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【連載】わたしの湯 vol.7 / スタッフ紹介

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—スーツ着てる!(笑)
スーツ着てます。

—めちゃくちゃいいじゃん〜
ありがとうございます。

—カフェでリモートでミーティングしてるなんて、社会人って感じだね。
いや全然。仕事は全出社なんですよ。新入社員が少ないので、研修の間は全出社の形で6月まで、コロナ対策してやろうってなっているので、リモートはまだやったことなくて。

あぁ、そうか。土居くんはもう小杉湯に居ないんだよな、と、スーツ姿で話す彼を目の当たりにし、改めて実感した。画面越しの彼の嬉しそうな笑顔からは、社会人としてこれから沢山の経験をしていくことへの期待と、まだ抜けきれない学生っぽさが、混在しているように見えた。卒業するまでにインタビューを実現させたかったが、それは叶わず、改めて社会人1ヶ月を終える頃、話を聞くことができた。
深夜清掃として働く彼の第一印象は『イマドキの子』。整った顔立ちで、服も好きなのだろう、洒落ている。黙っていると近づき堅いが、一度喋りだすと深夜清掃の仲間からいじられまくり、かと思ったら飲み会の最後には白目をむいて眠り出したのには笑った。なんて肩の力が抜けている子なんだろう。彼には愛される力があるのがよく分かった。彼のコミュニケーションはいつも誠実で、真っ直ぐだったな。

企画:つっつー / インタビュアー:ガースー
編集:江口彩乃・くみこまる / 写真:Gota Shinohara 

小杉湯と土居くん 目の前のアパート

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—土居くんは、深夜清掃でも古参のメンバーだよね?
今となっては、そうですね。

—“俺が仕切ってるぞ”という顔をしている人たちよりも先輩なんだ。
全然みんな先輩で、仕事もしっかりやってるし、みんな俺より深く関わってるので… 一気に抜かされちゃったなあってちょっと思ってます。

—土居くんって絶対、人のこと悪く言わないよね。
そういう風に心がけてるの? 

うーん…誰のことも否定したくはないな、みたいなことは、思ってはいますね。そもそも、あんまり人のことは悪く思うことがない。悪いと思うことがあっても、ちょっと良い面があると、まぁこういうとこもあるしな、みたいな感じで思いますね。そうすれば自分としても健康的でいられるかなとは思いますね。

—すばらしいですね。そんな古くからいる土居くんだけど、どうして小杉湯で働きはじめたんだっけ?
大学1年生の時に一人暮らしを始めて、アパートを借りたんですけど、そこがたまたま小杉湯の目の前のアパートで。小杉湯について何も知らずに住み始めたんです。それからは近いという理由で、一人で通いだしました。一人暮らしを始めてすぐは、ちょっと寂しさもあったんですけど、小杉湯って、知らない人ばっかりですけど、周りに人がいてくれたり、ちょっと番台の人が話しかけてくれたり、心休まるところがあって。それから、友達を連れてくるようになりました。それまで友達と一緒に風呂に入るって経験がなかったんですけど、一緒に入ってみるとすごい腹割って話せたりしていいな〜って思うようになって、どんどん好きになって通ってました。それで、僕、EMC※がすごい好きだったんで、EMCのTシャツを着て小杉湯に行ってたら、それをきっかけに佑介さんに話しかけられて、存在を認識してもらえて。で、僕が大学1年生の冬…2018年の2月に、小杉湯深夜清掃の募集をツイッターで見かけて、そこで応募しました。応募動機には、今話したことみたいな経緯と、結構熱く“働きたいです!”って意気込みを書きました。そしたら佑介さんから「いつもEMC着て来てくれてるよね」って連絡がきて、色んな話をして、でもその時は採用されなかったんですよ。
※EMC:ENJOY MUSIC CLUB 2012 年結成 3 人組ラップグループ

—え!?そうなの!?知らなかった!(笑)
そうですね。(笑) 一回採用見送られました。話した時は“結構いい感じの好感触だな〜”って思ってたら、「ちょっと今、他に採用したい人がいる、ごめん」みたいな。ただ「また頼むかもしれない」っていう風に言われて。そこからも小杉湯には通い続けてたんです。改めて2018年の5月くらいに、「今ちょっと人手が足りないんで、やってくれないか」って頼まれて働き始めたっていうのが経緯です。

