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インドで最高のウイスキーに出会う、たった一つの方法。

昨晩、Twitterで知り合った方に流行のオンライン飲み会に誘われた。
Twitterで何度かやりとりをしたことがあるにせよ、ほぼ初対面の人とサシで話すのはやはり緊張する。こう言った場面でご登場いただくのはやはり、強めの酒である。昨晩は以前スーパーで買った一本20€くらいの中堅会社員ウイスキーの封を切った。

社交の流儀を心得た英国紳士(ウイスキー)の手助けの甲斐あり、無事オンライン飲み会を楽しんだ僕は、そのまま一人晩酌と決め込んだ。景気良くずんずん飲み進め、気づけば瓶をひっくり返し「ういー、酒が切れたぞー」と悪態をついた頃、ふと「そうだ、インド旅行の備忘録を書こう」と思い立ち今に至る。

学部2回生の春休みにインドを旅行したのだが「良く」も「悪く」も強烈な思い出となった。もし自伝を書くならば(書かない)気前よく丸々一章を割かなければならない。紛れもなく、自分史における「その時歴史は動いた」である。そのうち「悪い方」は、ストーリーとしては核弾頭ばりの火力を誇るものの、それを運搬するミサイルを作るノウハウを今のところ持ち合わせないから残念だ。いつか書き残せる日が来ればいいなと願う。

それでは、インドの思い出を聞いてもらおう。さあ、カレーの匂いがしてきたぞ。


まずは、「僕はウイスキーが好き」という大前提を知っていただきたい。数あるアルコールの中でも、僕にとってウイスキーは特別な存在である。これを飲むと必ずと言っていいほど、アホで愛おしい学生時代への郷愁に駆られる。要するに、エモい飲み物なのだ。そんな時は決まって、当時ハマっていたインディーズバンドを聴き返してみたり、ハマっていた漫画を読み返してみては、「あの頃の尖った気持ちを忘れないでおこう」と胸に誓い、一人で酔い潰れて眠るのである。そして翌日には綺麗さっぱり忘れている。人は順応する生き物だ。

本題のインドの話に移る前に、僕がウイスキーを好きになったきっかけについて触れておかなければならない。これは完全に僕のゼミの教授の影響だ。この恩師が僕のnoteを見ることはまさか無いと思うので、まあ、好き勝手言っても問題ないわけだが、控えめに言って大変多くを学ばせてもらったと心から感謝している(本当です)。そして、教授から学んだ事の中で、僕にとって最も重要だったのが「大人も楽しんでいい」ということだ(もちろん、アカデミック面、指導面も尊敬申し上げているのは言うまでもない)。そして、そのそばにはいつもウイスキーがあった。

たとえ勤勉なインド人でも、「『大人も楽しんでいい』なんて、そんなの当然じゃないか」と思うだろう。しかし、これと言った趣味もなく、およそ人生を楽しんでいるとは思えない大人ばかりに囲まれて育った僕は、大人になると当然、あらゆる個人的な喜びを捨て、世のため人のため家族のために身を粉にして働く以外に選択肢はないと本気で思い込んでいた。しかし、僕にとって新たなタイプの大人との出会いが、幸か不幸か、それまで抱いていた「大人観」に革命的パラダイムシフトをもたらしたのである。

教授は、結構な確率で、夜は六甲道にある行きつけのバーにいた。そこで、ウイスキーを飲みながらダーツをしている。僕もそのバーによくお邪魔し、一緒に酒を飲みながらダーツをした。バックバーの上には、教授がこれまでに空けたハイランドパーク12年(年数はどうだったけ)の空き箱が所狭しと陳列されていた。50個くらいあったんじゃないかな。インドの道端で「モーモー」と唸っている神の使者達もびっくりの量である。

ところで、多くのインド人はお気に入りのカレーの食べ方があるように、僕にもお気に入りのウイスキーの飲み方がある。王道のロックか、はたまた気取らずにハイボールで飲むのも確かに捨てがたい。でもやはり、ウイスキーの香りを最も堪能できるのは割らずに常温でちびちびやる飲み方だと思う。ここで、僕のとっておきの楽しみ方を紹介したい。それは、口に含んでからすぐに飲み込むのではなく、口腔がウイスキーでコーティングされた状態で深く息を吸い込み、香りと共に、喉の奥でアルコールが飛ぶ刺激を楽しむ荒技だ。はじめは咽せそうになるが、慣れてくるとクセになる。やってみ、飛ぶぞ?


さて、ここまで、インド旅行とはおよそ無関係な僕のウイスキーにまつわるエトセトラを長々と語ってきた。もし、ここまで読み進めてくれた方がいたとしたら、心より感謝申し上げる(そして、その卓越した忍耐力をもっと有益なことに回していただきたい。)。実のところ、これらは全てインドで美味しいウイスキーに出会うために必要なステップだったと思っている。

インド北西の砂漠の街ジュードプル近郊を訪れた時、砂丘に寝そべって満天の星空を眺めた。砂漠の砂に負けないくらい無数の星々が漆黒の空に煌めいていた。少し酔いが回って視界がふわっとしてくると、表裏逆のミラーボールの内側にいるかのような気持ちになった。キラキラ!あの時、「ヤンチャな事をしてるなぁ」と少し緊張しながら飲んだ、よく分からない安物のウイスキーは、本当に美味かった。

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( 前置きばかりが無駄に長くて、ドラマティックな部分がこんなにも短いのは、最近、村上春樹を読んだからだ。無論、本家は無駄なんてないが。そして、いつか「悪い方」の思い出も書きたい。ああ、本当に書きたい。)

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