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いかにデザインとビジネスを繋ぐことが難しいか01 - 外コン&デザイン学生の視点

こんにちは。前回の記事に引き続き、これまでCIIDというデザインスクールで学んだことをまとめ、外資系コンサルティングファームでの経験に基づいて、デザインをビジネスのプロセスにどのように落とし込めば良いのか、実際のデザインプロセスを追いながら、述べていきたいと思います。

また論点が多く、一つの記事にまとめることが難しいので、下記のように複数編で構成しています。この構成の全体像を確認したい方は、前回記事を見ていただければと思います。

・記事1: 人間中心デザインのプロセス別解説: Research Plan -> Research
→ 今回はこちらの記事

・記事2: 人間中心デザインのプロセス別解説: Design Challenge -> Concept
・記事3: 人間中心デザインのプロセス別解説: Prototyping -> Funding
・記事4: 生命中心デザインを受け入れる必要があるのか
・記事5: スペキュラティブデザインと倫理の役割

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今回の記事では人間中心デザインのResearch Plan -> Research(上記画像の前半2ステップ)というプロセスに絞って、デザインスクールで実践されている方法をイメージとともに解説しながら、ビジネスに適用する際に論点になり得る点を明確にします。

Design Process 1: Research Planning

人間中心デザインの最初のプロセスは、リサーチの計画をすることです。リサーチといっても、ビジネスの文脈で行われているような市場調査や競合調査ではなく、人間の隠れた動機や欲求を理解するためのリサーチで、インタビューやワークショップ、行動観察のような形をとります。

また実際のプロジェクトテーマに沿って、プロセスを説明した方がイメージしやすいと思いますので、予めテーマを明確にしておきます。今回記事中で考えるプロジェクトテーマは、「コロナウイルス感染拡大によって新たに表れた人間の新たな行動や動機を利用して、人間にとってより良い世界を築く」とします。これは実際に自分が実施したプロジェクトのテーマです。

Step1: Narrow down the project brief
どんなプロジェクトでも目的のないプロジェクトはないので、まずはチームとしてプロジェクトの方向性を決めることから始めます。デザイン系のプロジェクトテーマは、先述したように「より良い未来を作る」や「優れた体験を作る」といった抽象的な形になることが多いため、その分多くのサブテーマが考えられます。今回のテーマであれば、子育て、食事、娯楽、仕事、人間関係での変化というように無数のことが考えられるので、まずはチームで何を共通テーマにするのか、話し合う必要があるというわけです。

単に話し合うだけでなく、通常はいくつかの方法を使いながら合意することが多いです。今回はそのうち「Secondary Research」「Mindmap」「Crazy8」を紹介したいと思います。

■ Secondary Research

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要するにデスクトップリサーチを指すことが多いですが、プロジェクトのテーマについて広範に情報を集めることを可能とします。記事などの文字媒体で情報を収集するだけでなく、画像や動画などをリソースとすることが多いです。重要なのは、記事や画像の全てを理解するのではなく、収集した情報からインスピレーションを得ることです。これを複数人で行えば、多くの情報と付随するインスピレーションを効率的に集めることができます。

■ Mindmap

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ある程度インスピレーションを得ることができたら、そこからはそのトピックについて細かく考えていきます。その時に使われるのが、マインドマップのような方法です。ブレインストーミングの一種ですが、個人の思考プロセスが可視化されるので、チームワークの際には有効と考えられます。

■ Crazy8

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こちらもブレインストーミングの一種で、プロジェクト後半のコンセプトを考える段階で使われることが多い手法ですが、プロジェクトの初期段階にチームメンバ間で、プロジェクトの向かうべき方向性を共通認識する際にも用いられます。至ってシンプルでA4の紙を八つ折りにし、8個のマスにプロジェクトテーマから連想されるアイディアを5分程度でスケッチします。ここで出たアイディアがそのままプロジェクトの最終成果物になることはなく、あくまで選んだテーマが面白そうか、チームとして納得して進めそうか、ということを考えます。

写真は8つ折りの形式になっていませんが、考え方は同じで、スケッチを用いて超短時間でアイディア出しを行ったものです。プロジェクトテーマについてチームメンバ間で共通認識を持つには、非常に有効な手法でした。

