CIID Week19: Beyond the Pocket Computer ~ スマホを超える ~
こんにちは。今週はCIIDとして初となる”Beyond the Pocket Computer”というコースを実施していました。当初の予定では、TUI(Tangible Interface)という3週間のコースを行う予定でしたが、コスタリカのコロナウイルス感染状況の悪化により、学校が閉鎖されてしまったため、デジタル環境でも実施可能なコースに変更されました。
初の試み&講師も即席だったので、どうなることかと思っていましたが、非常に講師陣のレベルが高く、満足度の高いコースとなりました。内容としても、ほとんどのサービスがスマホ向けに開発されている中、「スマホが解決できない課題を他のメディア(ウェアラブルなど)を活用して解決する」というもので、改めてサービスを見つめ直すきっかけとなりました。
最終的にできたコンセプトビデオはこちらです。
今回の記事では、これまでと同様に実際に辿ったプロセスと共に、コースのポイントを解説していきたいと思います。
Step0: Background & Project Brief
代表的なイノベーション、デジタルトランスフォーメーション、といった言葉を考えた時に、どんなプロダクトやサービスが頭に浮かんでくるでしょうか。Uber、Airbnb、Amazon Prime、Netflix、Spotifyなど、そのほとんどはスマホアプリではないでしょうか。それは悪いことではなく、アプリで解決
できる課題があるのであれば、問題ありません。むしろ多くの課題がスマホアプリ一つで解決できるわけですから、それほどまでに革新的な概念であることは誰もが認めることかと思います。
一方で、スマホアプリだけでは解決できない課題が存在することも確かです。今回のコースでは、そのスマホアプリでは解決できない課題を探してそれをウェアラブルを代表とする他の媒体で解決することを求められました。
またウェアラブルなど他のデバイスのユースケースとして、以下が優れた例として紹介されました。
■ JAWBONE: Health Coach as a Service
お馴染みの概念ですが、ウェアラブルを通してパーソナライズされた健康アドバイスを通知するプロダクトです。スマホでは人間の生体指標(血圧や心拍数)を追いきれないので、ウェアラブルにする意味があります。
■ Google AI Assistant
AlexaやGoogle Homeは多くの人が利用しているプロダクトですが、現在のAIアシスタントは、電話で美容院の予約やレストランの予約までできることをご存知でしょうか。VUI(Voice User Interface)と呼ばれています。料理をしている時など、手が離せない時に声だけで何かのアクションが取れる、という点でVUIを作る意味があります。
■ SMARTPHONE BREATHALYZER | BY LAPKA
こちらはスマホと連動したデバイスで、デバイスに息を吹きかけることで、自動的にアルコールを検出することが可能なデバイスです。デバイス+スマホアプリの構成ですが、どこでもアルコール検出できる・記録できるという点でデバイスを作り意味があります。
数多くの例が存在するように見えますが、実際プロジェクトを実施してみると、「スマホアプリではなくウェアラブルでしかできないこと」を考えることは非常に難しかったです。
Step1: Define Problem Statement
ここからプロジェクトに入っていきます。
プロジェクトの最初のステップとして、スマホやウェブといったメディアに関係なく、日常生活でどんなことに困っているかを全員で洗い出しました。その中から、ウェアラブルを代表とするスマートフォンアプリ以外のデバイスまたはメディアで、解決できる問題を探すアプローチです。20分程度のブレインストーミングを実施しただけですが、以下の写真のように大量の問題が見つかりました。いかにいくつか抜粋します。
【例】
- Productivity: I want to make time to read books/comics before sleep but I always watch Youtube
- Travel: I wish I could travel the world but the quarantine doesn’t let me
- Service: I want to have more frequent conversation with CIID alumni regarding many thoughts, but it’s difficult to find time and get a reply
この時点でどの問いが良いか悪いかはなく、チームとしてどのカテゴリに興味を持っているのか、確認するために行っています。議論と投票の結果、以下の3つに絞られました。日本語に訳すと…
・環境系: 自分の行動がどの程度「環境」に問題を与えているか、リアルタイムに把握したいが、現時点では難しい
・出会い系: 女性とどのように会話すればいいのか分からない男性向けに、デートをシンプル化してあげたい
