、個人の感覚としては、ビジネスの文脈ではこのブレインストーミングを上手く行えていないことが多く、また苦手と感じているビジネスマンが多いと思います。これは当然のことで、日頃からアイディアを発散させる習慣がないためです。

実際自分もCIIDに入る前は、苦手でしたし、ブレインストーミングを単なるお絵描きだと舐めていた部分があります。お絵描きから何か大きなビジネスアイディアが出るとは思っていませんでしたし、本気で作り込もうと思ったこともありませんでした。一方である程度形式を覚えて、数をこなしてくると、「ああこのアイディアとあのアイディアを組み合わせると面白いアイディアになりそうだな」というような感覚を覚えることが増え、実際にその後に将来の可能性を感じさせるアイディアが導出された経験があります。

覚えた重要な形式としては、以下のようなものがあります。

No more than 30min per session
前段で述べた「単なるお絵描きから何か大きなビジネスアイディアが出るとは思っていませんでした」というのは、あながち間違いではなく、ずっとスケッチを行っているだけでは、アイディアは良いものになりません。そのため、何回かのセッションに分けて短い時間で実施することがほとんどです。長くダラダラと続けてもあまり意味がありません。

Be Visual
スケッチが上手くないからと言って、アイディアを全て言葉で伝えるのはご法度です。理由としては2つで、スケッチには曲がりなりにも言語以上の、視覚情報が含まれており、人の想像を膨らやすいからということと、単純にアイディアがたくさん出てきた時に、言葉ばかりでは瞬時にそのアイディアを理解できず、結果として情報処理に時間がかかってしまうからです。

Encourage Wild Ideas & Go for Quantity
この時点で出てきたアイディアに間違いも何もないので、思いついたことは全てスケッチとして表現します。自分が思っていたアイディアが矮小に見えても、他の人のアイディアと組み合わせることで、素晴らしいアイディアになるかもしれません。

Appreciate Diversity
自分はこの時ほど多様な観点が必要だな、と感じたことはありません。ブレインストーミングは複数人で行った方が良いです。可能であれば、自分が考えたDesign Opportunity(HMW文)に対して、第三者がブレインストーミングを行った方が良いかもしれません。

■ Concept Map

ブレインストーミングで出たアイディアが、そのままプロダクトやサービスになることはありません。自分がインスピレーションを感じたアイディアを組みわせて、より面白いアイディアにすることがほとんどです。一方でアイディアを組み合わせた結果、本来の目的を失ったコンセプトになっていることもよくあります。

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それを防ぐために重要なのが、Concept Mapです。このMapでは、アイディアを具体化しつつ、当初のHMW文に合致しているか確認することができます。プロトタイピングのプロセスに入る前に、本当に効果がありそうか、考えているストーリーに矛盾はないか確認することが大きな狙いです。以下の項目が記載されていれば、十分かと思います。

・コンセプトの使用方法
・コンセプトのストーリーボード
・導出したインサイト・HMW文との整合性

またビジネスの文脈では、この時点でどんなビジネス効果がありそうか、どんなビジネスモデルが考えられそうか、見当をつけることも必要かと思います。定量的にビジネス効果を算出することは難しくても、ユーザーや社会に対してどのように波及していくか、議論することはできます。

ビジネスに応用する際に課題になり得る点

以上、人間中心デザインのDesign ChallengeからConceptまでのステップを解説してきましたが、これをそのままビジネスの文脈で実践すると、大きな動揺を生むことは確かです。特に日本を代表するような大企業であればあるほど、実践は困難を極めます・

ここでは、どんな問題が生じ得るかを説明しつつ、どのように解決したら良いか、その方針を述べていきたいと思います。

■ インサイトが第三者に伝わらない

頑張ってリサーチして、頭を捻って渾身のインサイトを導出したのに、第三者が共感してくれない、というのはよくある話です。大企業の文脈では、直属の上司であれば何度も議論ができるので、解決する話かと思いますが、3ヶ月に一度の経営会議でインサイトを伝える必要がある場合は、いかがでしょうか。この場合は、よりインパクトが残る形で、インサイトを経営陣に訴求する必要があります。

そこで重要なのが、以下の2つです。

インサイトと実際の状況を表現した写真や動画を添付しておく

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第三者に共感を生まないのは、いくつか理由があると思いますが、大抵はその第三者が状況に浸れていない、ことが原因だと思います。そこで状況を表した写真や動画を見せよう、ということになります。

少しビジネスの話からはそれますが、「両親への感謝は重要」というテーマに関して、単純に言葉や資料で伝えることと、以下のような動画で伝えることでは、どちらが効果があるでしょうか。間違いなく状況を表現した動画かと思います。

嘘のなく、編集がされていない映像というものは、言葉よりも遥かに情報量を含んでいると思います。だからこそ、自分は写真が好きです。

■ インサイトの記述の仕方をストーリー形式にする
とはいっても、経営会議の形式上、写真や動画を見せることは難しい、という企業もあるかと思います。日本の大企業はほとんどそうです。この場合は、インサイトの記載方法を工夫することで、解決できるかと思います。

英語となって恐縮ですが、以下の記述を心がけてみてください。

State the context and background: Put the person reading the insight into the situation. Explain what the current situation is for the participant, which will also give meaning to the research project.

Explain what you’ve learned: Based on the current context, what was the key learning you gleaned? The critical learning may be an unexpected attitude or behavior. It could also be a problem or barrier your participant experienced.

Articulate the root cause (the why): Explain why a particular behavior or attitude is coming up in the research, or why a participant is facing a specific problem.

Talk about motivation: Being able to explain the motivation behind why the learning occurred is what makes an insight great, and is the most critical part of figuring out how to help users achieve their goals. Find the frustration that surrounds any given experience, and you will locate the core motivating factors.

Communicate the consequences: What does this particular insight lead to, or what impact does it have on your product/service? Explain what will happen if you don’t act on this insight. What does the user feel is the ideal end-state.

■ アイディアからコンセプトに発展させることができない

着目した人間の欲求に基づいてアイディア出しをしたはいいものの、そこからより良いアイディアに発展できないパターンがあります。結果的に最初のアイディアからあまり変わらないものが、コンセプト化してしまい、プロジェクト全体がつまらなくなったことは、自分の失敗談です。

デザインの文化が芽吹こうとしている企業で、デザインのプロジェクトを実施した結果、つまらないものができてしまった場合、その会社では、人間中心デザインそのものが舐められる可能性があるので、深刻な問題です。

対策法としては、出たアイディアを強制的に組み合わせてみたり、もう一度ブレインストーミングを実施したり、とにかくチーム・個人として納得のいくコンセプトが複数出るまで前段のプロセスを繰り返すことが重要です。だからこそ、色んな人が関わってブレインストーミングを行い、最初からアイディアの幅がある方がいいのです。
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この辺りで今回の記事を終えます。次回は「人間中心デザインのプロセス別解説: Prototyping -> Funding」について述べていきたいと思います。

町田

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