ちなみに今回の記事では、このプロセスの結果として、自分の経験に即し、感染拡大下のWFH(Working From Home)をテーマにすることとします。

Step2: Define Statement of Intent

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プロジェクトのテーマを明確にした後は、そのテーマについてどんな人間の側面を知りたいのか明確にするステップがあります。今後リサーチをするわけですが、そもそも何を知りたいのかを確認するステップになります。ビジネスで一般的な「XXXという結果を得たいので、YYYという趣旨のリサーチを行う」というように仮説思考的にリサーチの趣旨を固めるのではなく、これはチームの興味に応じて定義します。

過去のWFHのプロジェクトでは、「自粛環境下の中で、人間がどのように自宅を仕事環境として認知し、仕事とプライベート間でどのようにマインドセットをシフトしているか」調べることにしました。

Step3: Research Prep
リサーチの趣旨が決まったら、実際の手段や方法を定めていきます。リサーチの方法は、文脈に応じて無数に存在するので、この状況ではこの方法が良い、というものは定義することが難しいです。一方で、プロジェクトのどの段階にいるかによって、取り得るリサーチの手段は変わってきます。

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それは、リサーチ対象とどのくらいの接点を持つかによって表現することが可能です。プロジェクトの初期段階で、ある程度広範に意見を集めたいのであれば、Intercept Interview(街中にいる人へのインタビュー)やUser Workshopのような形で、1時間~3時間程度で済ませることも考えられます。一方で、サービスのコンセプトが決まり、特定のユーザーに対して深い洞察を得たいのであれば、One-on-one InterviewやEthnography(実際に特定のユーザーと行動を共にする方法)なども考えられます。

イメージアップとして、実際のリサーチの状況を写真として掲載します。

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個人的な経験としては、インタビューはいかなる場合も実施することが多いので、今回はインタビューをするという文脈に沿って話を進めます。インタビューをするにも、ただ単純に質問するのではなく、以下のようにいくつかの準備が必要です。

■ Discussion Guide

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インタビューをする際のスクリプト(ユーザーとの会話ガイド)です。インタビュワーは、このガイドに沿ってユーザーと会話をします。構成は上写真の通りで、まずはユーザーとインタビュワー間で関係を構築することから開始し、その後肝心な質問に入っていきます。時間としては、10~20分程度を紹介に用いて、40分程度を質問に使うイメージです。

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上写真は実際のDiscussion Guideの一部です。記載の通りですが、一つとしてYes/No Questionはありません。インタビューでは、ユーザーに話をさせることが重要なので、全てがOpen Qになっています。またただ機械的に質問をするのではなく、なぜそう思ったのか、という点を深掘ることに主眼を置きます。その内容によっては順番通りに質問するのではなく、質問間を行ったり来たりすることもあり、最終的に全ての質問をカバーしきれなくても問題ありません。

IDEOのリサーチガイドには、”This is a conversation, not a job interview”と記載されています。Discussion Guideとは会話をしながらも、その内容はリサーチの趣旨から外れないようにするためのガイドに過ぎないのです。

■ Research Tool

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リサーチ中はただ単純に言葉だけで質問するのではなく、いくつかのツールを用いてユーザーと会話することがあります。こちらも文脈に応じて無数の方法が存在するので、何が正解、というのはありません。ツールを使用することで、ユーザーを積極的にインタビューに関与させることが可能であったり、言葉で表現しきれない微妙なニュアンスを表現させることができます。

上の写真は実際にWFHのリサーチをする際に、1日の感情曲線と付随する出来事を可視化するために作成したツールで、Seismographと言われているツールになります。インタビュワーとしては、どこを質問すれば、ユーザーが話しやすそうか分かるので、会話を簡単にするためにも有効なツールです。

他にも参考になりそうなツールをイメージアップとして、掲載します。

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■ Research Recruitment

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リサーチをする際は、多様なタイプの人から情報を集めることが得策とされています。当たり前のように聞こえますが、実際に多くのタイプの人とインタビューすることで、同じことに対して全く異なった意見が出てくることは、個人的には驚きでした。下の写真は、Seismographをユーザー間で比較したものになります。

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実際の選び方としては、上記のような切り口が一般的です。何人インタビューすれば十分ということは、一概に決めることはできません。

Design Process 2: Research

そして実際にリサーチを実施する段階に入るわけですが、ここで意識したい点は、以下の2つです。

リサーチ結果を「忘れられるように」記録する

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リサーチ期間中は、非常に忙しくなります。インタビューが一日に何回もあると、先に実施したインタビュー結果を忘れてしまうこともあるかもしれません。そのためインタビューを動画で記録する、簡単にポストイットにポイントをまとめておくなど、リサーチ結果を安心して忘れられるようにすることが重要です。