・生産性向上系: 睡眠前に読書をしたいが、いつもYoutubeを見てしまう
ただ現時点では、自分たちの主観が強くなっている状況なので、次のステップでは、注目している問題が第三者にも共通のものか確認するためのインタビューを行いました。その結果、2つ目のデートの問題に関して、”How wearable can affect dating in physical realm?”という声が多くあったので、チームとしてはこの問題に着目することにしました。
ちなみにここまでわずか1時間半程度です。デスクリサーチなどは一切実施しておらず、チームメンバの主観重視で議論を進めています。そして、講師陣との議論の結果、以下のようなProblem Statementとなりました。
“How can we provide an authentic and safe dating experience for genuinely interested single people who dislike existing online platforms?“
主に受けた指摘としては、問題を明確にするための指摘が多かったのですが、「既存のデートアプリで嫌な部分を特定しつつ、誰がそのように思っているか明確にする」ことを特に求められました。そうすると自ずと解決策の方針が見えてきます。
自分のグループでは、Tinderなどのアプリは、フェイクプロフィール、詐欺や風俗が混ざっていることがあり、信頼して使えないことを問題視しており本気で出会いを探している若者に、どのように(スマホアプリ以外で)信頼感のある出会い経験を提供することができるか、集中することにしました。
Step2: Ideation
「信頼感のある出会い経験」とは言っても、ユースケースとしてマッチング時のことを指しているのか、実際に男女が出会った時のことを指しているのか、出会った後のことを指しているのかで、作るプロダクトが変わってくるので、次のステップでは、その点を明確にするためにチームでブレインストーミングをすることにしました。
約20分間に渡って2セットのセッションを行い、お互いのアイディアに乗っかったりしながら、出たアイディアがこちらです。多少先ほど設定したProblem Statementから乖離していそうなアイディアも存在しましたが、後から想定している問題を解決するように寄せていけばいいので、この時点ではアイディアの幅に重点を置いています。
ただ一方で問題視していることが、「プロフィールと現実に差があること(Catfishing)」なのか、「既存の出会いアプリではメッセージが無視されやすいこと」なのか等、個人間で異なっているようだったので、チームとして「既存の出会いアプリで良いこと・悪いこと」を明確にして、良いところを含みつつ、悪いところは排除して新たなサービスを作ることにしました。
その結果明確にされたGood & Badが、上の写真です。説明すると…
【出会いアプリの良い所】
- Comfortable: 気まずさや恥ずかしさがないので、会話が進みやすい
- Proximity: どこにいてもマッチングのチャンスが存在する
- Fast: 様々な人の中からすぐに人を見つけることができる
【出会いアプリの悪い所】
- Attention: マッチしたところで、必ずレスポンスが返ってくるわけではない
- Scam: 詐欺やCat fishingの可能性を排除しきれない
ある程度分解することが出来たので、この時点でチームとしてのProblem Statementを以下のように変更しました。変更点としては、今まで不明確の元になっていた”Authentic”及び”Dislike”というワードを詳細化して、”Comfortable & Engaging”及び”Untrustworthy”という具体的なワードを挿入したことです。
- Comfortable & Engaging: 会話が進みやすく、レスがあるかすぐに分かる
- Untrustworthy: 詐欺などの可能性を極力排除している
”Genuinely interested single people want to have a comfortable and engaging dating experience but they dislike existing online platforms since it is untrustworthy”
その後は先ほど出たアイディアの中からいくつかを選び、上記のProblem Statementを解決するようなストーリーを描きます。
この時点でチームとして選んでいたアイディアは、以下のようなものです。
距離に応じて出会いの機会を提供するサービス: 物理的な距離を利用して、相性の良いユーザーが近づいてきた時にユーザーに通知するウェアラブルデバイス。相性の良さは、事前に設定したユーザープロフィールを用いて判定する。ユーザーはすぐに誰が相性の良い(可能性がある)ユーザーなのかその場で(自分の目で)確認できる
Step3: Storyboarding
次のステップでは、実際にデバイス使用前・使用中・使用後に渡って、何か考慮すべき点が存在するか、付加すべき機能が存在するか等を確認するため、ストーリーボードを行いました。今回のプロジェクトでは、実際にストーリーボードを描く前に、ボディーストームという、実際に想定している状況を演じてみて、問題点を見つける手法を実施しています。
