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AIは本当に進化しているのか? 起業からAIスタートアップの拡大フェーズまでを体験したCTO視点からの考察

本記事は、ストックマーク Advent Calendar 2022の24日目の記事です。

こんにちは、ストックマークCTOの有馬です。

この記事では、AI進化のリアルを、AIスタートアップのCTOと言う立場からの体験談に沿ってお伝えできればと思います。

はじめに

弊社ストックマークは、今でこそお客様に喜んでいただけるAIプロダクトを提供できていますが、起業したばかりの2016年頃は「本当にこのサービスはAIで動いてるのか?実は裏でセールスマンたちが人力で対応しているんじゃないのか」と言われてしまうぐらい、AIはインチキベンチャーの代名詞のような扱いを受けていました。

そんなバカなと思う反面、実はサービスを運営していた私たち自身でさえも、AIの出せる価値の奥行きに対して半信半疑でした。以下の記事のように、創業当初は、AIの可能性を信じきれなくてAIじゃなくてタコス屋をやろうとしていた歴史まであります。

ただ、今では弊社も100人近くの組織になりつつあり、拡大フェーズに差し掛かってます。ビルゲイツの「私たちはいつも、今後2年で起こる変化を過大評価し、今後10年で起こる変化を過小評価してしまう」という名言を実感させられたこの6年でした。

AIに見切りを早くつけすぎた学生時代

私が学生だった2010年以前から、AIの理論は既に魅力的で偉大でした。ただ、手間をかけたチューニングが必要な上に、ゲームや音声認識といった限られた領域の限られたシーンでのみ実用的であり、まだ世間的にはマニアックな扱いでした。

今でも覚えているのが、新卒の就職活動時に某銀行の面接を受けた際に、自分が作ったAIがマインスイーパーを解くことや音痴の修正に活用できることをアピールしたところ、面接官が「ふーん、暇だったの?(笑)」とコメントしたことです。

緊張する就活生たちを和ませるためにアイスブレーク的に発言したのだと思いますが、AIが世の中に役立つとは到底思えなかったのでしょう。
それ以降は、社会の標準的なおじさんにもキチンとウケる別の「学生時代に力を入れた取り組み」ネタを用意して無難に就職活動を終え、企業(SIer)に就職しました。

ゲームチェンジを見せつけられたWord2Vec

失意(?)の中で企業に就職し数年が経った頃、起業ネタを模索する中でWord2Vecという強烈なAIモデルに出くわします。従来のITシステムでは、検索語を与えたら、その検索語が含まれるドキュメント群を返すと言ったいわば人間の期待値通りの処理に留まっていましたが、Word2Vecでは以下のように、検索語同士の足し算/引き算を行うと、全く別の概念を表す言葉を返す処理が可能になっていました。

出典: https://ledge.ai/word2vec/ 

AIが検索語と言う枠を超え、概念ベースで一定処理可能になったことに衝撃を受けました。しかし、それ以上に衝撃を受けたのが、その適用幅の大きさでした。学生時代の頃とは違い、手間をかけたチューニングなしに、AIが様々な知識領域で人間のような概念理解のもと処理が一定可能になったことで、一気にビジネスチャンスが広がったように感じました。

このゲームチェンジに着想を得てリリースしたプロダクトが、企業の情報収集業務を助けるクラウドサービスであるAnewsでした。Anewsでは検索語ベースの期待値通りの情報収集だけでなく、AIがユーザの興味ある領域を概念空間ベースで捕捉し、ユーザ自身が気づかなかった情報まで網羅的にレコメンドしてくれるサービスです。今も弊社のコア製品としてグロースしています。

信用できなかったディープラーニング

Word2Vecのロマンは狂信的でした。何故か大企業を辞め、年収を半分以下(当時の話です。)に落とし、妻に怒られてでも弊社に自らジョインしてくれるエンジニアが次々と現れ、黎明期のベンチャーでは考えられないほどに強いチームが出来上がっていきました。

一方、私自身は、2018年頃に当時盛り上がりを見せたWord2Vecの進化系であるディープラーニングに対しては懐疑的でした。ディープラーニングのような大枠がシンプルな仕組みで、世の中を変えられるほどの精度を達成できるとはどうしても思えませんでした。

「ユーザに価値を着実に届けるために、当面はWord2Vecベースで機能開発しよう」と全社会議で結論づけ、皆表向き納得していました。しかし次の日、経営の意思決定を完全に無視し、弊社のAIエンジニアの一人が興味の赴くままに勝手にディープラーニングで新機能を開発し、想像を遥かに超える精度を出せることを示しました。

ニュース記事をファクト記事なのか、意見が含まれるオピニオン記事なのかに分類する問題で、少量だけチューニングしたディープラーニングが85.9%の精度を達成

レコメンドができるだけでなく、AIは人間と遜色なく文章を読解し、整理分類できるレベルに到達しており、歴史が本当に変わってきていることが確信に変わりました。

この数ヶ月後に弊社は、AIが世界中のWEBサイトを読解し、市場調査レポートを自動作成するクラウドサービスであるAstrategyをリリースしました。
また、ほぼ同タイミングでGoogle社からBERTという人間より読解テストで高得点を取れる歴史的なAIが発表されました。

人の仕事を奪いかねないChatGPTとAIの将来

ちょうど先月(2022年11月)に、ChatGPTという、質問や要望を送ったら人間と遜色ない回答を返すAIモデルが公開され、バズりました。

ChatGPTの実際のデモ

上記の例の通り、自然な文章を返却してくれます。レコメンドしたり、文章を整理分類できるだけでなく、AIはついに文章そのものまでをもヒトと遜色なく生成できるようになってきました。

「AIは人の仕事を奪うのか?」とよく質問されるようになりました。奪われる仕事もあると思います。

「ITとAIの違いは何か?」も良く聞かれます。ITは決められたルールを高速に実行できることが最大の強みです。一方で、AIの強みは、人間の想像(ルール)を超えるアイデアを出せることで、これが最大の魅力です。

囲碁でも人よりAIが強くなりました。しかし、AIと対峙したことで、当時のトップ棋士だったイ・セドルは「神の78手」というこれまでに人類が繰り出したことのない美しい一手を人間自身が繰り出しました。

AIは人の仕事を一定奪うかもしれませんが、AIと対峙し、上記のようにアイデアをもらうことで、人類自体が全く新しいステージの創造性を発揮できるように今後なっていくと考えています。

弊社サービスも、ユーザの仕事を奪うことを目的としていません。ユーザの創造性を高める示唆をAIで提供し、ユーザが新たなアイデアを生み出せることを目的としています。

AIの将来は、人の仕事を奪うだけではなく、どれだけ人類が新しいアイデアを産み出すことを手助けできるかどうかにかかってるように思います。

そのような未来を作ることにご興味がある方、是非弊社に応募いただければと思います!


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