第三者に提示するためにリサーチ状況を動画で記録する
これは保管という意味でも重要なことですが、後でインタビュー結果を第三者に見せるためにも重要なことです。実際のユーザーの声は、どんな文字よりも強力に状況を表すことができます。プレゼンの際のイメージは、Quoteと組み合わせて動画を用いる、下写真のような形式です。

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デザインをビジネスに応用する際に課題になり得る点

以上、人間中心デザインのResearch Planningから実際のResearchまでのステップを解説してきましたが、これをそのままビジネスの文脈で実践すると、大きな動揺を生むことは確かです。特に日本を代表するような大企業であればあるほど、実践は困難を極めるはずです。

ここでは、どんな問題が生じ得るかを説明しつつ、どのように解決したら良いか、その方針を述べていきたいと思います。

課題1: 大きなことから始めたがる
企業の売上規模を考えた時に、小さそうに見えるニーズやテーマを起点にプロジェクトを始めることができないことは、イノベーションのジレンマと言えるかと思います。 例えば、最初から単体サービスではなく、プラットフォームビジネスのような大きなビジネスモデルを考えてしまう、というようなことは自分の身の回りで起きたことです。

新たなことを考える際に、大きなことを考えることは悪くないことだと思いますが、実際の一歩となると最初は小さく始めざるを得ないので、理想と現実のギャップに戸惑いを覚えることが多いと思います。

大企業の、一部署の、一社員がイニシアチブをとって、小さなことを始めることも非常に難しいですが(というより不可能ですが)、スタートアップを見るとサイドプロジェクトのような形で、2~3人で小さなことを実践している人は多いイメージです。まずは無駄になっても全く問題ないので、少人数の有志で時間を捧げてみることが重要だと思います。

課題2: そもそも「知りたい」「やりたい」ことがない
リサーチの前段階では、「これを知りたい」「こんなアイディアを実践してみたい」という、企業・自分なりの意思があることが重要です。デザインプロセスが新たなサービスを生み出すために使われることはいいのですが、残念ながらデザインのプロセスは何もないところから始めることはできません。その状態からプロジェクトを上手く始動させることは困難です。企業の中に自分の欲求や興味に基づいてプロジェクトを実施している人はどの程度いるでしょうか。

また仮にその興味が大きい社員がいたとして、大企業の文脈では、社員の「知りたい」「やりたい」を具現化するプロジェクトはほとんどないので、既存のビジネスプロセスがそのままという前提では、個人的には、社員が持つ興味をPlay Around(実際に手を動かしてなにかを作ってみる)できる場所がないと、デザインのプロジェクトは上手く発足できないだろう、というのが仮説です。

これについては多くの大企業が実施し始めているかと思います。いわゆるデザイン部署やデジタル推進室を横軸組織として作り、イノベーションを可能とする手法です。そこで生まれるアイディアも多いと思いますが、どの程度上手くいっているかは、疑問符です。

課題3: 仮説思考の罠: 始める前から具体的なアイディアを持つ必要がある
ビジネスをする上で仮説思考は非常に重要ですが、それが過ぎてしまうと、リサーチをする前の段階から、リサーチの意味やそのアウトプットを詰められてしまい、始まる前からそのプロジェクト自体に良い印象が持たれなくなることもしばしばあるかと思います。先に述べたようにリサーチをする段階では、XXXという結果を得たいので、YYYという趣旨のリサーチを行うことはなく、純粋にチームや個人の興味に応じてリサーチ内容を定めます。

実際に経営会議という意思決定の場で、何のためにこのデザインプロジェクトをやるんだ、という怒号が飛ぶのを見たことがあります。作るプロダクトやサービスがこの時点で決まっていないので、「何のために」という問いに経営陣が望む通りに答えられないのは当然です。

この課題は、経営陣などの意思決定者が、デザインプロセスを学びつつ、その不確実性を認めることでのみ、本質的には解決できるような気がします。デザイナーやアーティストがモノを生み出すプロセスは、ほとんど最初から仮説に基づいていることはありません。
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この辺りで今回の記事を終えたいと思います。次回は「人間中心デザインのプロセス別解説: Design Challenge -> Concept」について述べていきたいと思います。

町田

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