—そっか。2018年5月〜2021年3月末卒業だからだいたい、3年?一度は選考に漏れつつも、「働いてくれ」って言われて、実際深夜清掃として働いてみてどうだった?
僕が入った時は、今の深夜清掃とはだいぶ雰囲気が違って。今は3人体制だけど、当時は2人体制。大坪さん石原さん、僕、おぺさん、さきさん、という少ないメンツで回して、あまり会話をしてた覚えがなくて、わりと黙々とやる感じでした。最初は仕事を覚えるのに必死で、2時間あっという間でした。でも次第に余裕が出てきて、今まで掃除の仕事はしたことなかったんですけど、なんかこう…やってる時は無心になれて、終わった後は綺麗なところを見て気分いいなっていうのが最初の印象でしたね。それから、しばらくたって他にもメンバーが入って来て、ちょっと小杉湯全体が仲良くなって来たというか、なんていうか…ホーム感が強くなってきた感じ。

—ホーム感ね。居心地がいい感じがあった?
小杉湯の清掃を始めてからは、仕事以外でも毎日お風呂に入りにいっていたし、バイトの人達と飲み会が増えて、仲良くなろうっていう雰囲気が増した。普段関わりのない番頭とか番台の人とかとも顔見知りになったりして。大学3年生くらいの時とかは、小杉湯に行けば絶対誰かいるし、毎回ちょっと話して帰るみたいな。なんか落ち着くというか、ホーム感が出て来ました。掃除するときも、みんなでふざけたり、仕事が終わった後に話したり…生活に占める小杉湯の割合が、どんどん大きくなってました。あと、小杉湯に入って佑介さんと話して、こんな若者の話にも耳を傾けてくれて、すごいフランクに接してくれて、“あ、こういう大人もいるんだー。いいな、かっこいいな”って最初にそう思ったのを今思い出しました。小杉湯で働く人って、年上でもすごいフランクに、対等に接してくれる感じがあって、それはみんなに共通してるなって思いますね。上下関係だとか、同調圧力みたいなものが…僕そもそも得意じゃないんですけど、小杉湯は本当にそれがなくて、すごい居心地良かったなって思います。

小杉湯で得た事

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—土居くんは深夜清掃だけど、その仕事以外でも小杉湯の色んな事に参加してくれてたよね。
はい、そうです。夏至祭のお手伝いもしたし、URBAN SENTOという企画では、URBAN RESEARCHの本社に行って、清掃チーム代表として意見を出したりしました。あと、昔は小杉湯でライブが開催されて、それこそ僕が好きなEMCの江本さんを招いていて、その時は「僕も何か手伝わせてください!」って言って、設営とかをやらせてもらったり…そういうイベントのお手伝いはさせてもらいました。知れば知るほど、小杉湯って色んなことやってて、面白いしかっこいい銭湯だなって思った。それまで“銭湯”っていうもののイメージが、そもそもあんまりなかったんですけど、小杉湯に影響受けて銭湯にもハマったし、小杉湯を見て“格好いい、今時のイケてる文化なんだ”っていうのを発信したいなと思った時期があって、僕も友達と何人かで『早稲田大学銭湯愛好会』っていう団体をつくって、ツイッターで発信したり、“銭湯愛好会”って書いてあるTシャツもつくってオンラインで販売したりしてましたね。

—えー!そんなのやってたんだね。深夜清掃の仕事をする中で、自分なりのこだわりとかってあった?
そうですね…こう言っちゃちょっとあれですけど、頑張りすぎない。一生懸命掃除して、すごい頑張って、でもそういう人って結構体調崩してすぐやめちゃったりすることが多くて。深夜清掃は夜中にやるものだし、もちろん頑張らなきゃいけないんだけど…メリハリをつけてやる。あと結構僕は、一緒にやってる人たちから学ぶことが多くて。例えば岳さんとかは、新しい方法をすぐに試そうとするんですね。「これこっちにした方がいんじゃない」って既存の方法を疑ったり、普通の掃除のメニューにはないことをやったり、すごい向上心があった。僕自身は、慣れた方法でやっていたので、そういう新しい考えを取り入れなきゃダメだなって思ったり。小杉湯は掃除の仕方がどんどん変わったりして、自分なりに新しいものを受け入れるようにするし、自分もこうした方がいんじゃないかなって探したりするところは意識してたことですかね。