この時見つかった問題点としては…
相性の良い可能性のあるユーザーと外出中に直面した時に、実はそこまで好きじゃなかった時にどうするか
ということです。外で自分の目で、相手を確認出来たはいいものの、「ああ、やっぱりタイプじゃないです」とは言いにくいと思われるので、この点を解決する必要がありました。
また今回のチームメンバが全員男性で構成されていることを踏まえて、ボディーストームの他に、女性を中心としたインタビューも実施しました。異なる観点のFBを取り入れようという試みです。主なFBとしては…
・ウェアラブルデバイスを活用しているので、ウェアラブルでしか達成できないインタラクションを考える必要がある
・嫌いそうな相手をSocial ScoreやRatingなどで事前に検知しておきたい
・会話が詰まった時に、会話ネタの提案があると自信を持って会話できる
以上のFBを踏まえて、以下の機能をウェアラブルデバイスに負荷することにしました。
■ 女性ファーストのサービス
相性の良い可能性がある相手を、まずは女性が確認することができる、という機能です。目で見てみて、タイプなのであればその場で男性に通知を送ることができる一方で、タイプでないのであれば、その時点でマッチングがストップします。先述した「相性の良い可能性のあるユーザーと外出中に直面した時に、実はそこまで好きじゃなかった時にどうするか」という課題を解決するための機能です。
■ Social Scoreの導入
相性の良い可能性がある相手が見つかった時に、まずは女性がSocial Scoreを用いて実際に男性に声をかけるか、かけないか決めることができます。
■ 会話ネタの提案機能
会話の詰まりを脈拍数や血圧といった、生体パラメーターを利用して感知し、会話ネタを提案する機能です。ウェアラブルだからこそできること、 会話が詰まった時に、会話ネタの提案があると自信を持って会話できる、という2つのFBに基づいて考案した機能になります。
最後にユーザーの置かれている状況、マッチング、会話ネタ提供、連絡先交換といった、全てのインタラクションを明確にするためにStoryboardingを実施しました。ストーリーの全貌は、次の章で見せるコンセプトムービーで
確認してください。
Step4: Video Prototyping
最後のステップとして、Video Prototypingを行いました。Video Prototypingとは、その名の通り作成したStoryboardingに応じて、実際にプロダクトやサービスを使用している状況を映像として収めることです。この手法を実施する意味として、主に以下の2つがあるかと思います。
コンセプトを第三者に明確に伝える: インタラクションを見せる文脈において、Video Prototypingは非常に有効な表現手法です。というのも、インタラクションは細かに設定されていることが多く、文字や写真のみによる静的なメディアのみでは、意図が伝わらないことが多いからです。
またビジネスの文脈では、投資前の段階で(開発する余裕がない中)コンセプトやその世界観を映像で表現して、投資家やステークホルダを引き込むことも可能です。「百聞は一見に如かず」とはまさにこのことです。
新たな課題や細かな制約を見つける: 実際にユーザーがデバイスを使用している状況を映像として収め、編集作業などをしていると、デバイスに課される細かな制約や課題が見つかります。次のステップを見つけるためにも有効な手法であります。
今回の場合だと、例えば、デバイスを使用している場所が混み合っていたらユーザー間の距離によるマッチングは厳しいのではないか、どのようにユーザーにマッチングを通知するか、マッチングが成立したことをどのようにデバイスが検知するか等、新たに生じた論点が多く存在します。
本来であればこのVideo Prototypingを踏まえて、次のPhysical Prototypingの段階で、露見した論点を潰しながら実際のデバイスを作っていくのですが、今回は1週間のプロジェクトだったので、この時点で時間切れとなってしまいました。
最後に
“Beyond the Pocket Computer”というより、普通のデザインプロセスに関するコースとなっていた感が強かったですが、個人的には学びが多かった週となりました。特にVideo Prototypingの段階では、撮影、編集、カラーグレーディング、サウンドデザインと言った側面を実施できたので、充実感がありました。
一方でウェアラブルやVUIができることは限られていそう(物理的にも小さいので実装できる機能は限られていそう)で、解決したいことを表現する段階である程度明確に絞っていかないと、何をしたいデバイスなのか分からなくなってしまうなと思いました。今後サービスデザインのコースを実施していくことになるのですが、常にアプリかウェアラブルか、またはその他かという論点に明確に答えられるようにしていきたいです。
町田
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