—人との関わりの中で気付いたり、学びがあったりしたんだね。
そうですね。あと、小杉湯ってシフトが固定なので、金曜はずっと僕・えっぐ・石川さんだったんです。で、石川さんが辞めちゃってから、入浴剤の片付けを全部石川さんがやってくれてたってことに気付いて。実際自分がやってみるとモノによっては結構大変なんですよ。そういうのをいなくなってから気付いて。いつもやってくれてたんだなって思って、そこから自分が積極的にやるようにしたりだとか…そんな気付きもありました。掃除に関しては、教えられることの方が多かったなって思います。

新社会人

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—小杉湯、そして学校も卒業しまして、新社会人じゃないですか。結局なんの仕事に就いたんでしたっけ?
映画の会社です。企画と、その先を立ち上げるプロデュース業、それを宣伝して、劇場に配給する、公開した作品のDVD作成やネット配信、その場合の版権利用の作業、作品のグッズ作りや、後は演劇もやっています。映画館という土地を持ってたりするので、不動産的な仕事もありますし、幅広いことをやっている会社なので、今は会社にある色々な業務や部署について学んで、6月から配属になって現場で働き出します。僕自身がこれからまだ何をやるのか分からないですし、学んでいる最中って段階です。

—その仕事を選んだ中で、将来的にこんなことがしたいなっていう夢はあったの?
そうですね。とにかく一番は、映画界に貢献したいし、映画ってものを少しでも存続させたいし、映画を好きだなって人を増やしたいっていうのは思ってますね。映画や音楽、本とかすごい好きで、作品によって自分が教えられたり影響を受けたり、学校の勉強よりも、それらから受けた影響が大きい。映画は、単館系でちょっとマイナーな作品が好きだったりしたので、最初はそういうのを作りたいって思って大学生の時に、別の専門学校に通って、映像制作の授業を受けてみたんです。だけど「あぁ僕にそこまでの表現欲求もないし、伝えたいメッセージもまだないし、あまり向いてないな」「無理してもしょうがないな」と思った。それなら…って考えて、大手の映画会社だけど、そこが作る映画をきっかけに僕も映画を見始めたので、そういう大きな、いろんな人、みんなが見る映画がないと、小さい映画や、ミニシアターにも行くきっかけにならない。そういう意味で、自分の向いてることとやりたいことのバランスを考えた時に、今の会社でやるのがベターかなと思って、選びました。まあでもこれから先まだやりたいことができたら、やってもいいし、今の仕事にやりがいを感じていって、自分も楽しいと思えるならそれを続けていこうと思ってます。

—そうか〜。なんか小杉湯で働いたことがそういう中で活きそうなことはある?
そうですね…何だろう。小杉湯にいると、本当にいろんな人がいて、今まで会ったことない、すごい年上の人とか、音楽やってる人、何かを作ってる人とか色々いて、“誰のことも否定したくない”って言ったんですけど、そういう意味では小杉湯にいて自分の中の価値観が広がった部分はあって、それがすごく活きるなって思います。佑介さんとか、ガースーさん、岳さんとかみたいに、フラットに接してくれる大人がいるコミュニティにいたんで、自身もそういう大人を目指したいし、もし会社でチームを持つようになったら、そういう集団を目指したいなって思いますね。あとは小杉湯って“銭湯”という古くからあるものだけど、新しい価値観を発信して、止まらずに挑戦している姿勢なんかは、僕が働く映画業界も近いところがあるのかなというのを思っていて。そういう姿勢は見習っていきたいなって思いますね。

—土居くんってこんなしっかり喋る子なんだね。いつもいじられてる印象だからさ(笑) この企画があって、話ができてよかった。無理をせず、自然体で生きながら、いろんな人の学びを取り入れるみたいなのが土居スタイルなのかね。
そうですね。最初も言ったんですけど、誰のことも否定したくないし、なるべく分かりたいと思うし、そこから自分にないものは素直に学びいれていきたいです。

わたしの湯 君なら大丈夫だよ

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離れて、会えなくなって、その人の素敵さに気づくことって人生の中でざらにあって、でも近くに居る時にそれに気づけたらやっぱりもっと良いなって思うから、わたしの湯はこれからもずっと続けたいって改めて思ったな。
美帆さんが昔、“小杉湯でバイトしてました!”って胸を張って言える職場にしたいって言ってて、実際既にそうなってるんじゃないかと思うし、土居くんもそれを作ってくれた一人だし、なんの権限もないわたしから一言“土居くんなら大丈夫だよ”って言葉を差し上げます。3年間お疲れ様でした。
                             つっつー

今回の登場人物 小杉湯のひとたち

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Photo gallery by Gota Shinohara

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